4作目・皇帝陛下の懐刀――帝国宰相・柳井義久

【作品名】


皇帝陛下の懐刀――帝国宰相・柳井義久 山﨑 孝明

https://kakuyomu.jp/works/1177354054898606236



【レビュー】


 ― 政治メインで読ませてしまう恐ろしい本格SF ―


 本作は本格SFでありながら、その比重が政治、外交と言った国家運営に置かれている点が特徴的と言えるのではないでしょうか。

 それでいて、本格SFに於いても兎角間延びしがちな政治に関する描写で読み手を引き込んでしまう(他作品に比べてその量が圧倒的に多いにも関わらずだ)。そこがこの作品の特徴であり、そこに作者の凄みを感じます。


 更に主人公は、オジサン、窓際、独身、自己評価低い、望まぬ立身出世、と流行りの要素をそれなりに盛り込んでおきながら、それを一切あらタイで匂わせないと言う作者様の拘りも高評価。


 単にSFとしてみた場合でも、その練り込まれた世界観と時折顔を出す破天荒なオリジナリティ(税務署員が宇宙戦艦に乗って税金の取り立てに(攻めて)来るって何よ)、そしてそれを過不足無く描き出す文章力。私が読んだここ5年位のSFweb小説の中では出色の出来と言って良いでしょう。


 勿論、万人受けする作品ではないでしょうし、見慣れない地名、人名が頻出する事による読み辛さと言った面は他のSF小説同様です。

 ですが、タイトルやあらすじで敬遠してしまったと言う人には是非一度読んで貰いたい作品です。


【作品紹介】


 さて、今回ご紹介するのは(も)SFです。「お前SFばっかやないか!」と言う声が聞こえて来そうですが、元々私は歴史系よりこちらの方が好きだったと言う点と、自分でも歴史系を書いている手前、どうしても歴史系の作品は粗が目についてしまったり注文が多くなってしまう(そうでない作品は今更私が紹介するまでもない人気作が多い)のです。


 という訳で、今回紹介するSFはこちら、『皇帝陛下の懐刀――帝国宰相・柳井義久』です。

 VRMMOや転生チート物ばかりが幅を利かせるSF界隈で既に一定の評価を得ており、改めて私が紹介するのかどうか迷うレベルですが、大好きなので紹介しちゃいます。


 レビューでも書いた通り、本作は政治的な話を中軸に据えた珍しいSFですが、それを草臥れたオジサンがボヤきながらも解決していくのもまた魅力だったりします。

 まぁ、最終的には腕力(軍事力)で片が付いたりする展開も多いのですが、軍を追われ、PMCの現場責任者となっていた冒頭から、貴族領の臨時指揮官、クーデター軍の参謀的な立場と、無理難題を押し付けられるては解決し、結果本人が望まぬ立身出世を繰り返し、最終的には帝国宰相へと上り詰めるも、結局は無理難題をボヤきながら解決する羽目になる。そんなお話です。


 レビューにも書いた通り、ここ数年の流行の一つである『片田舎のオジサン』的な要素を取り入れつつ、それを押し出さないスタイルも私としては高評価なのですが、投稿開始が2021年と言う点を考慮すると作者様御本人はそうした意図は無く、むしろその様な評価に忸怩たる思いを持たれているのかも、とも思ってしまいます。


 文章は硬派なSF的な硬さを持ちつつも、それ一辺倒で無く、ユーモアも散りばめられたり、説明部分を書物からの引用の体で描く、主人公の報告書の体を取ると言った小技も効いている為、SFをある程度齧っている人なら読み辛いと言う事も無いと思います。

 既に200話100万文字を越えている超長編ですので、これからの秋の夜長に是非読んで頂きたい一作です。

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