Lv676とな……?

 自信ありげな表情でこちらを見つめるスーツ姿の壮年の男。


「検査課長の尾沢だ。この件は私が預かろう」


 尾沢が後ろにいる職員達に目配せすると、職員達はペコペコと頭を下げてその場を去って行く。


 そうして周りに人が居なくなったのを確認した後で、尾沢は親指でグラウンドを指す。


「君への期待に免じて、喧嘩の一件には目をつぶってあげる。だから身体テストを受けて、君の実力を確かめさせてくれ」

「!! 良いのか!?」

「うん、存分に暴れてきな」

「うむ! そうさせて貰うぞ! では先に行く、着いてこい!」


 ワシは羽織りを投げ捨て、全速力で駆け出す。


 そして一秒と立たず廊下の果てにある壁に激突して倒れると、スッと立ち上がり、おぼつかない足取りで左に曲がってゆっくりと歩き出した。


 そんなワシの様子を見ていた祀は額に手を置き、尾沢はカラカラと笑う。


「面白いね! まつるくん、よくぞこんな良い逸材を連れて来てくれた! 大義だぞ!」

「……まあ、はい」

「それじゃあ僕は彼女の試験に向かうから、先日伝えた件、是非検討してくれたまえよ!」


 興奮気味にワシの後を追う尾沢。しかし、少し進んだ先でふと振り返り、呆れ顔を見せつける。


「……あと、嘘は良くないよ。今回は君の嘘に乗ってやったけど、次は無いからね」


 そうして尾沢は溜息をつき、再び背を向けて歩き出す。


その背中が見えなくなった頃合いをみて、祀は舌打ちをしながらガラスを思いっきり蹴るのだった。


 ◇  ◇  ◇


 こうして始まった尾沢式の身体テストは、非常にスムーズに、かつ手早く終わった。以下は行った種目と、ワシが出した記録の一覧である。


 『200m走』……2秒11

 『立ち幅跳び』……計測不能(枠外)

 『10km持久走』……2分1秒79

 『握力』……154kg

 『ハンドボール投げ』……5m


 ――普通、日本刀は投げないじゃろう? そういうことにしておいてくれ。


 当然ながら、この記録は歴代最高の成績となっていて、尾沢は満面の笑みで身体テストの通過をワシに宣告した。ただ……


「疲れたのじゃー!! 動けーん!!」


 人体で加減をする事になれてないワシは、全力を出しすぎてすっかりヘトヘトになってしまった。


「おいおい、こんなところでバテて貰っちゃ困るんだがね! 仕方ない――」


 尾沢が指を鳴らすと、青い液体が入った円形フラスコ瓶が虚無から現われる。それから尾沢は栓をしていたコルクを指で抜き、ワシの間近に立つとその中身をぶちまける。


「ひゃあっ!?」


 ――冷たくも熱くもない、常温の少しネバネバした液体。それが全身に掛かって気持ち悪……くない?


 確かに液体が掛かる感覚を覚えた物の、服が肌に貼り付く感覚は一瞬で消え去り、おまけに体力も回復している。


 疑問で頭をいっぱいにしながらも、ワシは立ち上がって三回ほどその場で跳ねてみせる。


「これは本来、処方箋がないと手に入れられないBランクの治療薬さ。過労死寸前の労働者も、コレを掛ければ瞬時に体力が全快するよ」

「す、凄いぞ! それをいっぱいかき集めれば、人間の役に立てる!」

「けどこの薬の個人保有は違法だから、手に入れたら24時間以内にしっかりウチに流すんだよ」

「……分かったぞ」

「物分かりが良くてよろしい。それじゃ、この場でスキルとステータスの覚醒を済ませちゃうね」


 しょぼくれるワシを余所に、尾沢はポケットから宝石が着いたペンダントを取り出し、ワシの首に掛ける。


「む、くれるのか?」

「候補者全員に配ってる物だよ。まあ、すぐ消えちゃうんだけどさ。それと、これから僕が良いと言うまで、何が起きても動かないでね」


 程なくして尾沢はワシの左肩を掴み、右手の人差し指で宝石に触れる。すると宝石が眩い赤光を放ち出し、ワシの体全体を包み込む。


 ――眩し……くない? 目も痛くないし、瞼を上げていられる。不思議な技術じゃ。


 少しして光が晴れると、ワシの中に別のエネルギーが宿った感覚を覚える。


「『ステータスオープン』と唱えてみな」

「す、すてーたすおーぷん?」


 すると、目の前に半透明の四角い何かが現われる。ワシは驚きもそこそこに、その中身をつらつらと読み始める。


 ……内容に驚いて目を丸くする尾沢を気に留めず。


 篝火貞宗 【Lv.676/676(Lv.MAX)】

 火力:A+ 持久力:S 防御力:G

 素早さ:EX 魔力:G 器用:S(非戦闘時:G)


・スキル

 【常在戦場じょうざいせんじょう】 好きなときに【篝火貞宗かがりびさだむね】のコピー品を出す事が出来るが、装備時は持久力がBにダウンする。

 【侍の矜持きょうじ】 刀に纏ったり、切っ先から放つ事でしか魔法を行使出来なくなる。ただし、魔力効率は通常の10倍良くなる。

 【いびつな幸運】 『今こういうのが欲しい』という遺物がドロップする可能性が、ほんの少しだけ上がる。


 一通り文字に目を通したワシだったが、『刀を好きなときに出せる』と言う事と、これ以上レベルが上がらない事以外はよく分からなかった。


「ふむ。コレはつまり、ワシにはもう成長の余地は残されておらぬということじゃな? つまらぬの……」

「ステータスはね。あとごめん、君ってバカでしょ」

「なるほど……って、ええ!?」


 それまで丁寧な口調だった尾沢の口から突然出た暴言に、ワシは大きく心を乱される。


「ああごめんごめん、他意はないんだ」

「バカという言葉をバカ以外に使うシチュエーションなど無いじゃろ!?」

「いやいや、話を聞いて欲しい。初期レベルは普通1か、高くても10から始まるんだ。それなのに、676って。滅茶苦茶過ぎてバカかなーって」

「なんじゃと!? 理不尽じゃ! ワシはバカ呼ばわりされるためにテストを受けたんじゃな~い!!」


 地団駄をして抗議するも、尾沢は気に止めずにスマホを取り出しては耳に当てる。


「僕だ。今から『檻』に連れて行きたい子がいるんで、箱のロックを10分だけ解放してくれ。それじゃ」


 尾沢の口から出たその言葉に、ワシは思わず息を飲む。


 ――檻じゃと? ワシ、これから捕まるのか? ちょっと本気を出したばっかりに。


 スマホを懐にしまった尾沢は、目に涙を浮かべるワシをみてギョッとする。


「いやいや、檻って言っても人間を収容するためのものじゃないからね!」

「……本当か? ワシ、捕まらない?」

「協会に逮捕権は無いからね。そんな僕らが捕まえるとしたら、それはダンジョンから抜け出した魔物だけさ」

「は、話が見えぬぞ。結局ワシは、これからどんなところに連れて行かれるのじゃ?」


 震える声でワシが聞くと、尾沢はフッと笑い、黒く大きな箱を指さしながら言う。


「――ダンジョンだよ。君のような理外の存在のために、あの箱は存在するのさ」

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