閑話 S-9『~ほころびの日常~ 今日も異世界の片隅で淡々となんとかクエストをこなしてます♪』

S-9『~ほころびの日常~ 今日も異世界の片隅で淡々となんとかクエストをこなしてます♪』

ショートストーリー:S-9 迷子の猫と小さな冒険 -1

私は、冒険者ギルドの依頼記録が記された、分厚い台帳を手に取った。


そのページには、英雄たちの偉業だけでなく、名もなき冒険者たちのささやかな日常が克明に綴られている。迷子の猫探し、畑を荒らす魔物の退治、そして届け物と珍道中。


これらは、世界の命運を賭けた壮大な戦いとはかけ離れた、取るに足らない出来事に見えるかもしれない。


しかし、我々のアーカイブは知っている。


この『冒険者ギルドのほころび日常』にこそ、ガイアという星の真の鼓動が息づいていることを。人々が互いに助け合い、困難に立ち向かい、ささやかな喜びを見出す姿。


それは、見えざる『調律者』が画一化しようとする世界において、最も尊く、予測不能な『ノイズ』となる。


この記録は、王都の喧騒の片隅で、今日も懸命に生きる冒険者たちの、温かく、そして少しばかりドタバタした物語を語るだろう。


彼らの小さな一歩が、やがて世界の未来を紡ぐ大きな力となることを、読者諸君も感じ取ってほしい。


_____________________


アルテア王国の中心部、冒険者ギルド「世界の翼」は今日も活気に満ちていた。


依頼掲示板の前には、剣を背負った戦士やローブを纏った魔術師、あるいは獣人の斥候などがひしめき合い、獲物を見定めるように依頼書を吟味している。


その喧騒の中、D級冒険者パーティ「そよ風の旅団」の三人もまた、次の獲物を探していた。


「あー、今日もパッとしない依頼ばっかりだな!」


熱血漢の戦士、リアムは大きな体を揺らし、掲示板の紙を乱暴に捲った。赤茶色の短い髪は、彼の猪突猛進な性格をそのまま表しているかのようだ。彼の握りしめた拳には、どんな小さな依頼にも魔王討伐のような情熱が宿っている。


「リアム、もう少し静かにできないの? 紙が破れるわ」


ルナは冷ややかな声で、細身の木製の杖をコツンと床に叩いた。彼女の銀色の長い髪は一つに束ねられ、常に冷静な表情を崩さない。パーティの頭脳担当にして、リアムの暴走に対する唯一のツッコミ役だ。


「大丈夫、大丈夫! きっと僕たちにぴったりの依頼が見つかるよ!」


そんな二人の間に割って入ったのは、小柄な斥候のジンだった。茶色の前髪が目にかかり、いつでもニコニコと笑顔を絶やさないムードメーカー。その身軽さとは裏腹に、意外と掴みどころがない。



彼らがそうして次の依頼を思案していると、受付のセリアが困ったような、それでいてどこか楽しそうな笑顔で声をかけてきた。狐族の獣人である彼女のピンと張った狐耳が、わずかに揺れている。


「リアムさん、ルナさん、ジンさん。

 実は、どなたかにお願いしたい、とても重要な依頼がありまして……」



セリアの言葉に、リアムは目を輝かせた。


「お、重要依頼!? もしかして、C級昇格の試験とかかっ!?」


「いえ、そうではありませんが……」


セリアは苦笑しつつ、一枚の依頼書を差し出した。


「こちらは、ギルドにご登録されている方からのご依頼なのですが……」



依頼書には、「愛猫ミィの捜索」と書かれていた。リアムの顔から一瞬にして期待の色が消え失せる。


「はぁ!? 猫探しぃ!? 冗談だろ、セリアさん! 

 俺たちはD級だぜ? 猫探しなんてF級の仕事だろ!」


ルナも呆れたようにため息をついた。


「また、迷子の猫……どうせ、どこかの屋根の上で昼寝してるだけじゃないの?」


ジンは相変わらずニコニコと笑顔で依頼書を受け取った。


「猫ちゃん探し! 可愛いね!」





その時、ギルドマスター室の扉が開き、セルが現れた。異世界出身の元SSS級冒険者、ギルドマスター・セル。飄々として掴みどころのない彼だが、彼の口から出た言葉は、旅団を驚かせた。


「ローズ様からの依頼だ。これはギルドにとっても名誉なことだ。頼んだぞ」


セルの顔には、普段の飄々とした表情とは異なる、いつになく真剣な色があった。その言葉に、セリアも静かに頷いている。セルがそこまで言う人物に、旅団はにわかに緊張を高めた。


「ローズ様って、あの『百獣の女王』ですか!?」


ルナが珍しく声を上げた。




マダム・ローズ。


かつて「百獣の女王」と呼ばれ、数々の伝説を打ち立てたS級冒険者。


現在は引退していると聞くが、その名は今でもギルドの伝説として語り継がれている。

ギルドマスターのセルでさえ、彼女の前では一目置くという。


リアムは唾をゴクリと飲み込んだ。


「ま、まさか、あのS級のローズ様が、猫探しを……?」


ジンは依頼書を大事そうに抱え、笑顔で「頑張ろうね!」と気合を入れた。






マダム・ローズの屋敷は、王都の中でもひときわ豪奢な佇まいだった。


案内された応接室で、パーティを待っていたのは、その名に恥じない優雅な老婦人だった。

白い髪は美しく結い上げられ、纏うローブは上質なシルクで織られている。


「あら、いらっしゃい。あなたがたが『そよ風の旅団』ね。

 私の可愛いミィが、またどこかへ行ってしまってね。

 どうか、見つけてくださらないかしら」


「は、は、はいーーーー!!!」


彼女は優雅にお茶を飲みながら微笑んだ。その笑顔は慈愛に満ちているが、瞳の奥には、長年の冒険で培われたであろう鋭い光が宿っている。

ミィがいなくなって寂しいという表情ながらも、どこか茶目っ気を感じさせる。










________

ショートストーリーを読んでいただきありがとうございました。


実はいろいろなところに登場する そよ風の旅団の3人のほのぼの冒険譚です。

S-9「ほころびの日常」をぜひお楽しみください。



「ガイア物語」は12種類の独立したストーリーが複雑に絡み合うSFファンタジーです。異世界ものですが、剣と魔法だけではなく、科学が融合している世界です。


超長編ですので、まずはフォローをいただいて、お手すきの先にお読みください!


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