第13話  ヒトの心、わたしの心 ②

朝からてんやわんや。


そう、それもそのはず。

今日はわたしの艦長挨拶の日。

ドクターやリッカさん達が準備を整えてくれている。


そして、わたしはと言うと…


「うんうん!素敵っ!カワイイっっ!さすがよ、エリィシアさん♪」


ナギサ先生の作ってくれた艦長服を着ているところ。


トップスは白を基調とした凛々しい詰め襟のジャケット。袖口や縁にはキラキラと金色の刺繍。ジャケットの下には首元が引き締まって見える白いシャツを合わせるみたい。首にはわたしの宝物のペンダントと合わせて付けられる小さいブルーのスカーフ。

ボトムスはハイウエストの少しタイト目の黒のプリーツスカートに黒のレギンス。金の刺繍がしてあってとってもステキ。ちなみにスカートの下には勿論、アレが黒のショートパンツ。

スカートやジャケットのボタンも金色に統一。

靴は黒のローファー。白い手袋も付いてる。

同じく白のベレー帽。金色で装飾がされているわ。帽子は、嬉しいっ♪

そして…

「せ、先生。これ少し重くないですか?」

最後に着せてくれたのは真っ白い腰くらいまでのポンチョ風マント。マントには金の肩章がしてあって何て言うか威厳を感じるわ。

「これ?ああ、アリスちゃんの要望で立花さんが生地を用意してくれたの。防弾、防刃、防炎素材で出来ていて防水加工もしてあるの。着ていれば貴女を守ってくれるわ。少し重いけど、風通しはいいから熱くはならないわよぉ〜」

嬉しそうに説明する先生。


な、成る程色々とわたしの身を考えてくれてるのね。

というか、リッカさんこんなモノも作れるのね。


うん!

艦長服のプレゼントとか、素直に嬉しすぎる!

気合も入るものね!


それにしても


「どうかしましたか?エリィシアさん?」


「あ、はい。変な刺繍とかされてないか心配だったので…」


わたしの脳裏には『あの映像』で見た鬼子母神の旗。何故か、ナギサ先生の知られたくない過去に詳しいリッカさんが

[あの鬼子母神の旗、爆速女帝デンジャラス・エンプレスの手縫いらしいぜ]

とか言ってたから…


「変な刺繍とは何ですか!?変な刺繍とは?先生、変な刺繍なんかしたことありません!」


だから、あの鬼子母神…


「鬼子母神とか知りませんっ!ささっ!良い感じね。動いてみてきついところとかはないかしら?」


しらを切るつもりね、先生。

まぁいいけど。

わたしは部屋の中を歩いてみる。


うん!

全然平気っ!

寧ろ、動きやすいまであるわ。

恐るべし、ナギサちゃんの紡織力。


ちなみに、化学繊維なら食べ物みたいに自動で作ってくれるシステムがあるんだって。


わたしは艦長服が嬉しくって姿見の前でくるりと回ったり、ポーズを取ったり、敬礼してみたりする。


「あ、エリィシアさん。敬礼をする時は五指を揃えて掌は相手に見せてはダメですよ。掌を見せるのは失礼にあたります」


そ、そうなんだ…

知らなかった。

何で先生はこんな事知ってるんだろう…


「あっ、時間ねティルナノグに行きましょう」

時計を見ると間もなく挨拶の時間。


ううっ!

たくさん練習はしたけど、緊張するっ!

わたしはお水を1杯飲んで、先生と一緒に居住区ティルナノグに向かうのでした。



ガヤガヤ…

ガヤガヤ……

ガヤガヤ………


居住区ティルナノグの公園内。

改めて来ると結構広くてビックリ。

既におおよそ全ての難民さん達が集まっている。


そして


目立つところにお立ち台。

これに乗れということね。


「みなさん、お集まりで何よりです。では、今から以前からお話していたこの艦の艦長にご挨拶をお願いしましょう」


ドクターが進行する。


ドキドキっ!

バクバクっっ!!


緊張マックスだわっ


わたしは壇上に上がり、ペコリと丁寧にお辞儀。


「みなさん、はじめまして。わたしはエリィシア・ノイマン。この艦、イルダーナの艦長になります」


ちょっとガヤつく。

そりゃあ、こんな女子高生が出てきたら、そうなるよね。


「わたしは艦長に選ばれました。まだ子供で、未熟者ですが、精一杯務めさせていただきます。至らないところ多々あると思いますが、何かありましたらご指導ご鞭撻をよろしくお願いします」


静かになった…


「さて、いきなり、何処かとも分からない場所に来てしまい不安かと思います。わたしも同じ様に不安です。みなさんにありましては、少し落ち着いてきましたでしょうか?そこで居住区内に目安箱を設置しました。何かご要望やお気付きな点等ございましたらどうぞ遠慮なく投稿してください」


続けるわたし。

ドクターの根回しのおかげがスピーチは順調ね。


「この居住区はこの艦の中で一番安全だそうです。この中にいれば安心であることをお約束できます」


「わたしは、みなさんを安全無事に地球に送り届ける事を使命として考えています。みなさんの事は必ず地球に…」


その時、わたしのスピーチを遮るように


「何で…」


スピーチの最中にボソリと響く女の人の声。


「何で、アンタが選ばれたの?あの時…あの時、もう5分でも10分でも早く、このイルダーナとか何とかは動かせなかったの?」


ガヤガヤ…

ガヤが広がる。


え、えっと、その…


「そうすれば!外にいたシャトルだって!他の人だって!たすけられたじゃない!」


言葉に詰まるわたし…


そうだ!

そうだっ!


ヤジも飛び始める。


「私の、彼氏。隣に座ってたんだよ?なのにいなかったんだよ?」

「そうだ、俺の妻と子供だって!」

「何で、もっと早く動かさなかったんだよ!」


あ、

えっと、

その、


予想外。

全く予想にしてなかった、事態にわたしの頭の中は真っ白に…



「…のせいよ…」


え?

いま、なんて…


「アンタのせいよっ!」

「アンタが早く船を動かさなかったから彼氏は蟲に食べられたのよ!」

「そうだ!お前のせいで、俺は家族を失ったんだ!」

「おれ、あの死神軍師みたぜ」

「うそだろ?不吉すぎるぜっ!きっとあいつの入れ知恵なんだよ、おれたちもいつか見殺しにさせられるぜ?」

「お前のせいだ!死神軍師がいるのもお前のせいだ!おれたちは死にたくない!」




そうだ!

そうだっ!!


お前のせいだっ!

お前のせいだっ!!



り、麗玲さん、かんけいない。。

ヤジ、ううん、人々の悲痛な叫びが広がる。




おまえのせいだ…












わたしには、その一言しか聞こえなくなっていた。


「みなさん、落ち着いてっ!落ち着いてください。」

ドクターが騒動を鎮めようとしてくれている。

ナギサ先生も。

わたしはその様子を見ていながら、見れていなく…


ただただ、ぐるぐると頭の中をこの一言が回る


「「「お前のせいだっ!」」」



涙が溢れ出てくる。

とめどなく溢れ出てくる。。



ご、


ごめんなさいっ!!


ごめんなさいっっ!!!


わたしはいたたまれなくなり、その場から駆け足で逃げ出してしまいました…

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