第23話 異星の人達とわたし ③
ブリーフィングルームに到着。
「どうぞ、お掛けください」
わたしは、異星の客人に着席を促す。
対面式でわたし達は座る。
ちなみにアリスはミニ状態でわたしの側に待機。
わたしは、遠隔操作で注文していたお茶を全員分用意し、客人である、ナナナ姫様達から配る。
「どうぞ」
わたしは、お茶をすすめる。
「お待ちを!やはり、ここはワタクシがお毒見をっ!」
緑の侍女、ルルルが案の定がっついてくる。
この事について、ミミアさんが何も言わないのはきっと毒見が彼女の役割だからなのかな?
お茶を一口飲む。
ゴクリと時間をかけて嚥下。
いやいや、テイスティングじゃないんだから…
そして、見るからにしょんぼりして…
「これは、毒ではありません」
当たり前だ!
いきなり、毒を盛るヤツがあるか!
てか、お茶でしょんぼりするな!
さては、さっきのポテトフライとコーラで味をしめたな!
その様子を見て、ミミアさんがカップを持ち上げる。
嗚呼、まるで中世の貴族の貴婦人の様な優美な所作だわ…
「ふむ…茶というのは、どうにも似た様な味わいな様ですね」
お茶の感想を。
どうやら、ミュリッタの人達のお茶と似ているらしい。
「さて、では先ずこちら側の説明を簡単にさせて貰います。ドクター、お願いします」
わたしは、先ずこちら側…つまり、地球についてからの説明をドクターにお願いした。
太陽系という惑星群にあって、そこの第3惑星が地球で、わたし達はその地球人で、みたいに。
「成る程、そちら側のルーツというわけですね?実に興味深く思います。では、こちら側について…」
ミミアさんは語りだす。
彼女達は「アリンナ恒星」という、恒星を軸とする惑星群の中の第2惑星「ミュリッタ」の人達だそう。
「ほほう…太陽系と、そうですね『アリンナ恒星系』と呼ばせて頂くが、アリンナ恒星系はかなり似た作り、というか形状の宇宙をしているようですな」
ドクターの感想に「確かに」、とミミアさん。
次に、ドクターは簡単に地球の文化について説明。世間の事情を省いたのは、まぁ、説明したらそれこそ何時間もかかるからだと思う。
「成る程…『科学』という技術が基盤として、多様な人種、国家から成り立つ惑星であると。それに、男女は平等、ですか…」
ミミアさんは非常に熱心にドクターの話を聞いていて、時折質問なんかもしていたわ。
でも、やはりネックというか、ミュリッタの人々にとっての衝撃は『男女平等』である事だったみたい。
三姉妹は説明のため逐一、「「「なんと!」」」、「「「そんなバカな」」」みたいな分かりやすいリアクションを…
「成る程、些か衝撃ではありますね、文化や歴史の違いというものは。では、我らの方ですね…」
ミミアさんは説明する。
話から分かった事は
文化レベルは、おおよそ中世ヨーロッパ。
技術レベルは、おおよそ産業革命初期の機械が出始める頃。しかし、機械。ミュリッタでは魔導技術というらしいけど、魔導技術は基本的にはロストテクノロジーであり、新たなものを生み出すことは不可能であり、今ある技術を適性のある者が許可を得て使用している。
魔法が存在する。
そして、何より…
完全な女性社会であり、『女尊男卑』が文化の根底にある事。
これは、ミュリッタ、というかアリンナ恒星系の創世神話に起因する事の様。
そして、その文化、教えは高貴な身分になれば成る程浸透し根深いものだそうです。
これを聞いて納得したのが、三姉妹のリアクションの数々。
彼女達はそこそこのランクの貴族の子女であり、幼少からナナナ姫のお付、護衛として共にあるそうです。
最も、ミミアさんは「個人的には場合によっては柔軟性も必要」と思っているそう。
また、お姫様のナナナ姫は、「わらわはそんな事気にしてないのじゃ」とまあ、そんな文化の王族らしからぬ発言を。
こうして聞いてみると、太陽系とアリンナ恒星系はなんとなく似てる気がするわね。
「ミミアさん。わたし達は母星の地球を目指しています。難民は、ブリッジクルーを含めおおよそ100名です。皆1日も早く地球に帰れることを願っています」
前置きをして、どうしてわたし達がここにいるのか、どういう状況だったのかをお話する。
ミミアさんは、わたし達の事情に深い理解を示しているように見えた。
「成る程、では、我々の事情も説明せねばなりませんね」
こうして語られるミュリッタの危機…
先ず、ミュリッタをはじめとする、アリンナ恒星系に、他星系からの侵略者が現れた事。
その侵略者達は遥かに協力な魔導技術…つまり科学技術を有しており、ミュリッタの人々では歯が立たなかった事。
ナナナ姫は王家の末姫として、伝説にある、ミュリッタの危機を救うという『白銀の太陽神』を探し出すため、王家秘蔵の魔導技術の船、つまり例の宇宙船に乗り、わずかな臣下と共に母星を脱出、逃避行を続けていた。
こうして、逃避行の最中、後方から迫る追っ手を振り切るためにあえて前方に発生していた時空乱流に飛び込んだそう。
そして、時空乱流を抜けた先がこちらだったという。
「ナナナのお陰で貴方方が救援に来てくださるのが分かっていたので大きな混乱は起こりませんでした。それでも、ママヤには気の毒な事をしてしまいましたが…」
うん?
気になる!
「あの〜…ナナナ姫様のお陰とはどういう事ですか?」
彼女何か特別な力とか持ってるの?
「よくぞ聞いた!わらわは時折未来を予知できるのじゃ!凄い魔法であろう?わらわにしか出来ぬことなのじゃ!」
得意気に立ち上がるナナナ姫様。
予知、かぁ…
わたしはヒメカを見る。
青い顔してる…
お腹が、空いたのね…
さっき、ポテトフライ強奪されちゃったしね…
それにしても、ホントにそっくりさんが隣同士で座っている。
ヒメカも予知じみた事をたまにするけど、何か関係あるの?この2人は…
「成る程、さすがナナナ姫様ですね。先程の怪我をされていた…ママヤさんでしたか?彼女だけなぜあんな大怪我を?」
それについては、ミミアさんは本当に、申し訳なさそうに痛ましい感じの表情。
「あの魔導船は適性のある者にしか動かせません。ママヤにはその適性があり、ミュリッタからの逃避行の間、操縦を任せていました。しかし、追っ手の攻撃や時空乱流に飛び込んだ衝撃で操縦席が小さな爆発を起こしました。ママヤ1人に強い衝撃が与えられてしまったのです」
成る程。
仕方なかった事なのね…
「しかし、あの手当では、あまり効果を見込めません。なぜ適切な医療を施さなかったのです?」
人命を第一に考えるドクターが深掘りする。
それに「「「無礼な!」」」とかシンクロして言ってくる三姉妹。
それを、「控えよと申しましたよ」と制するミミアさん。
「イリョウとは?段階に応じて治癒魔術による治療は施してはおりましたが…」
!?
ここに来て衝撃の発言。
医療を知らない?
そもそも、医療というか、医術が存在しない文化なの?
「成る程。傷病者の治療という点でも大きな文化的な差がある様ですね。事情を知らず失礼した。それについてはまた別の場を設けて詳しくお聞きしたい」
確かに、魔法での治療というのがどういう物なのか気になる…わたし達にとって魔法はゲームや漫画、アニメの世界の物だから。
そして、この状況を上手くまとめるドクター、さすがです。
「さて、わたしとしては、しばらくの間、皆さんを保護したいと考えています」
話題を変えて、ミュリッタの人達の処遇について落とし所を見つけないと。
「それは、痛み入ります」
ペコリとミミアさん。
「今のお話から、申し訳ありませんが、しばらくの間は、わたし達地球人の居住区とは別の居住区画での生活をお願いします」
あきらかに違う文化、いきなり一緒に生活したら衝突は必至よね…
「承知しました。賢明なご判断です」
ミミアさんも事情を察してくれているみたい。
後で、各装置の使い方の説明をする旨も伝える。
「提案だが、落ち着いたらお互いの文化や歴史などを互いに勉強する場を設けられないだろうか?艦長」
ドクターの提案。確かに、お互いの文化、歴史が分かった方が良いし、わたしも初めて接触した異星の文化に興味があるわ。
ミミアさんもドクターの意見に同意みたい。
「それから…目的地について、ですが。わたしはやはり地球を目指したいです。100人の難民の方々も、理由も分からずこの艦に乗ることになり、不安な日々を送っていますし…」
それについて、三姉妹が反応しようとしたところで…
「かまわぬ!どうせ『白銀の太陽神』を探すにしろアテはないのじゃ…なれば、この者達と一緒の方が、面白そうなのじゃ!のう?ヒメカ?」
ナナナ姫様のあまりにも的を得た発言に三姉妹も黙る。
でも、面白そうって…
さっきの、ヒメカに駆け寄ったアグレッシブさは、この方の振り切った好奇心によるものなのね。
それにしても、そっくりなヒメカが気になるみたい…って、ヒメカが白目向いてるわ…
いけない!
早く何か食べ物を与えないとっ!
「とりあえずの話し合いはこれまでとして、また定期的に会議をしたいと思います。それでは、皆さんの居住区へとご案内します」
こうして、ミュリッタ人とのファーストコンタクトは無事に終了。
ミミアさんがとても理知的で冷静で助かったわ。
それにしても、思っていた以上に文化や、歴史の違いがあるみたい…
何も、起こらないといいけど。
とりあえず、今は、ナナナ姫様達をゆっくり休める場所に連れて行くのと、ヒメカに何か食べ物を与えないといけないわ。
わたしはナナナ姫様達、ミュリッタ人の方々を居住区への案内を始めるのでした。
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