焚き火の匂いと村の夕暮れ
丘を越えた一行は、緩やかな下り坂の先に広がる小さな集落へと足を進めた。
家々は十数軒ほど。低い石垣と畑に囲まれ、軒先では干し草や薪が積まれている。
夕方の光が屋根瓦を金色に染め、焚き火の煙がゆるやかに空へ溶けていく。
「ほぉ……こじんまりしてるが、静かでいい場所だな」
グランが鼻をひくつかせる。
「……飯の匂いもするな」
「さっきからそればっかりじゃない」
サリオンが笑いながら肩をすくめる。
「でもまぁ、確かにお腹はすいたわね」
村の入口で、木の桶を抱えた少年が目を丸くして立ち止まった。
「旅の人……?」
「ああ、少し休ませてもらいたい。宿はあるかい?」とグラフが声を掛ける。
少年は戸惑いながらも、奥の通りを指差した。
「真っ直ぐ行って、右側にあるおっきい家。おばちゃんが宿やってる」
「助かる」
グラフが礼を言うと、少年はぱたぱたと駆け去っていった。
通りを進む間、視線を送ってくる村人もいれば、焚き火の支度を続ける者もいる。
外からの旅人は珍しいらしいが、敵意はない。
アマンダは荷馬の手綱を握ったまま、軒先の古びた木箱や干し網を横目でちらりと見る。
「……へぇ、この辺りは保存食の作り方がちょっと違うみたいだね」
「漁るつもり?」
ミラがニヤリと笑う。
「見てるだけさね、今はね」
アマンダは肩をすくめた。
宿の戸口を叩くと、中から陽気そうな女将が顔を出した。
「おや、旅の方? ちょうど部屋が空いてるよ。飯ももうすぐできる」
「そりゃありがたい」
グランとミラの顔がぱっと明るくなる。
荷物を置き、夕暮れの匂いと共に漂う煮込みの香りに誘われるように食堂へ向かう一行。
この夜は、久々に温かい食事と屋根のある寝床で、静かに過ごせそうだった。
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