悪夢再び

その後3人は保健室で休むことにし、保険医の戸田結依(とだ ゆい)は優しく迎え入れてくれた。


「もしかして皆サボりかな?架山君にしては珍しいね」

「そんなんじゃない、です………」

「でも、やっぱこれってサボりになるのかな?」

「大丈夫よ、ちゃんと体調不良で休んでますって、伝えるから」

「ありがとうございます」


それから、授業が終わるまで暫く保健室で休み、俊は軽く仮眠を取らせてもらった。

その間、敦也と甲斐は結依に今日の経緯を説明し、今後のことを話し合っていた。


「現状、俊が王様の言いなりになってる間は、俺たちに何かしてくる可能性は低い。でもその分、俊への負担が大きいのに変わりはない。今後もこの状況が続くとしても、俊自身がいつまで持つか………」

「そうね………。実際架山君の負担が大きいのは明かだわ。事実、昨日されただろうことを考えると、このままは良くないわね。でも、だからといって手を出せば、確実に今度はあなたたちが標的にされる。そうなったら、架山君の力では防ぎきれないでしょうね」


八方塞がりの状況。

皆、何かできないかと考えてはいるものの、それに対する代償があまりにも大きすぎて。

結局、何も答えは見つからないまま、「今は架山君の負担にならないようにすること」と結依に言われて、二人は仕方なく、暫くは今まで通りに、見守っていくことにした。


それから2.3日が経ち、あれ以来大きな変化はなかったにしろ、俊には章裕からの呼び出しは続いていた。

だが、その内容は至ってシンプルなモノで、生徒会長という立場上、学園の方針を決める権利を持つ章裕の補佐としての仕事も、俊は任されていた。

本来ならば、副会長である寧音が任される事なのだが、寧音自身が「面倒くさいことは嫌い」と駄々をこね、全ての仕事を章裕に押し付けていたのだった。

そのストレスもあって、章裕は俊に対し、時折重荷になるような命令をしていたのだった。


「総会の資料、纏めました。それと、サッカー部から経費の申請があったそうです」

「おう。経費の方は内容に問題がなければ通せ」

「わかりました」


こんなやりとりだけでは、ごく普通の学園の生徒会の話に聞こえるが、実際は生徒会室には二人だけしかおらず、他のメンバーは別室で作業していた。

俊は申請の内容に目を通し、問題がないことを確認して、生徒会承諾の判子を押印し、章裕の名前を書いて、隣の別室にいる会計担当に渡すと、生徒会室へ戻ってきた。

ちょうど切りが良かったのか、章裕が背伸びをしていて、俊は「飲み物、買って来ましょうか?」と声をかけると、「まだ良い」と返事をし、机に頬杖をつき、少しぼんやりしていた。

俊は敢て何も言わず、纏めた資料をクラスごとに分け、輪ゴムで止めていく。

それが終わると、また次の仕事に取りかかり、そつなく作業を進めていく。

そんな姿を見て、章裕はまた何かを思いついたかのように、口元を歪めると、席を立ち、俊へと近づいた。


「架山って本当、良いやつだよな」

「………突然、何言ってるんですか?」

「いや、思ったことをそのまま言っただけだよ。マジ、お前って何でも言うこと聞くし、真面目だし、顔もいいし。結構モテてるんじゃないのか?」

「………さあ、どうでしょう?そう言うの特に気にしてないので」

「ふ~ん…。じゃあさ、告られたことは?水瀬以外にいなかった?」

「………」


章裕から、彩希の名前が出た瞬間、俊は一瞬だけ作業していた手を止め、俯きながら「いませんよ」と答え、再び作業に取りかかる。

だが、その瞬間を章裕は見逃さなかった。


「へ~………。じゃあ水瀬以外とは付き合ったことないんだ?」

「………何が言いたいんです?」

「別に?ただなんとなく聞いてみただけだよ。それよりお前、兄貴からあんなことされたのに、よく平気で俺の元に来られるな。もしかして、お前も兄貴みたいに男も平気ってやつ?」

「………違います」

「その間は何だよ?まぁでも、一回されただけじゃわかんないか………」

「え………?」


章裕の言った言葉の意味が分からず、近づいてきた章裕を見上げると、いきなりあごを掴まれ、キスをされた。


「っ!!」


俊は驚いて離れようとするものの、章裕に押さえ込まれて。

じたばたして、何とか椅子から立ち上がり、ようやく離れる事が出来るが、なおも章裕は腕を掴み拘束してくる。


「やめてください」

「うるせーよ。あんまり騒ぐと隣の奴らに聞こえるぞ?」

「っ!!」

「そうそう、いい子にしていれば酷くはしねーからよ…」


そう言って章裕はまたポケットからスマホを取り出した。


―――何をさせる気だろう?


不安がる俊に、章裕はスマホを何やいじりながらにやつき、そしてある画像を表示させると、それを俊に向け言った。


「これ、お友達にバラされたくないだろ?」

「っ!?」


その画像は、俊が意識を失った後に撮られたであろう、裸の写真だった。

それを敦也たちが見たら、きっともう二人を止められない。

王様に反抗してしまうだろう。

そうならないためにも、この画像を二人に送られないように、章裕の要求を聞いた。


「何をすればいいんですか………?」

「聞き分けいいな。そうだな………また俺の家に来いよ。今度は兄貴と二人だけで相手してやるから、逃げたきゃ逃げてもいいんだぜ?でも、そうなったらお友達にこれが行くわけだけどな………」

「………分かりました。行きます」

「………本当、聞き分けのいいやつ」


そうして、また章裕の家に行くことになり、既に帰宅していた雅崇は「いらっしゃい、待ってたよ」と満面の笑みで迎えた。


「逃げたきゃ逃げてもいい」


その言葉通り、本当は逃げ出してしまいたい。

でも、敦也たちにこんな事を知られたくない。

八方塞がりの袋小路に追い込まれた俊は、もはや抗う気力はなく、章裕たちにされるがまま、意識がなくなるまで、また弄ばれるのだった。

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