第27話 ホテルでの一幕
会場の下見を終えて軽い打ち合わせを行った後に分かったことは、俺達はマジでお飾りだってこと。警備には最初から組み込まれていない上に、他の警備員の態度も癪に障った。話しかけても無視され、挙げ句の果てには邪魔者扱い。
そして、セッカがキレた。ホテルに帰ってきた後も不機嫌なままだ。セッカはプライド高いから当然の結果だろう。
今は部屋の奥側のベッドの上で冷気をまき散らしている。どう見てもブチギレです。本当にありがとうございました。
「……」
「……」
ベッドの上半分が凍ってるように見えるけど……気のせいだよな? その後も少しずつ冷気は拡大していき、まるで自分のテリトリーだと言わんばかりに氷の国が出来上がった。この状況で暖房をつけると怒られるのだろうか。
「……セッカ」
「すいません。今止めます」
部屋の空気も二つの意味で冷え切っている。感情的になると冷気が漏れるところは昔から変わっていないらしい。とっくに変身は解いているのに大した出力だ。
そういえば、ヒマリ達はどうしているのだろう。まあ、ヒマリは大事を取って休養中……問題があるとすればホノカの方だろう。保安課で引き取るという話が出たときは、俺も大いに悩んだ。
そもそも、ホノカは異界に対する適正が低い。
では異界攻略に適している魔法少女とは何か。その目安は魔法の出力だ。異界特有の理不尽な
セッカが良い例だろう。セッカはいざとなれば周囲を丸ごと凍らせて……小さな異界なら核ごと異界全体を凍らせるパワーがある。状況がマズくなってもブッパすれば何とかなるのだ。将棋で例えるなら、劣勢になったときも対戦相手を直接ぶん殴ることができる、ってこと。
ヒマリも同じタイプ。いざとなれば全てを吹き飛ばすパワーがある。例えるなら、負けそうになったときに将棋盤をひっくり返す感じ。まだ粗さも目立つが、将来的には第二のセッカになるポテンシャルを秘めている。
対するホノカにはそこまでの馬力がない。あいつはゆっくりと盤面に向き合うタイプだろう。しかし異界は二歩などの反則も平気でやってくる。何なら向こうだけ駒が違う。つまりホノカのようなタイプはカモにされる可能性が高い。
……俺? 俺には特筆すべきパワーがないが、こっそり将棋AIにポエミーなヒントをもらっているので読み勝てる。
将棋で例えてみたが、これなら異界に適正がある魔法少女が分かりやすいだろう。それはズルができる魔法少女。将棋盤をひっくり返すのもAIを使うのもシンプルに反則だ。しかし反則的な強さがなければ異界で戦えないのも事実である。
「セッカ、シャワーは――」
「先に入ってください」
例によって変身を解除してから風呂に入る。その間も俺はホノカのことを考えていた。保安課なら非力な魔法少女でも活躍できる上に、炎という対人向きの魔法もあるのがデカい。ということをコルナに熱弁されたのだ。どうやら俺には分からんホノカの才能を見抜いたらしい。
あれから心配だったので何度か様子を見に行ったが……機密がうんたらで詳しい内情は分からなかった。不安である。
「ドライヤー貸して」
「……わかりました」
セッカからドライヤーを受け取って……セッカは猫のような俊敏な動きですっと引っ込んでいった。警戒するような目つきで見られたが意味が分からない。
やがてセッカも落ち着いてきたのか、冷気は止まり、氷の国はゆっくりと溶け始めている。びしょびしょに濡れたベットを見るセッカの姿が、妙に哀愁が漂っていて笑いそうになった。
「私はまだ頭を冷やす必要がありそうです……」
「私のベッド使えば?」
「……は、ハァ!?!!」
ホテルに言えば交換なりしてくれるんだろうが、ここまで濡らしたなら十中八九怒られる。空気乾燥で証拠を隠滅しよう。
「い、いやそれは……サイズも……窮屈になりますし……」
「? 私は問題ないと思うけど」
ベッドでサイズは変わらないと思うぞ?
「問題ない――!? いえ、やはりホテルに連絡しましょう」
「セッカに任せる」
「うぅ……しかし……」
葛藤するセッカ。そんなに悩むことないと思うけどなぁ。
「し、仕方ありません……今夜だけ……一緒に……」
「じゃあ、私はソファで寝るから」
「え」
「ん?」
それこそ氷のように硬直したセッカ。目を見開いたまま口をパクパクさせる。俺何か変なこと言ったか?
「カステルは……ベッドじゃないんですか」
「いや、だからベッドはセッカ」
「ですから、い、一緒に」
「いやいや、私はソファで寝る」
添い寝なんて大胆だなセッカ!?!? 最近の若い子って距離の詰め方ヤバくない? これが普通なのか???
「それは……私が申し訳ないんので。え、遠慮しないでください!」
「う、うん」
あまりの気迫に思わずうなずいてしまった。……事案の二文字が脳裏をよぎったが、深く考えないことにする。
布団をめくったままの体勢で、セッカがじっとこちらを見ている。
「ど、どうぞ……」
「……うん……」
促されるままにベッドに入った。セッカのスペースを確保するために極限まで端に寄る。が、それでも二人は狭い。互いに背を向けるようにしたが、背中はピッタリくっつき、セッカが身じろぎするのが伝わってくる。事案だこれ!
「狭くない?」
「……だ、大丈夫です」
背中越しにガッツリ密着してるし、呼吸する音まで聞こえる。こうなったら朝まで寝返りはできないな。俺にできることはこの体勢を維持することだけだ。
あとめっちゃ良い匂いがする。
「……むしろ……ちょうどいい……くらいで」
背中が熱い。気まずいけど何か喋るわけでもなく、沈黙が続いていく。まさか二人でベッドで寝ることになるとは思っていなかった。俺は改めて覚悟を決めたが――
――結局セッカが途中で折れたことで、俺はソファで寝た。
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