ノスリ

ざきさん

第1話 ノスリ、空を目指す

 猛禽類と言えば何を想像するだろうか。


 猛禽類とは、鳥のことだ。特に有名なのは悠然と空を飛ぶ鷲、鷹、隼だろうか。

 

 遥か空に舞い上がる大きな鳥。遥か空から獲物を見つけ、襲いかかる獰猛なハンター。小動物は空からの飛来する捕食者になすすべなく捕らわれる。


 老人は、いつかの彼の姿を見てそんな猛禽類に例えた。


「お前の投げる球はまるでノスリだ」

 

 ノスリ。

 それは日本で見られる猛禽類の一つ。

 この名前を知っている人はいるのだろうか。いや、ほとんどいないだろう。


 ノスリは鷹に似た姿だが、鷹より少し小柄な鳥だ。

 地面に這いつくばる獲物に低空飛行で接近して狩りをする姿から、「野擦り」と呼ばれたという名の由来を持つ猛禽類である。


 少年の投じるボール。

 獰猛で、地を這うように打者に迫り、アウトという獲物を狩るボールだ。


「今日から仮入部だから。遅くなる」


 家を出る時、少年は靴を履きながら大きなリュックを背負って振り返りもせず、老人にそう告げる。


「しっかり練習してこりん」


 老人が見送る背中。

 その背中が決意に満ちていることを、老人は誰よりも知っている。


 ノスリは目指した。

 甲子園という遥か遠くの大空を。


 彼は翼を広げ、高校野球という世界へ羽ばたき始めたのである。


 


 








 

 

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