Ⅱ ─少女─
例の学校への招待状を受け取ってから約半年後…
私は入学式に必要なものを最低限のみ持ち、正門の前に立っていた。
そこにはまるで…まるで…
この学校への入学に対する以前まで持っていた高揚を表すかのような、高くそびえ立つ正門とその裏に続くさらに大きな校舎…
完全に建物に気を取られている私を横目に、クスクスと笑いながら学生が横を通り過ぎていく…気がする。
そんな羞恥心に耐えられなくなった私は、その人混みに紛れる。
流石は国内で最も重要視されている高校といったところだろうか、インターネットやテレビで見たことのある大物がチラホラと見える。
そんな人混みに紛れてもよいのかと疑問に思うが、そんな疑念を断ち切り、静かに人混みの中を歩く。
人混みに揺られながら、私、狛枝珀は再度考えをまとめる。
この学校は、いわば世界的に活躍する人材を排出する場所であり、私のような異物は本来混在してはならない。
例を挙げるとするならば、「精密操作」という才能を持った男性。
彼はこの学校で、様々なものを正確に、思うがままに操作することができるようになり、やがて世界的に様々なもの部門で活躍していった…
といったような、輝かしい人々が集まるはずだった。
しかし、してしまった。
なってしまった。
ここの学生に。
私が。
本来は輝かしい才能を持つ人々が集まる場所に、私のような「幸運」なんていう馬鹿げた才能で入学してしまった。
私はこういった注目されることが嫌いで、「才能保持者」とされないようにし、もし「才能保持者」とされても拒否をすれば良いと思っていた。
しかし、国が偶然今年抽選を行い、偶然数億分の1から私が選ばれた。
基本的にこの学校の存在意義は人材を排出し、世界の様々なことに貢献することなので、入学を断ることはできない。
…抵抗するのを諦めた。
流石の私も、最初から嫌がっていたわけではない。
初めは面白い人とか、楽しい青春とか、恋愛を想像してた…
が、冷静に考えると異物が楽しむなよ、という話になってきて1つの結論に至る。
この学校の生徒たちの邪魔をしてはならない。
ここの学校の生徒は、先程言ったように輝かしい才能を持ち、それに似合った人生を歩むことが決まっている。
なら、私のような人間は楽しむのではなく、邪魔をしないようにする必要があるということに気づいた。
これに気づいた当時は、我ながら天才かと思った。
そんな風に、この学校での生活の信念を再確認し、胸を張って会場に向かおうとすると、突然人混みが会場とは違う方向にずれる。
道を間違えたのかと思い、その人混みがズレたほうをみると、誰か一人を取り囲むように人だかりができているのが見えた。
(そんな大物がいるのか…)
なんて思い、その方向をちらっとみると、人だかりの中心にいる人物が見える。
そこには、黄色みがかかった鮮やかな緑色の髪に、それと同様の美しい色をした瞳、少し小柄で、整った、少し幼く見える顔を持った少女。
にこやかに明るい笑顔でおそらくファンだと考えられる人の対応をしている。
(あー…)
あいにく、私は悪い方向にそれを認識してしまった。
私は、"アレ"のような人は苦手だ。
別に存在を否定するわけでもないし、価値だって十分にあると思う。
が、それだけ人気者だと大変そうだし、もし嫌われでもしたらその人のファンが全員敵になるということになる。
だがら苦手だ。関わりたいとは思わないし、なりたいという憧れもない。
そんなお気持ちを表明しながら、あの少女に釣られてすっからかんになった入学式会場への道を、私は一人でまったりと歩く。
ほのかに感じた彼女の視線は気のせいだと思いたい。
✽
『…ふーん』
✽
そんなこんなで入学式が終わり、私は自身の教室へと向かっていた。
廊下を歩いて思うことはただ一つ。
長い。
設備が充実しているのはいいことが、そのため教室が多く、廊下もそれに比例して長くなっている。
途中迷子になりかけたが、なんとか自分のクラスの教室にたどり着く。
愉快な笑い声や話し声が聞こえる。
少し緊張しながら、ゆっくり、しかし違和感のないような速度で扉を開ける。
教室の中には個性あふれる見た目をしている(と思っておくことにする)、私の同級生が目に飛び込み、それと同時その同級生がこちらを見つめる。
しばらく、誰も声を発さないが、その間私はノコノコと教室内を移動する。
ある程度時間が経つと、 皆先程までのように喋り始め、なんとか気まずい空気はなんとか脱出した。
私は教卓横の自身の椅子を取りに行く。
この学校では席すらも自身で選べるほどに自由なのだ。なんと素晴らしい!
私はそそくさと、窓側の一番後ろの席を取る。
迷惑をこの人達にかけないと言ったかが、誰も取ってないなら別に問題はないだろう。
一度落ち着いて席に座り、教室を見渡す。
まだ、集合には時間があり、クラスメイト16人中10人程度教室にいることが確認できた。
入学初日ということもあり、話しているのは陽キャに見える人ばかり。
幸い、私のように静かにしている人もいるため、悪目立ちはしなかった。
座ってしばらくすると、長身の眼鏡を掛けた真面目そうな…まさに生徒会長と呼ぶのがふさわしいような男子が、こちらに寄ってきて…なんとこの私に話しかけてきたのだ。
『やあ!君も入学者だね!
僕の名前は
君の名前は?』
『…狛枝珀です。』
『狛枝君…ね!いい名前だ!覚えたよ。ありがとう!
共に良い学校生活を送ろう!』
そう言い、小倉は握手を求めてくる。
『…よろしくお願いします。』
そう言い、握手を交わす。
『…君はどこか桃山さんに似ているね。
ほらあそこの小柄のピンク髪の子だよ。
よかったら話しかけてみてくれ。きっと気うと思うよ!』
『…どうも』
『ああ!構わないさ!僕はみんなが楽しく過ごせるほうが望ましいからね!
あと、何か困ったことがあったら僕に相談してくれ!じゃ!また後で!』
『はい。また後で…』
(…元気なやつだったな)
明るすぎる小倉に押されたせいか、少しつかれたような気がして、肩で息を吐くと、
『やっほー 狛枝くーん!』
再びの元気な声と、突然な肩組みで度肝を抜かれる。
『…?あなたは…というかなんで名前を…』
『あー、驚かせちゃったらごめんね!
僕は
『あぁ…どうも…よろしくお願いします…』
そこには、黒髪で、同じくらいの身長の柏木大樹と名乗る好青年がいだ。
『さっきの会話でも思ったけどーなんでそんなテンション低いのさー!こんなところに来れたんだから、元気だしなよー』
『それよりなんで名前を…』
『あーさっきのねー小倉くんとの会話を聞いてたから?
それに、掲示板とかにも載ってるから知っても違和感はないでしょー』
『あぁ…どおりで…』
…違和感はない…この人たちはずっとこんな状況にたんだもんな。
名前なんてバレてるのが当たり前なのか…なれないねぇー…
『そ!まあ、多分大変だろうけどさ、仲良くしようや!よろしく!』
『あぁ…よろしくお願いします。』
『お?さっきより元気な気がする!wま、がんばろー』
『そうで─
まるで開き慣れたかのような開閉音が教室内に響き、ある人影が現れた。
『おー?早速大物登場だね。』
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