第15話  ヒトの心、わたしの心 ④

あれから3日。

わたしは落ち着きを取り戻していた。


泣きじゃくった次の日の朝イチでヒメカが大量のスイーツを抱えて部屋に来てくれた。

あの娘なりに、わたしを励ましてくれようとしていたのはわかるし、素直に嬉しかった。


けど…


量が尋常じゃなかったわ。

わたしは元々たくさん食べる方ではないので、その殆どをヒメカが食べるのを見ていただけね。


先生は先生で、過保護なまでに心配してくるし…

事ある事に「エリィシアさんに何かあったら、引率教員として大変なのっ!先生のクビがおチョンパされちゃうの?ねっ?ねっ?自分の事、大事にしてね?」って…

わたしに何かあっても先生のクビはおチョンパされないと思うけど…

先生、そういう所が少しポンコツなのよね。まぁ、そこが可愛らしくてあの先生らしいけど。


ドクターからは、「自分の見立てが甘かったがために、キミを辛い目に合わせてしまった。申し訳ない」って、謝られて…


麗玲さんは、「おい。昨日ぶつかった時、謝りもしなかったな。どういう料簡だ?」と、凄まれたけど怒ってはないみたい。多分、ドクター達から事情は聞いてると思う。

それから艦長服を見て。「馬子にも衣装ってところだな。せいぜい服に着られない様にしな」だって。

一応、お祝いの言葉だと受け止めておきました。


リッカさんは、会ってない。きっと、今日も格納庫で奇声をあげているに違いないわ。

それはそうと、あの人、お部屋に戻ってる気配がないのよね。

もしかして、格納庫でずっと過ごしてるとか…

まさか、ね。


アリスは戦闘中以外では今は呼ばなければ出てこない。それでも、艦の中の出来事は逐一把握しているみたいで、あの娘なりの慰めの言葉をもらったのと、リッカさんの奇行について、その、いわゆるグチね。グチってたわ。

艦のメンテナンスや機能の復旧作業みたいなのに注力してるんでしょう。


一方、蟲は…

来るけど、はじめに比べたら大した事ない。

強い蜻蛉やムカデも姿を見せない。

麗玲さんにすれば「ザコムシばかりだからと言って油断するな」みたいなところかしら?

見方を変えれば、わたし達の様子を伺っているのかも?でも、蟲だし、そんな知能はないよね、きっと。

蟲の生態は未だに分かっていない。

ただ、『共食い再生』と『共食い進化』という厄介な特殊能力を持っていることがわかるだけ。


実際の虫に似たような能力みたい。

『敵を知り己を知れば百戦危うからず』

なんだけど、女の子が虫図鑑とにらめっこするのは、ちょっと…

うん。調べようとする気持ちはあったのよ?

最初の2匹くらいで心折れたけど。

普通に、気持ち悪いし…


今も、蟲との戦いを終えたところ。

システム時間的には22時。

時間的には夜だからとりあえず、今から寝る準備。

シャワーをして、湯船に入って、暖まる。

わたしはしっかり湯船で暖まる派ね。

お風呂から出たら、冷たくてちょっぴり甘いドリンクを飲んで、少しストレッチ。


そして、寝巻きに着替えたわたしは今。

設置した目安箱の中身を回収してきて見てみようとしているところ。

思った以上の投稿があったわ。

どれどれ…


無作為に1枚取ってみる。

[艦長さんがまだ高校生で少しビックリしました。お衣装が素敵でした。あなたがいてくれて正直ホッとしています。色々と大変でしょうが、頑張って下さい。私たちは応援することしか出来ませんが、頑張って下さい]


[かんちょうのおねいちゃんいつもありがとう]


な、なんて温かいお言葉なの…


[私たちも落ち着きを取り戻し始めていると思います。子供達の勉学の場というか、塾の様な勉強とコミュニケーションを両立できる場が必要かと思います]


成る程、勉強の場ね。

先ずドクターや先生に相談してみよう。わたしやヒメカも高校生だから勉強はしなくちゃね。それから、難民の方々の中で講師とかができる人を探して声をかけてみようかしら?


[その、ごめんなさい。不安で、ついあなたに当たってしまいました…でもないのはわかっていたのだけど…服、似合ってて可愛かったわ。こんな事言えないけど、頑張って下さい、ありがとう。それから、大人の社交場、バーみたいなのあれば程々に通うかも。あっ、カフェみたいなのもあればもっと嬉しいかな?]


あっ…

落ち着きを取り戻したのはわたしだけではなかったんだわ。

きっと最初にわたしに当たった方ね。謝ってくれるんだ。なんか、嬉しい。

それにしても、バーにカフェ、か。ドクターに相談してみよう。


[あ~その。身体鈍っちゃうから運動したいんだよね。トレーニングジムみたいなのとか欲しいし、公園でランニングとか、なんか幾つかのスポーツのコートみたいなのもあったから使ってもいいのかな?あと、サウナ欲しい!]


確かに。身体を動かすのは大事ね。

わたしも、アーチェリーしたいし。

設備の事はアリスね。聞いてみよう。


[食堂のシステムは凄くて助かるけど、たまにはお料理したいわ。出来合いのモノではなくてお野菜やお肉といった素材を頂ける様なシステムはないのかしら?]


確かに。

各ご家庭の味や、折角公園にバーベキュースペースみたいなのあるから、使ってみたいよね。アリスに聞いてみようかしら?


暖かい言葉。

励ましの言葉。

感謝の言葉。

謝罪の言葉。

どんな事に困っているか。

何が欲しいのか。


目安箱に色々投稿してもらえて、皆さんの事がわかって、少し安心。



でも…



次に取った1枚が、わたしの脳を停止させる。




あっ…


[何いい子ぶってんだ?ムカつく]

[お高く止まったお嬢様がっ!]


うっ…


[ノイマンって、天照重工のお偉いさんでしょ?ウチの夫の会社は天照重工に買収されて、リストラされたわっ!!]


えっ…かんけい、なくない?


でこんな目にあってるの。夫と娘を返して!]

[大好きなグループのコンサート行けなくなっちゃたの!返金してよっ!折角取れた貴重なチケットだったのにっ!

[学校行けないじゃん!単位ヤベーんだよ!どーしてくれるんだよっ!単位落としたら留年なんだよっ!留年したらなっ!お嬢様だろ?金出せよな!保障しろっ!]


えっ…と…


[なんでもいいからさぁ、とりあえずヤラせて]


な、なに?

ヤラせてって?


暖かい言葉、ごくごく普通の要望の中に…

混ざってる。


ご、ごめんなさい…


やっぱりなんだ…

悪いのは

なんだ…


ごめんなさい…

ごめんなさい……


わたしの中にまた、罪悪感がとめどなく溢れ出てきて…

目から涙がこぼれ落ちるのでした。

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