第2話 遭遇

 頂上に着けばもっときれいなのだろうと考え、友人に聞いた。「後どのくらいで着くん? 」ペットボトルを閉めながら、「ニ十分しないくらいかな」と教えてくれた。

 「シャラン」ふと友人の動きが止まった。俺が呼ぼうとすると友人は口に人差し指をつけ、「シー」とポーズをとった。「シャラン」その時、俺にも聞こえてしまった。

 動けなかった。辺りを見回し、また友人を見た。友人はスマホに何か打っていた。打ち終わったのか俺に画面を見せる。そこには「出来るだけ音を立てず、下を向いて山を下りよう」と書かれていた。俺は「うん」と頷きながら音を立てずに歩みを始めた。やけに山が静かで怖かった。「シャラン」後ろから聞こえ、体が跳ね上がる。足元を見て歩みを進める。友人が前の方に居るのを視界の端でとらえていた。

 「シャラン」ふと前から聞こえた。視界の端で朱色の布が見えた気がして足元を重視した。息を殺すように歩みを進める。「シャラン」右耳の鼓膜が揺れ、横を見そうになり、すぐに目を瞑った。白色の髪の毛が見えた気がして覗き込まれているのではないかと脳みそが処理してしまい。俺の想像力が下手に働いたことを後悔した。

 ひたすらに怖かった。もしかしたら、もうこの山から出られずに鈴の音を鳴らす化け物に喰われるのではないかなんて考えた。ずっと震えが止まらなかった。しかし、蝉の声が五月蝿いことに気が付いた。斜面が終わり、見慣れたアスファルトが見えた。よかったと前を向いた。

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