第8話 看病3と根回し

背後からシャワーの音が聞こえる。


「これで停電でも起きたらホラー展開まっしぐらだな」


凰介はそんな冗談めかしたことを零しながら誰かに電話を掛ける。


『お久ですね』

「ああ、久しいな」


電話越しに聞こえてくる女の声。


『ほんとですよ。こちとら払いの良い顧客が全然使ってくれなくて金欠気味なんでもっとこっちも頼って下せえよ』

「元からお前の客は俺しかいないだろ」

『あれ、そうでしたっけ?』


電話越しの女は冗談ばかしにすっ呆ける。

それをあしらい彼女に要件を告げる。


「御託はそれぐらいにして仕事だ」


『仕事』という言葉を聞いて電話越しの女は表面上軽い様子は崩さないがその心は真剣そのものだった。


「お前にはある者たちの行動履歴を洗ってもらいたい」

『行動履歴すっね。学園の関係者すっか?それともどっかの企業の幹部とか?』


女は凰介が調べて欲しそうな人物の候補を並べていく。それとこれには自分はこういう人間の情報も持っていると暗に提示している。

だが女が提示した中に調べて欲しい人物はいなかった。


「いや、お前に調べて欲しいのはそんな大層な奴らじゃない」

『じゃあ誰ですかな?』

「お前の大っ嫌いな人間だ」

『………』


それを聞いて女はどんな人物の調査か察した。


『報酬は高くつきますよ?』


その声は明らかに不機嫌だった。だが凰介はそれをまったく気にしなかった。


「報酬はいつもの倍でどうだ?」

『階級によりますね』


俺は彼女にその人物たちの所属と名前を教える。

彼女は少し考えて返事をする。


『いいでしょう。3日ください。終業式の終わりにいつもの場所で』

「分かった」


依頼を終えて凰介は電話を切る。


「ふぅーー。あとは学校の方に根回しを」


バサ!ガタン!バタン!


脱衣所でなんかすっげえ勢いよく風呂から出て扉開けて『いいからもう出て行って!』って父親を自分の部屋から追い出す娘みたいに勢いよく扉を閉めた音がしたんだが?


「おい大丈夫k」


バタン!


「はぁはぁはぁ………」


心配して脱衣所の扉をノックしようとした途端髪が濡れたままの月和が扉を開けた。

髪の隙間からダラーンとした目が見えた。


「悪夢でも見たか?」


よく見ると全然拭き足りなくてパジャマが身体にくっついている。

身体中から湯気が出て着心地は最悪だろう。


「仕方ない。ちょっと待ってろ」


俺は脱衣所に入り、濡れてないタオルを取る。

そのまま外にいる月和の手を引っ張ってリビングのソファーに座らす。


「確認するが下着は着てるよな?」


俺の質問に頷く。

俺はまず月和の頭を拭く。

ポタポタと床に垂れる雫が止まる程度に拭いた。


「万歳しろ。そのままじゃ気持ち悪いだろ」


月和は恥ずかしそうにゆっくりと万歳をする。

凰介は月和のパジャマの背中部分だけ捲り背中を拭く。

そのままタオルを両腕に入れて腕を拭く。


「当分こうしてお前の面倒を見に来る」

『いいの?』

「よくなかったら提案しない。で、どうなんだ?」


月和は少し考えてメッセージを打つ。


『お願い』

「承った。それに伴ってだが合鍵を貸してくれないか?お前もいつも家が開けっ放しじゃ怖いだろ?まあお前が学校に来てくれんなら一緒に帰れば」

『あとで渡す』


後者の提案を否定する返事として前者の返事を返してきた。


「分かった。前と下は流石に自分でやれ」


ある程度拭き終えた凰介はタオルを渡す。

タオルを受け取った月和は凰介をチラッと見る。

その意図に気づいた凰介は背中を向く。


「ちゃんとそっぽ向いてるからとっとと拭け」


凰介はソファーの後ろで一人目をつぶって床に座る。

少しするとソファーを叩く音がした。


「終わったか?終わったなら一回叩け」


『タン』とソファーが一回叩く音がした。

俺は立ち上がり月和からタオルを受け取る。

そのまま俺はドライヤーを手に取り月和の髪を乾かす。


「短くても綺麗な髪なんだからしっかり乾かさないといけねえだろ」


月和の髪は前髪は丁度両目が隠れるぐらいの長さで後ろ髪はうなじが隠れるぐらい。怖くて急いで風呂から上がりたかったのか髪の艶が少し弱い気がする。

はぁ、今は仕方ないか。


「これで終わりだ。歩けるか?」


月和は頷く。

俺はリビングに放置されていた布団を持つ。

すると月和が俺のシャツの端を持つ。

そのまま俺たちは月和の部屋に戻る。

俺は布団を整える。


「もう寝ていいぞ。だがその前に合鍵を」

「うん」


月和が鍵を手に持って渡してきた。

鍵を渡し終えた月和はベットに寝転ぶ。


「明日も学校が終わったらまた同じ頃に来る」


月和が寝るまで付き添って電気を消して彼女の家の鍵も閉めて俺は自分の家に帰った。

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