俺の話:Lightpool

 部活紹介の動画、アップしてたじゃないですか。入学前に観てて、その時アオイ先輩のことを知ったんです。

 なんか一つだけレベルが違うバンドがあるなって思って観てたらアオイ先輩たちで、しかもアオイ先輩が高一って情報が概要欄に書いてあって、めちゃくちゃビビりました。

 一発でファンになって、動画何回も再生して。入学してすぐに学内で有名人だって話を聞いて。"狂い姫"っていう二つ名も、実はアオイ先輩に会う前から知ってました。……ダメですか? カッコいいと思うんだけどな……。まあいいか。

 

 本当は俺、軽音部に入る気あんまり無かったんですよ。家にスタジオあったんで……実際は父親に言われて、入らないといけない感じになってはいたんですけど、それはそれとして。

 でも、アオイ先輩みたいな人がいるって分かって。会ってみたい、話してみたいって思うようになって。

 俺、アオイ先輩の存在を知るまで、自分のことを他人に興味が無い性格だと思ってました。親しい友だちとかもいなかったし、作る気も全く無かったし。多分、厨二病を患ってたみたいです。アオイ先輩と同じですね。

 

 歓迎会のこと覚えてますか? あの無茶振りセッションの……俺の手を見るなり、周防先輩とかっちゃん先輩と、あと小原と即席バンド組ませたじゃないですか。そう、エルレの。

 いや、楽しかったですよ。でもそれより、アオイ先輩に話しかけられたことの方が衝撃でした。いきなり腕掴まれて、一発で実力見抜かれたのそうだし、そもそも俺、あんまり人から話しかけられる経験あんまり無かったですし。なんか雰囲気が怖い、って知り合いから言われたことあって。

 何より、言ったじゃないですか。俺はアオイ先輩に憧れてる、って。

 そんな人に自分のことを知ってもらうって、嬉しいことなんだって、あの時初めて知りました。


 ……なのに、俺はそこから一歩も踏み出そうとしなかったんですよね。


 いくらでも話しかけるチャンスはあったのに、話しかけられなかった。

 もっと知ってほしい。知りたい。仲良くなりたい。思っていたこと全部、思ったままに放置していた。

 昔からそうなんです。いつも流れに任せるっていうか、自分からは何もしない。

 もしかしたら、音楽のことだってそう言えるかもしれない。

 いや、ちゃんと楽しいですよ。ちゃんと、音楽が好きだって、楽しんでやってるって、それは自信を持って言えます。

 だけど、その楽しさは与えられたモノでしかない、って感覚もあって。

 自分の足で探して、自分の目で見つけて、自分の手で掴み取る、っていう経験が一度も無い。全部、誰かが与えてくれるから。与えられたモノだけで、妥協できてしまうから。

 ……言ってて思ったんですけど、世間知らずのおぼっちゃんの自慢みたいになっちゃってますね……我ながらキモいな。

 ……ありがとうございます。


 まあ、その。何が言いたいかっていうと。

 アーエールに来て、アオイ先輩と一緒にここまで頑張ってきて、分かったことがあるんです。

 欲しいモノを手に入れる為に一歩踏み出すことは、怖いことだけど。

 欲しいモノを手に入れる為に動くことは、アツくなれることで。

 欲しいモノを手に入れた時の嬉しさは、与えられただけじゃ絶対に感じられないことだって。


 多分、タバサのおかげです。タバサっていう友だちを、俺は手に入れることができたから。

 アイツ、良いやつですよね。変態だけど。

 見てたと思いますけど、今朝、タバサに怒られました。何気に初めての経験だったんです。同年代というか、そういう人に怒られるの。

 ちょっとおかしい気もするんですけど、嬉しい、と思っちゃいました。だから、思わず……恥ずいこと言っちゃったというか。


 それで気づいて。

 俺、本当は強欲なんだと思います。よく考えたら欲しいモノがいっぱいあるし。

 ただ、一歩踏み出す勇気が無かった臆病者だっただけ、というか。……強欲な臆病者。なんか、バンド名みたい……いやなんでもないです。やめて話広げないで……。


 ともかく。

 俺は決めました。

 もう、アオイ先輩に遠慮しません。

 やっと、理解できたから。


 はっきり言います。

 アオイ先輩は『悪い人』です。俺を壊そうとする、『悪い人』。

 それで、俺は『善い人』なんで。『悪い人』は、倒さないといけない。助けないといけない。

 

 救わないといけない。

 

 アオイ先輩のことが知りたい。全部、です。

 今じゃなくてもいい。けど、いつか、聞かせてもらいますから。

 ……嫌、ですよね。そんな顔、してました。

 でも、俺も嫌なことされたんで。おあいこです。

 多分、これからも、お互いがお互いにとって嫌なことをするだろうけど、俺は、ちゃんと真っ正面から受けて立ちます。アオイ先輩も、そうして欲しい。


 今の俺じゃ、アオイ先輩を救う言葉が分からない。


 だから今は、自分の価値観をアオイ先輩に押し付けます。アオイ先輩も、俺に自分の価値観を押し付けてください。

 俺とアオイ先輩は、今日から敵同士です。

 壊し合いましょう。絶対に、逃げないでくださいね。俺も、逃げませんから。


◇◇◇

 

 ……ああ、そうだ。

 俺、敬語やめるから、アオイ先輩。

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