第4話

「ライル・アランジュには気をつけろ」


執務室を辞してしばらく廊下を歩いたところで、ジャンヌの隣から忠告が降りてきた。

見上げると、アッシュの金の眼が気難しそうに顰められている。


「なぜだ?」

「俺は、一連の魔物騒動の犯人がアイツの可能性もあると思っている」

「…犯人?ライル・アランジュが?」


ジャンヌはアッシュの返答が想定外すぎて、思わず聞き返してしまった。


「アイツは何を考えているか分からない。そして、何を考えているか分からないようなやつが類稀な力を持っている。警戒するには充分な理由だ」

「……」


確かに、ライルは前々から単独行動が目立ったり、魔術師団に所属しているのに愛国心が欠けているのではとよく噂になる男だった。

実際にジャンヌが関わってみても、飄々としていて心の内が読めないヤツだという印象は変わらない。

(──でも)

闇夜で見たあの紅い眼差しは、そんなに非道なものだっただろうか。

少なくとも、気まぐれだったとしても彼はジャンヌが死んでもおかしくなかったところを見捨てなかった。

もっと無体に扱われても文句は言えなかったがそうはされなかったし、あの夜の事を他人に言いふらされたり、重ねて体の関係を迫ったりもされていない。

人として最低限の良心は持っているように思えるのだが。


「お前はすぐ人を信じるからな」

「う″」


図星を刺されて思わず呻いた。

魔術学院の3年先輩で、半年前にジャンヌが騎士団長に就いてからは仕事上組むことも多いアッシュに彼女の思考は簡単に読まれていたようだ。

魔物の異常発生は王国を脅かす一大事。解決のためには先入観にとらわれることや情に絆されること無く、あらゆる可能性を考えなければならない。


「…───了解、しました」


仮にも命の恩人を疑うのは忍びないと思いつつも、ジャンヌは黒百合の騎士団長にそう返事をしたのだった。




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メディウム(カンパニュラ・メディウム):キキョウ科

誠実、節操、煩い

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