ブレインリサーチャー

ブルーメール

サイキック探偵 彩貴瞑人

 東京駅改札内にあるコンビニの朝は旅行者や通勤者で混んでいる。この時間に仕事できる人は少ないため時給がちょっと高い。僕は朝4時から7時半まで働いていてその後学校へ行く。駅の地下にある駐輪場を利用していて、アパートからバイトに来るとそこに自転車を止めている。


 僕が通っている学校は神田にあり、将来心理カウンセラーになるために勉強している。高校生の時、友人から勧められ、なんとなく学校見学に行って決めたのだ。友人は違う学校に通っているが、一緒に東京に来て住むことになり、助け合いながらなんとか生活している。


透輝とうき!明日の夕方付き合って」

 僕の友人で同居人の結人ゆいとに昨夜言われ、待ち合わせの場所へ向かった。八重洲中央口で待ってると、結人が小走りでやってきた。

「あー疲れた!乗ってた電車遅延で激コミだったんだよ」

「そりゃ疲れるね」

「じゃ行こか。待ってるだろーから」

「誰が?」

彩貴さいきさんていう探偵だよ」


 結人は高校生のときから情報集めや分析が好きで、今は情報学を学ぶ専門学校に通っている。銀座の書店でバイトしながら、たまにネットでアンケート調査などの仕事をしてる。今回そのネットで調査の仕事を依頼した人が彩貴さんという探偵らしい。

 どうして僕も行かなきゃならないのか聞くと、1人じゃだめで、誰か連れて来るようにと言われたからだそうだ。


「もしかして警察官みたいに2人で調査しに行くとか?」

「そーなんじゃないかって思ってんだよねー」

「それって1日で終わるのかな?」

「うーん、調査だから、数日の間にすればいいんだと思うよ」

「そっか」


 東京駅地下アーケード街にその探偵社はあった。

『彩貴探偵社 どんな依頼でもOK』

 レトロな珈琲店のような外観に木製のおしゃれなデザインの看板がでている。通路側に窓はあるが、ロールスクリーンで中が見えない。ドアホンを鳴らすと、カチッと音がして中から入ってくるように言われた。


「こんにちは。 ネットで連絡した砺波となみです。 あと、彼は友人の葛城かつらぎくんです」

「やあ、よくきてくれたね。アイスコーヒーでいいかな?」

「えっ?頂けるんですか?ありがとうございます」

「作り置きしてるんだよ。客がきたとき嫌がられなきゃアイスコーヒーを出してる」

「そうなんですか。でも…ぼくたちは客ではないですけど」

「ハハッ! かまわないよ。来たときは勝手に飲んでいいから」

「それは、ありがとうございます」


 探偵社の中は以前珈琲店だったと思われる内装で、床はダークブラウンの板床で壁は暖色のレンガ、天井からはペンダントライトが吊り下がってる。

 青の布張りのソファに木製のテーブルのセットが置かれ、キッチンカウンターには赤いゼラニウムの鉢があり、その奥にダークブラウンの食器棚と薄型のウォーターサーバーがあった。キッチンの横のテーブルにはノートパソコンや書類、テーブルセットとキッチン側との境に横長の背の低い本棚があり、仕切りになっている。中には書類や本、文具や薬箱など適当に入れられていた。


「さて、自己紹介しないとね」

 2人に1枚ずつ名刺を渡して言った。

「ボクは彩貴瞑人さいきめいと。 看板通りの探偵だよ。 依頼はネットで受けることがほとんどで、引き受けるときや調査報告のときにはここへ来てもらう感じだよ。 これまでは時々少しだけ手伝ってもらうボランティアを募集してたんだけど、やっぱりバイトとして雇ったほうが仕事しやすいと思ったんだよね。 ああ、2人で来てほしいと言ったのは、必ずどちらかには行動や会話などのメモをしてほしいからだよ。例えばどちらかが用事があって無理でも、もう一人が時間、場所、周りの状況など出来る限り詳しくメモして置いてほしいんだよね。 まあボクからはこれくらいかな?」


 ぼくたちは互いにまずは自己紹介してから質問しようとなり、結人から話すことにした。

「ぼくは砺波結人となみゆいとです。 日比谷にあるCIYO情報専門学校の2年生です。 週3日は銀座の書店でバイトしてます。 ここのバイトに応募したのは、時々調査の手伝いをする、用事があれば休んでOK、バイト掛け持ちOK、 給料は時給3000円と魅力的な広告だったのが理由です。 あと、一緒に応募出来る友人がいたことも。 情報収集や分析は普段からしているので、仕事でも役に立つんじゃないかと思ってます」


 次はきみの番だよと目配せされた。


「僕は葛城透輝かつらぎとうきです。 神田にあるKND メディカル専門学校の2年生です。 週4日は東京駅改札内のコンビニでバイトしてます。 今日は友人に誘われて来たので、仕事内容についてよくわかりません。 普段勉強しているのは心理学なので、話を聞くのは得意だと思います」


 2人の自己紹介が終わると彩貴は仕事について話をすると言った。

「うちは看板に書かれてる通り、遺失物探し、喧嘩の仲裁、道案内、メール翻訳、お見合い相手探しなど、困り事の解決に力を貸すという仕事をしてる。 報酬は仕事内容やかかった時間、費用、結果などで決めている。 依頼があるものだけでなく、こちらからアプローチして仕事をすることもある。 警察からの問い合わせは、無料のときもあるが有料が基本。 きみたちにはその時々に必要なことをしてもらいたい。 空いている時間にここへ来てもらって仕事内容を確認してくれればOK。 どちらか1人が来て確認でいいよ。 報告も同じ。 給料は1件ごとに精算して振り込むよ。 あーだから口座番号教えてね」


 僕は気になっていた。空いている時間というけれど、ここには彩貴さんしかいない。もし彼が外出していたらどうすればよいのか。


「ボクは基本ここにいるよ」


 …えっ?僕は今声に出てた?


「出てないよ。 ボクはきみたちのココロの声を聞くことが出来るんだよ。 ついでにいうなら、 ボクには見たいものが視えるんだよ。 でも、物を動かすとかは出来ない」


「それって、超能力があるってことですか?」

「そーだね。 だからきみたちが『彩貴さん』ってココロのなかで呼びかけて伝えたいことを念じてくれたら届くよ」

「凄い!」

「…彩貴さんは本名ですか?」

「ああ、本名だよ。 漢字は」

「…読みが違う?」

「『あやたか』って読むんだけど、サイキックなボクのイメージに合わないじゃない? 『めいと』はそのままね」


 彩貴さんは見た目30代で、黒髪はツーブロックショート、白シャツに黒のストレートパンツ、どちらかといえばスリム体型のクールイケメン。中身は…気のいいお兄さんと言う感じだろうか。


「じゃ、まずは口座番号ね。 で、それから仕事の話ね」


 どうやら僕たちは超能力探偵を手伝うバイトをすることになったようだ。
















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