第5話 僕の日常、僕だけの世界

5限目のLHRが終わり、10分休み。


教室内は、先ほどの委員決めやLHRでの話し合いの熱が冷めやらぬまま、賑やかな空気が流れていた。


教室の廊下側、一番後ろの席に座る俺は、窓の外をぼんやりと眺めていた。


すると、教卓前の席から会話が微かに聞こえてくる。


声の主は、先ほど副委員長に決まった男子生徒と、体育委員かと見まごうばかりの活発そうな女子生徒、そして春原の三人だ。


佑真ゆうま……副委員長、お疲れさん」


「まぁ、中学の時もやってたから、別にいいんだけどさ……初対面の人ばかりだから緊張するなぁ。」


「まぁ、佐藤さとうなら大丈夫だよ、何とかなる!」


春原すのはらの言葉に、女子生徒がくすりと笑う。


「そんな他人事みたいに……それで由香里ゆかりは保健委員だよな?珍しいな……。てっきり体育委員かと思ったけど。」


「別に他のことをやってみたかっただけ、だから……それよりも気になったのが、凛だよね。まさか美化委員に手を挙げるなんて……。」


「それに彼……確か佐伯さえきくんだっけ?が手を挙げたことを見てから手を挙げたよね?知り合い?」


春原はきょとんとした顔で答えた。


「いや?それがさぁ、聞いてよ!彼……佐伯くんは人の名前を覚えるのが苦手なんだって。だから、何がなんでも私の名前だけでも覚えてもらおうと思って!」


「そうなのか……まぁ、頑張れよ!」


俺は聞き取れなかったが、他愛もない会話をBGMに、俺はただ廊下の風景を眺めていた。


ガラス張りの窓から見える廊下は、他のクラスの生徒が行き交い、賑やかだ。


やがて6限目の授業が終わり、放課後になった。


担任の先生から、今日は1列ずつ個人面談をすると告げられる。


面談があるのは、出席番号1番から6番まで……つまり、俺が最後だ。


「はぁ……早く帰りたかったんだけどなー」


そう思いながらも、他の生徒が部活の話で盛り上がっているのをぼんやりと眺める。


この学校は校内でのスマホ使用が原則禁止されているため、他にすることもない。


一人当たりの面談時間は10分弱。5人分の時間を待つと、50分ほど時間が過ぎていく。


そして、ようやく俺の番が来た。


教室に入り、先生の前の席に座る。


「さて、佐伯和真さえき かずまさくん。何か困ってることはあるかしら?」


「困ってることと言いますか、バイトをしたいんですが……」


「理由を聞いてもいい?」


「はい、先生もご存知だと思いますが……自分、実家を離れて一人暮らしをしているのでお金が必要なんです」


「親御さんから、払ってもらえないの?」


「家賃は払ってもらえますが、食費などの生活費は、自分で稼ぎたいと親に言ったので……」


「なるほどね~。わかったわ。校長からの許可が必要だから少し時間がかかるかもだけど、申請書を用意するわね」


「お願いします。」


「あとは、顔のケガは大丈夫?入学早々大変だったわね?」


「もう治りました。大丈夫です。」


「他に何か困ったことはあるかしら?」


「いえ、特にありません。」


午後4時36分。個人面談が終わり、教室を出た。


午後4時58分。

自宅に帰り、リビングのソファーで横になりスマホを開く。


すると、一つの通知が届いていた。


アプリからだ。


「あなたの作品をフォローしました」という文字。


俺の趣味は、小説を書いて投稿すること。


俺が書いた作品のタイトルは【天秤世界の変革者】だ。


まぁ、気が向いたら読んでほしいな。


「さてと、続きを書くか……」


スマホを触り始めてから1時間ほどが経ち、時間は午後6時を過ぎていた。


「お腹すいたなぁ~。晩御飯は、何を作ろうかな?」


またスマホを開き、ネットで簡単なレシピを調べる。


「パスタ……いいな、美味しそう」


電子レンジで手軽に作れる卵を使わないカルボナーラを作り、晩御飯を済ませた。


使用した食器を洗い終え、お風呂のお湯を入れに浴室へと向かう。


こうして、何気ない時間が過ぎていく。

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