第5話 魔神戦争編 3
第5話 連合の誓い
荒野をさまよいながら、サビの心は深い闇に覆われていた。脳裏には、共に死線を潜り抜けてきた仲間たちの顔が次々と浮かび、彼らを救えなかった無力感と、拭い去れない罪悪感が心を苛んでいた。飢えと疲労が極限に達したその時、彼の前に突如として一つの影が現れた。それは、ミノ王国の若き王子、ハクライ率いる精鋭部隊であった。彼らは疲労困憊のサビを見つけると、警戒しながらも近づいてきた。ハクライの視線は、サビの全身を吟味するように向けられ、その鋭い眼光は彼が只者ではないことを物語っていた。
「お前がサビか。噂は聞いている。お前の戦いが、我々をここまで導いたのだ。」
ハクライの言葉は、乾ききったサビの心に一筋の光を灯した。自分が行ってきた無謀とも思える戦いが、誰かの希望になっていたという事実に、サビは驚きを覚えた。同時に、胸の奥に小さな、しかし確かな希望の灯がともるのを感じた。それは、まるで凍りついた大地に、春の兆しが訪れたかのようであった。
「俺の戦いが……?」
かすれた声で問い返すサビに、ハクライは力強く頷いた。その表情には、一点の曇りもなかった。
「そうだ。お前が妖魔軍を足止めしてくれたおかげで、我々はここまでたどり着けた。聖シュー王国の神官スティック殿と、カゴメ軍の小隊も、お前の戦いを知って、我らとの合流を決意したのだ。」
ハクライの背後には、長旅の疲労を色濃く滲ませながらも、瞳の奥に強い意志を宿した30人の決死隊が立っていた。彼らの視線には、サビへの期待と、新たな戦いへの覚悟が宿っていた。彼らは、サビの伝説的な戦績を耳にし、その勇姿に希望を見出していたのだ。
「サビ、我々と共に戦ってくれないか?この世界を妖魔の脅威から救うため、我々にはお前の力が必要だ。」
ハクライの真剣な問いかけに、サビは一瞬ためらった。再び仲間と共に戦うことへの恐れ、そして再び失うことへの不安が頭をよぎった。過去の痛ましい記憶が、走馬灯のように脳裏を駆け巡る。しかし、同時に、仲間を失った痛みと罪悪感を乗り越えるには、新たな仲間と共に、この絶望的な戦いに身を投じるしかないという悟りが胸中に広がった。それは、暗闇に閉ざされた部屋に、一筋の光が差し込んだかのような感覚であった。
「……わかった。俺も貴様らと共に戦おう。俺の全てを賭けて、奴らを打ち倒す。」
サビの決意の言葉に、ハクライは静かに微笑んだ。その微笑みは、彼の深い洞察力と、サビへの信頼を表していた。こうして、荒野で出会った運命の糸は、サビを連合軍の一員として、新たな戦いの渦へと導いていくこととなる。
連合軍は、サビの並外れた知略と戦術を最大限に活かし、妖魔軍との本格的な対峙に向けた準備を急ピッチで進めていった。来るべき戦場は、妖魔軍本隊との激突が予想される、広大な平原である。サビは地形を詳細に分析し、敵の動きを予測しながら、緻密な戦略を練り上げた。彼の新たな戦いが、今、ここから、その幕を開ける。
連合軍は妖魔軍の本陣から約4キロの距離に、周到に計算された布陣を敷いた。夜明け前、凍えるような空気の中、合戦の火蓋は聖シュー王国の神官スティックの厳かな祈りから切って落とされた。彼女の祈りは、天へと昇る光の柱となり、連合軍兵士たちの心から恐怖を取り除き、妖魔軍が放つダークエルフの邪悪な魔法に対抗する力を与えた。サビは神官の祈りの存在は知っていたが、これほどの絶大な効果があることに内心驚きを隠せない。兵士たちの士気は高まり、瞳には決意の炎が宿っていた。彼らは、スティックの祈りがもたらす奇跡的な力を肌で感じ、勝利への確信を強めていた。
数では圧倒的に妖魔軍に劣る連合軍に残された唯一の手段は、機動戦であった。巨大な敵に対し、小さな盾を巧みに動かして防御し、小さな剣で敵の急所を突く戦法。その「小さな剣」である攻撃部隊の最前線に、サビの姿があった。彼の隣にはハクライが、そして後方にはスティックが、それぞれが持ち場を固めていた。サビの指揮のもと、連合軍は一糸乱れぬ動きで妖魔軍の攻撃をかわし、巧みに反撃の機会を伺った。
サビはまさに獅子奮迅の活躍を見せた。漆黒の暗黒刀ブラックサンダーを振るうたびに、妖魔軍の屈強な将兵が次々とその首を刎ねられていく。彼の働きは、連合軍の中でも群を抜いており、その圧倒的な力は妖魔軍を恐怖に陥れ、同時に連合軍の兵士たちに勇気を与えた。妖魔兵たちは彼の姿を見るだけで戦意を喪失し、連合軍の兵士たちは彼の背中に勝利の希望を見出していた。日が沈み、満身創痍の兵士たちが自陣へ引き上げる頃には、サビの身体は返り血で赤く染まり、「赤い傭兵」という異名で恐れられるようになっていた。彼の背中には、言葉にならないほどの疲労が滲んでいたが、その瞳にはまだ戦いへの覚悟が宿っていた。
合戦が始まって数日後、戦いの合間を縫って、サビとスティックは言葉を交わすようになった。連合軍の損耗はあったものの、それ以上に妖魔軍を削ることができていたのは、サビの活躍が大きかった。スティックは、サビの戦いぶりを間近で見て、彼の強さと、その内側に秘められた優しさを感じ取っていた。
「サビ殿、あなたの戦闘は本当にお見事です。私たちがここまで来られたのは、ひとえにあなたのおかげです。」
スティックの透き通るような声は、サビの心に空いた深い穴を優しく癒すような響きだった。その声は、まるで清らかな泉の水のようであった。照れくさそうに笑うサビの表情は、戦場での冷徹な表情とは打って変わって、どこか幼さを感じさせた。その笑顔は、彼女の心を温かく包み込んだ。
「俺はただ、できることをやっただけだ。お前たちの祈りと、ハクライたちの奮戦があったからこそだ。」
サビの背中に、スティックは言葉にできないほどの安心感を覚えていた。彼女は望んでこの場にやってきたわけではなかった。魔神を含む妖魔軍との対決は、どう考えても自殺行為に思えたからだ。ただ、聖王から発せられた命令が、巡り巡って自分の元に届いただけ。しかし、サビがブラックサンダーを振るうたびに生還の可能性が高まるような気がして、スティックは高揚を感じていた。戦場では常に冷静で鋭いサビが、時折見せる優しい笑顔は、スティックの心を和ませていた。彼女は、彼の存在がどれほど自分にとって大きな支えになっているかを実感していた。
ある夜、戦場の喧騒から離れた焚き火を囲んで、二人は語り合っていた。燃え盛る炎が、二人の顔を赤く照らす。夜空には満月が輝き、二人の会話を静かに見守っていた。
「スティック、俺はずっと仲間を失った罪悪感に苛まされていた。まるで、自分だけが生き残ってしまったかのような苦しみが、ずっと俺を蝕んでいたんだ。でも、君たちと出会って、少しずつ前に進める気がしている。この戦いが終わったら、俺もまた、誰かのために戦えるのかもしれない。」
サビの告白に、スティックは静かに耳を傾けていた。彼女の瞳には、深い共感が宿っていた。そして、ゆっくりと口を開いた。
「サビ、私も同じです。神官として、多くの人々を救えなかったことに、ずっと悩んでいました。私の祈りは、本当に人々の心を救えているのか、と。でも、あなたと共に戦うことで、希望を感じています。あなたの戦いを見て、私もまた、人々を導くことができると、そう信じられるようになりました。」
その言葉の後、スティックはそっとサビの、ごつごつとした大きな手を握った。彼女の手は小さく、しかし確かな温かさをサビに伝えた
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