幕間 マジカル・でいずⅠ

青春! 砂場で話そう!



 俺の朝は別に早くない。

 そこそこの時間に起き、身支度を整えて自転車で学校へ。ちなみにおっちゃんは職場に泊まり込みだ。かわいそう。



 うちの学校は魔法少女を養成するための学校なので、他の高校とは毛色が違う。生徒はほとんどが魔法少女。ごくまれに将来は魔法省で働くような職員の卵をとして、一般人が入っていたりする。

 しかしその大半も女性だ。俺はおっちゃんのコネで入学したので、例外中の例外だろう。



 うちはカリキュラムも特殊だ。座学では異界に関する知識や魔法少女の歴史を学ぶ。理系でも文系でもなく、文字通りの魔法少女系だ。

 そして体育の時間はもっぱら魔法少女の訓練に当てられる。基本的に午後は全部訓練なので、机に向かっている時間は意外と少ない。そもそも午後はシフトの関係で三分の一くらい消えるからな。




「暑すぎる……」



 体育の時間。俺のような一般人は隅っこの砂場で砂遊びだ。校庭ではド派手な魔法が飛び交っているので、巻き込まれたら余裕で死ねる。



「あ、そっちにトンネル繋げてもいい?」

「いいけど、崩すなよ」



 当然だが部長もハブられてる。俺達は砂場で砂山を作ることしか許されないのだ。

 そんな俺達の前には、そこそこ立派な砂山ができあがっていた。

 といっても、スコップでせっせと掘って、バケツに詰めてひっくり返して重ねただけのものだ。



「ここはちょっと固めすぎると崩れるんだよな」

「アキラくん、バケツの水の配分うまいよね……」



 砂は乾いているとすぐにサラサラと崩れる。だから水を少しずつ混ぜながら、しっとりさせてから成形する必要がある。

 俺たちはその加減を何度も失敗して、ようやくバケツ一杯をきれいに固められるようになった。



「トンネル通すならこのくらいの厚みがいるな」



 俺は指で測りながら、砂山の中央を軽く押してみる。まだ脆い。部長は真剣な表情で砂山を見つめながらも、視線ではチラチラと魔法少女を追っていた。

 ちなみに以前、「授業中は魔法少女に囲まれて気が散らないのか」と聞いてみたところ、「変身前と後は別人として捉えている」との回答が返ってきた。その時には一生この人についていこうと覚悟を決めたものだ。



「で、横から掘ると崩れるから、下からすくい上げる感じでな」

「なるほど……さすが砂場歴が長いだけはあるね!」

「言っとくけどブーメランだからな?」



 悲しい青春だなぁ(遠い目)。とはいえ、俺はこの時間が嫌いじゃない。部長と一緒にオタクトークができるからな!



「そういえば、今週の『星屑』見た? ゲストがたいやき☆ハニーだったよ?」

「マジで!? あいつ来てたの?」



 魔法少女イズズが司会をするラジオ番組『星屑ステーション』。毎週他の魔法少女をゲストを呼んでトークを繰り広げる神番組だ。俺のような魔法少女オタクは基本的に視聴必須だが、先週は異界騒動の関係で見逃してしまった。



「あのたいやきって見た目のインパクトが大事だろ……? なんでラジオなんかに出たんだ……?」

「ああ見えて声も特徴的だよね。見た目のインパクトで忘れがちだけど」



 たいやき☆ハニーはそこそこ有名な魔法少女。生で見たのはほんの数回だが、生涯忘れないであろう迫力があった。



「しかも二人は結構親しそうでさー。そこの交流あるんかいっ! って感じだったよ」

「うわ、全く想像できない」

「やっぱり『星屑』の醍醐味は意外な組み合わせだと思うんだ。あ、でも逆にゲストがほぼ初対面な回も好きかな。番組内でちょっとずつ距離を詰めていく様子がサイコーなんだよね! それで終盤には仲良くなってるのが尊い!」

「あ、それ分かるわ。イズズちゃんが放送前にゲストの情報を調べて話振ってるのがいいんだよな。序盤の会話でイズズちゃんのゲストに対する解釈が見られるっていうか、事前に攻略法を練ってきてるのがいい。あ、そうやって攻めるのね? みたいな」




 眼鏡かちゃり。



「だよね!! ゲストによって距離の詰め方が違うのが見所だよ。個人的にはミントハートちゃんが神回だったかなぁ。イズズちゃんの恋バナが聞けるのは後にも先にもないだろうね。本音を言えば全部のゲストと恋バナしてほしい!」

「あーね。マジでイズズちゃんって変幻自在っていうか、初期のころはダウナー系で売ってたけど、今はもうしっかりした子っていう印象だわ。それでもあのちょい低音ボイスが俺を狂わせる」



 かちゃかちゃ。



「あの落ち着いた雰囲気がラジオとマッチしてるよね。あーあ、カステルちゃんも出演しないかなぁ」

「……あー、それこそ難しそうだが」



 ここだけの話、次回のゲストは俺だ。本来のゲストであるセッカに急用ができたので、俺が代わりに出ることになっている。ラジオとか柄じゃないから普通なら断るのだが、異界の件で世話になったからNOとは言えない。あと仲良し大作戦はまだ継続しているので断るという選択肢はなかった。



「絶対楽しいよ! イズズちゃんが何話すか気になるなぁ。カステルちゃんって趣味らしい趣味が公開されてないから、それをきっかけに情報が増えたらいいよね。何が好きなのかも全然想像つかないや」



 ぺかーと輝く笑顔を見せる部長。一番楽しそうだな!



「……なあ、もしカステルが『星屑』出るってなったらどうする?」

「あはは、ないない。言っておいてあれだけど、カステルちゃんの柄じゃないもん」



 手を振って否定する部長。だが俺は知っている。多分今日あたりにゲストの発表があることを。



「まあ……仮に? 仮にだよ? カステルちゃんが出るなら最高だよねぇ。まあでもカステルちゃんはラジオ適正が低いでしょ。トークそのものが上手って印象はないし、無口なイメージだからさ」



 もしかしてカステルって無愛想なやつだと思われてる? いや、別に間違ってはないけど。たしかにイベントなんかでもコメントを求められるのは苦手だ。小粋なトークとかまさに苦手分野。



「もちろんそこはイズズちゃんがカバーするだろうけど、相性は悪そうだよね」

「…………ほーん?」



 それは、挑発と受け取ってよろしいか。

 俺の完璧なトーク術を見せてやるよ!!


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