光のある方へ
この街の夕方は、やっぱり少しだけ冷たい。
アスファルトに沈んでいく陽の色は、昔の私だったら、きっと「寂しい」って思っただろう。
でも今は――少しだけ、きれいだと思える。
私は今、専門学校に通っている。
高校に通い直して、卒業して、自分で決めた道だった。
親に反対された。とくに母には、「どうせ続かない」「誰かの真似でしょ」と言われた。
だけど、今の私は、あの頃の私とは違う。
苦しいときに、泣けるようになった。助けてって、言えるようになった。
心の奥に押し込めていた、「愛されたかった」という願いも、やっと自分の中で認められるようになった。
母との関係は、正直、まだ難しい。
でも、それを「私が悪い」と思わなくなっただけでも、大きな一歩だと思ってる。
学校の帰り道、駅前のカフェの前で、聴き慣れた声で呼ばれた。
私はその声が聞こえた瞬間に振り返る。
「澪」
──先輩だ。
背中はちょっと丸くなって、髪も少し伸びていた。
だけど、私を見るあの目だけは、昔と何も変わっていない。
「……久しぶり」
「久しぶりっていうほどでもないだろ。先週会ったし」
「でも、なんかさ……こうやって偶然会うと、ちゃんと“続いてる”って思えるよ」
先輩は笑って、「わかる」と小さく言った。
駅の改札の音、人の話し声、車のクラクション。
いろんな音が混じってるはずなのに、私たちの間に流れる時間は、不思議なくらい静かだった。
あの頃、私は壊れていた。
誰かが抱きしめてくれることを望みながらも、
本当は、自分で自分を許したかった。
先輩は、ただ「隣にいてくれた」。
何も変えようとしなかったのに、それが一番、私を変えた。
今の私は、ちゃんと息をしてる。
食べて、寝て、笑って、たまに落ち込んで、それでも前を向こうとしてる。
それが「生きる」ってことだって、ようやくわかった気がする。
「もう、夜じゃないんだね」
私がそう言うと、先輩は、ちょっと驚いたように私の顔を見て、
少しだけ目を細めて、空を見上げた。
「そうだな。光のあるほうへ、ちゃんと歩いてる」
私はその言葉を胸に刻んで、また前に足を踏み出す。未来のことなんて、まだ全然わからない。
でも、わからないままで進んでいけるようになった。
わたしたちは、あの夜を超えた。
少しずつ、何度も、すこしだけずつ。
そして今も、ちゃんと、生きている。
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