佳奈:Day2


なんかこの人たち、寝るかなんかして意識を失うと入れ替わるっぽいですね。

――――――――――――――――――――――――――

 もう嫌になる。




 なんで私、死のうとしたのに寝てるの?


 首に縄をかけようとしたところまでしか覚えてない。


 縄には...なにこれ?




「¡No mueras!...?」




 いやいや何語だよ。


 意味わかんないし...




 誰かが侵入したの?


 物を盗られている形跡はナシ。


 スマホを開く。




「翻訳っと」




「スペイン語で..."死ぬな"?」




 少しゾっとした。




タブを消そうとしてタブ一覧を開くと、私は変なタブを発見した。




「こんな記事、開いてたっけ...?」




 見覚えのない記事。


 顔一面に入れ墨を入れている若い男の写真。


 目が血走っている。


 抗争の末、死んだらしい。


 まあ、自業自得か。




「ん?」




 私はスマホを閉じようとしてまた見覚えのないタブを発見した。




「なによこれ...!」




 麻薬組織が運営する見せしめ動画サイトであった。


 おぞましい動画が再生されていた。




【敵の首領であり諸悪の根源、アントニオ・ロメオの壮絶な死‼】




 縛られている男。


 すでに殴る蹴るの暴行を受けているようだ。いろんなところから流血している。


 いきなり振り向くなり凶器を持った後ろの男の足にかみつき、足を銃で撃たれ、首を斬り落とされていた。


 首が落ちたとたん、周りの人々が歓声を上げていた。




 そう、ニュースのあの人であった。




「私も、堂々と生きてみたいかも...」




 少し、うらやましかった。




 LINEを見ると、通知が200件。




 また麻美から大量の暴言。


 30分以内に既読をつけないと月曜日殺されるのに。


 月曜日が憂鬱。




「なんで見なかったんだろう?」




 それはすぐわかった。


 送信されたのが、昨日の意識がなかった時だったのである。




「なんで私ばっかり...!」




 泣きそうになる。




 前は何回も相談した。


 だが、麻美の親父あたりがお偉いさんらしくて、スルーされる。




 体も尊厳も何もかもズタズタに破壊され、母親の愛情も自分の親父のせいで消えた。




 だから自殺しようとしたのに。


 せっかく勇気出したのになあ。


 自殺を決心するにはものすごい葛藤があるのだ。


 しばらく、死ねなさそう。




 そろそろ何か食べないと。餓死しちゃう。


 私はリビングに歩いて行った。


 薄暗い部屋。中央の食卓には母親。目にはクマができて、死人のようだった。




「おはよう、お母さん」




 当然のように無視。




 私は、適当にカロリーメイトを食べる。


 当然、腹は満たされない。


 でも、平日まで耐えることはできる。


 お母さんにも食べるよう、促す。




「お母さんも、食べて。ね?死んじゃうよ?」




 無視。




「ここに置いとくね」




 ここで私は自分の部屋に帰る。


 帰った後、食べてくれることが多い。


 いつか、お母さんも復活するはず。


 と、思いたい。




 部屋に戻ったらやること。


 それは普通の生徒と同じ。




「はあ~、勉強するか」




 1年前に麻美にカンニングをでっちあげられてから、私は定期テストを受けさせてもらえなくなった。


 向こうの言い分だけ聞いて、こっちは問答無用。


 別室で受けるとかもない。


 よほど麻美の親父に媚びを売りたいらしい。




「98ページ、二次方程式の利用...」






 6時間後...




 ベッドに入る。


 明日になっても希望は無い。


 唯一の救いは、近所の魚屋のおじさんだ。


 親父が逃げてからどんどんやせ細っていく私を心配して、いつも売れ残りの魚をくれる。


 私は猫じゃないのに。


 でも、彼がいるおかげで、私の(最低限の)健康は保たれていると言っていい。




 明日はLINEのネタで痛い目見るだろうな...




 私はぼろぼろの布団をかぶり、眠りに落ちた。


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このまま、2日ずつ投稿していきます。


更新は多分、不定期になると思います。


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