Ⅸ ─御事─

駆け下りてこいしを心配する。


音的に複数の手榴弾。

さすがに壁や入り口から距離があるとは言え、ただ事ではない。


…はずだったのだが、こいしは何故だか家のより奥側へと逃げているのが見えた。


まあ、無事なら何よりだ。



それより今は玄関から無限と思われる煙の中からでてくる奴らが問題だ。


煙が晴れる。目を凝らし、腕に力を込める。

使用者が戦闘態勢に入ったことを察し、得物がぎしりと軋む。

刀身の一面に走っている無数の不気味な目がわずかに開き…やがてはっきりと開く。


『ははっ!いつぶりだろうな!俺を手に取ったのは!

 まったく最近─



曇りが完全に晴れきる直前、無数の弾丸に襲われる。


避けようかと一瞬考えたが、こいしを背負うようにしているからさすがに避けられない。

体で受けきるってのも、この物量は現実的ではない。


癪だが、消去法によってこいつで受け切るしかない。



ザフザフといった金切り音…?のような玉を弾く音と、発砲される音が場を支配する。

正直、いつ聞いてもおかしい。


煙が晴れ、少しづつ外道の輪郭が見えてくる。

5…10…30…?



…さすがに多くないか?


俺とこいつであってもさすがに、この量の奴らから放たれる弾丸を全て捌き切ることは不可能に近い。


致命傷となる玉だけは確実に弾き、肉を弾かせ、なんとか骨を立たせている。


ドチュ、ドチュとだんだんと肉が削られていく。


そんな私のことなんて気にせず、やつらは次々と弾丸を振り撒く。

頬をかすめ、脇腹を貫き、太ももに突き刺さる。

長くは持たない。だが、少しだけ見えてきた。


手練れは数人だけ。そいつらが球切れを起こしたら、まずこいしを壁に隠す。


そっから?そっからは…まあ、なんとかなるだろ。

俺とお前だ。

無理だったから俺が衰えたってことですべて解決だ。





突然の爆発で壊れていた耳がだんだんと治ってきたあたり…


きっとあの揺れは地震のように、いつまでも慣れるものではないのだろう。


先程まですべての玉を弾いていたはくが、だんだんと減速していき、はくの周りを通り抜ける弾丸の数が増えていく。


私には絶対に当たらないようにしている。

が、その分弾けていない、ある程度の弾丸が…はくの体に突き刺さるのが分かる。




…まただ…またこれだ。

非力な自分のせいで大切な人が傷つく。


言い訳にならないとわかってはいるが、自分の非力さを理解していなかった。


体は動かない。彼のために何もしてあげられない。

ただただ眺めるだけ。

何度も見た。何回も見捨ててしまった。

何回も…殺してしまった。



…そんな絶望に満ちた私をよそに、はくは生きる希望をなくした私を必死に、死にもの狂いで守ってくれている。


発砲音と金切り音の間で、はくの声が聞こえてくる。


『こ─しっ!3つか─えたら、──に飛べっ─。』


私でこれだから、おそらく襲撃者たちには聞こえてない。これをしたら…あとは、彼次第。



『……3、─、


言葉を発した後と言い切る一瞬のつかの間ではくの体が青いひかりに包まれる。


 ─1…!』


私が飛び出すと同時、はくの手数が一気に増える。

自身の分だけでなく、私が飛び出る導線まで防ぎきってみせた。



─結局私は学習せずまた壁から顔を出し、見えきった結末を見届ける。



先程私が飛び出したおかげで、一部の射線が私に向いたことで、はくが動けるようになった。


玉を弾きながら、一瞬で襲撃者の懐を侵略する。



次々と襲撃者が切り捨てられていく…

しかし、襲撃者たちも只者ではないようだ。


懐が侵略され、仲間が次々と死んでいっているのに一切焦る様子もなく、逆に近づいてきたから当てやすくなったといわんばかりに、容赦なく弾丸を放っている。


はくも、順調に撃退してはいるが、その分弾丸を受けている。



…これまでに受けた弾丸も含め、体はとっくに限界のはずなのに、彼は止まらずに得物を振り続ける。




そうして、残り10…5…




そして…0…







…意識が朦朧もうろうとする…


(…はぁ…無駄に…手練れ送ってきやがって…)


襲撃者全員が、無駄に飾り付けられた家でむくろになったのを確認した。


次は…こいしの安否を…




──体が限界を迎え、片膝をつく。


『まあ…そりゃそうだろ。

 その身体で力も使って弾丸も無数に貰ったんだ。

 さっきまで動けてるのが奇跡だろ。』


…杖代わりの剣が何かをぼやいている。


だが、あいつが言ってることも一理…いや二里くらいはある。


(これ…はぁ…

 余裕でぇ─死ねるなぁ…)


壁からこちらを眺めるこいしが見える。


あぁ…良かった。とりあえずこいしは─





(…は?誰、だ…?)


…音もなく後ろを取られていた。

何1つ気配もなく、玄関に背中を向けたことで増援に気づけなかった。


いや…1人?とはいえ、気配もなく明らかに手練れ。



死にゆく体であっても、思考だけはよく回る。


(こいしを守るには…)


そうして再びやつを強く握り、力を使い、振り向きながらそいつの首めがけて─


(相打ちでも─)







…何度も聞いた、肉の弾け飛ぶ音。




はくの…彼の頭が跡形もなく…




消し飛んだ─




まただ…また…繰り返される。



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