月面ラプソディ
相羽廻緒
第1話 調査依頼
鏑木(かぶらぎ)拓哉は嫌な夢を見た。地球衛星軌道上をライフル銃の数倍ものスピードで周回するスペースデブリがひと塊になり、巨大な惑星と化して宇宙船に衝突する夢だ。鏑木らもろとも宇宙船は粉々になり、新たなデブリとなって真空空間を漂う、俗にいうケスラーシンドロームが起きてしまう。まさにミイラ取りがミイラ。
この悪夢はある種、職業病といえるらしく、これまでに何度も見ただけでなく、他のデブリ除去作業員も、定期的に見ては睡眠を妨げられるとぼやいていた。
壁に固定されたシュラフの中で眠っていた鏑木は、ファスナーを下ろし、顔のすぐ脇にある丸窓のシェードを開いた。球体ガラスの向こうでは、長方形のソーラーパネルが太陽光を求めて風にそよぐように微動している。その向こうに蒼く輝く地球が見えた。周囲の闇に対する圧倒的な輝き。いつ見ても美しく感動を覚える。しかし、その感動も、10年前に初めて目にしたときのそれには到底敵わなかった。
10年前の2025年当時、鏑木は23歳のフリーターだった。日雇い仕事で実家暮らし。まとめて金を稼いでは、好きなバイクいじりをしてだらだらと過ごす。そんな何の目的もない怠惰な生活を送っていた。
そんなある日、元アプリ会社社長で大富豪の西園寺(さいおんじ)航(わたる)が、月周回飛行を共にするクルーを、世界中から一般公募するという動画配信を目にした。彼が3年前、自費で宇宙へ行ったというニュースは、鏑木も知っていた。その体験ですっかり宇宙に魅せられたらしく、今度はさらに大がかりなプロジェクトを立ち上げたらしい。
その名も『ムーンリバー計画』。募集条件はなし。主に求める人材は、『何らかのスペシャリティがある』『将来に対して明確な目標がある』『自分を変えたいと思っている』。この3点だった。その中で、鏑木に当てはまるものは最後の項目しかなかった。けれど、ダメで元々。どうせ採用されるわけはないさと、宝くじでも買うような気持ちで、鏑木は自己紹介動画を送った。
その数週間後、西園寺の動画チャンネルで配信された、『ムーンリバー計画、応募者数百万人突破』という動画を見て、鏑木は自分がどれだけ浅はかだったかを思い知らされた。その動画で紹介された応募者は、オリンピックの金メダリストやピューリッツアー賞を受賞したカメラマン、挙句の果てには某国の元大統領と、鏑木が逆立ちしたって敵わないスペシャリティのある逸材ばかりだったのだ。これなら宝くじを買ったほうがまだ見込みがある。自分にはやはり、田舎でくすぶるフリーター身分がお似合いなのだと、完全に諦めた。
ところが。社長時代から斬新かつ奇抜な言動でマスコミを賑わせていた西園寺は、その数日後に配信した動画内で、
「みなさん、たくさんのご応募ありがとうございます。こんなに集まるとは予想もしていなくて、どう選考すればいいか困惑しています」
そんな、うれしい悲鳴を上げた。
「でね、本当に申し訳ないんだけど、選考基準を変えました。僕は日本を元気づけたい。そのためにも、活力のある若者がもっともっと育って欲しい。だから、一緒に行くクルーは日本人から選ぶことに決めました」
そう発表した瞬間、世界中から非難のコメントが殺到した。当然だ。振り回された応募者が怒りたくなる気持ちもわかる。けれど、西園寺の気まぐれともいえる発言が、ネット上をさらに騒然とさせたのは、次のひと言だった。
「で、月周回するんだから、どうせならそれにちなんで、太陽系の惑星と衛星にちなんだ名前の人がいいかなと思って、今、該当する人を選抜してます。なんで、もう少ししたら正式発表できると思うので、それまで少々お待ちください」
西園寺がカメラに向かって笑顔で手を振り、動画は終わった。コメント欄が荒れに荒れていたものの、鏑木にはいまいち意味がわからなかった。選考条件が代わろうが、やはり自分には縁のない話なのだと思った。
しかし、それから3日後、ムーンリバー計画の事務員を名乗る女性から電話がかかってきた。鏑木が同プロジェクトのクルー候補に選ばれたというのだ。彼は耳を疑った。
「なぜ?」
率直に訊いた。
「鏑木さんの名前には、木星の『木』が入っているからです」
事務員は至って真面目にそう答えた。そんな馬鹿な。誰かの悪戯だろう。鏑木の疑いは、事務員の連絡通り、その一週間後に西園寺の家へ送迎する車が家の前に到着したことで完全に消えた。
鏑木にはコードネームとして、木星の英語読みである『ジュピター』の名が与えられ、他の候補者と一緒にロシアへ飛び、そこで宇宙旅行に必要なあらゆる訓練を受けた。途中で失格、あるいは辞退すれば、『ジュピター』候補者は他にもいる。教官からはそう告げられた。実際、何人かがリタイアして、そのたびに新たな『マーズ(火星)』や『マーキュリー(水星)』がやって来た。
鏑木も何度か心が折れかけた。けれど、これは人生を変えるまたとないチャンスだと自分に言い聞かせた。双子の兄に劣等感を抱き、生きる目標に迷っているという、『ウラノス(天王星)』候補者の天王寺(てんのうじ)広海(ひろみ)と仲良くなり、互いに励まし合い、ムーンリバー計画の正式クルーの権利を掴み取った。
そうして宇宙へ飛び立ち、初めて見た母なる地球は圧巻だった。あの迫力は写真では伝わらない。肉眼で見てこそだと思った。それから順調に飛行を続け、月の裏側をぐるっと回り、クレーターだらけの殺風景な月面の向こうにアースライズ(地球の出)を見たときのさらなる感動。西園寺をはじめ、その光景を見たクルー全員が心を震わせて泣いた。あの瞬間、鏑木の人生は決まった。一生を宇宙に捧げよう。そう心に誓った。
そして、スペースデブリが問題視されていることに目をつけた。スペースデブリとは、地球の衛星軌道上を周回している、人工衛星やロケットなどの人工物体のことを意味する。日本語では宇宙ゴミと訳されるが、ただ宇宙空間を汚しているだけでなく、秒速8キロメートルという高速で飛び回り、わずか直径10センチの破片でも、直撃すれば宇宙船を壊滅させる破壊力を持つ。
鏑木は再び宇宙へ行くため、日本に戻ってから本格的に勉強とトレーニングを始め、五年前にデブリ撤去技術を開発する会社『コスモス』を立ち上げた。西園寺が出資して全面的にバックアップしてくれた。
その西園寺はというと、ムーンリバー計画でますます宇宙に惚れ込み、全財産を投げ打って、月探査事業に取り組んだ。その結果、核融合発電の燃料になるヘリウム3やレアアースの採取に成功。各国による、月資源の『早獲り競争』に一番乗りしたことで、投資した資金の何百倍という莫大な利益を上げ、今度はそれを資金にして、地下に氷が埋まる月の南極に居住地を建設することに着手した。
それがちょうど、鏑木が出資を申し出た頃と時を同じくするが、今では地下数十メートルの溶岩洞を利用して、その上にドームを張ったムーンパレスなる居住地を建設して、完全に移住してしまった。
『人間が想像できることは、人間が必ず実現できる』
西園寺のことを考えるとき、鏑木の頭にはいつも、このSF小説の大家・ジュール・ヴェルヌの有名な言葉が思い出される。
その西園寺に感化されて、鏑木もデブリ撤去用の技術を次々と考案した。その中でも特に開発に力を注いだのが、マグネット式のモジュールだった。共同開発者の名前から『ソラ』と名づけたこのモジュールには、周囲のスペースデブリを吸着しながら速度を落とし、一定の重量に達したところで大気圏に突入。そのときに発生する熱によって焼却させるプログラムを組み込んだのだった。これを、打ち上げ前の段階で人工衛星やロケットの部品に装着する契約を、各国の政府や民間企業と結んでいる。
現在は、従来の軌道から逸れてしまった、『ソラ』が装着された物体をキャッチするための、網やテザー(頑強な紐)を搭載した小型宇宙船『ネメシス』の実証実験を行うため、各国のデブリ除去開発企業が集まる宇宙ステーション『ガイア』に滞在している。
腕時計のアラームが鳴った。その『ネメシス』に乗る開発助手が、そろそろ作業を終えて帰還する時間だった。
鏑木は細長いドアを開けて狭い自室から出ると、無重力状態の中を器用に移動して、トイレのホースで小便を済ませ、『コスモス』に割り当てられた司令スペースで助手の帰還を待った。司令スペースと言っても、『ネメシス』内の作業員との連絡や、地球とのテレビ電話などに使うモニターと通信機器、パソコンしかない簡素なものなのだが。
助手の様子はどうかと、『ネメシス』内の映像をモニターに映し出すと、だらしなく口を開けて眠る男の顔が映し出された。ブラン陽介(ようすけ)。それが、インドネシア人の父親を持つ彼の名前だった。33歳。鏑木と同い年で、同じくフリーターだった10年前にムーンリバー計画に参加した仲間だった。
アースライズを見たとき、陽介も感動の涙を流していた。だが、その捉え方は鏑木とはまるで別物だったらしい。陽介はあまりに荘厳な光景を目にしたことで、何事もマクロ的に見るようになり、日常生活のあらゆる物事が些事に思えるようになったと言う。そして、宇宙旅行する以前にも増して自堕落になってしまった。
地球に帰還後はマスコミに取り上げられ、放っておいても何らかの収入を得られた。ところが、追随するように他の国や民間企業が次々と月周回旅行を実施したことで、あっという間に物珍しさはなくなり、陽介は収入源を断たれてしまった。
「雑用でも何でもいい。仕事をくれないか」
プライドを捨てて、鏑木に頭を下げてきたのは2年前のことだ。それが今では、この体たらくだった。
「おい、起きろ」
マイクを通じて鏑木が注意すると、陽介はビクッと身体を震わせて、天井に頭をぶつけた。『ネメシス』の内部は狭い。乗員は2名が限度だった。
「ふぁーあ……」
陽介は悪びれた様子もなく、肩甲骨を広げるように両手を上げ、大きくあくびをした。
「もう時間?」
寝ぼけ眼をこすりながらカメラを見つめる。
「もう時間? じゃないんだよ。何のために乗ってんだ、お前は」
「だって、何もやることねーんだもん」
陽介の言い分は一理ある。『ネメシス』は全自動でのスペースデブリ除去を目的に考案されたものだ。その開発の最終段階に入った今、トラブルが起きたときのために乗り込んだ監視役の陽介は、ただ宇宙空間を眺めるのが仕事になっているといってもいい。だからといって、退屈になったら寝てもいいと許可した覚えはなかった。
「何も問題はなかったってことだな?」
「うん。さすが、鏑木。ムーンリバー落ちこぼれ組の俺とは違うね。優秀、優秀」
何かと自己卑下し、鏑木を茶化すように言うのが、いつしか陽介の口癖になっていた。
「よせ」
鏑木はたしなめつつ、『ネメシス』の位置を確認した。もう間もなく『ガイア』にドッキングする。これも全自動だ。あと何回か実験を繰り返したら、乗員スペースを排除した実機開発のフェーズへと移行する予定だった。そうなれば、陽介は不要になる。その処遇について、鏑木はもうすでに考えてあった。
船外カメラの映像でドッキングの様子を見守っていると、携帯電話が鳴った。画面には『月丸斗(つきまるとう)真(ま)』という名前が表示されている。彼もムーンリバー計画の仲間だ。だが、久しく連絡を取ってなかった。懐かしい気持ちを抱きながら鏑木は電話に出た。
「久しぶり。どうした? 誰かと掛け間違えたか」
「いや」月丸は冗談に付き合わない。「今どこにいる? ムーンパレスにいるのか?」
「は?」
「ムーンパレスだよ」
「いるわけないだろ。宇宙にはいるけど、地球の周りをぐるぐる回ってる。どういうことだ?」
「メール読んでないのか? いや、やっぱり誰かの悪戯なのか、でもたしかに出発したって言ってたし……」
月丸は独り言を呟くように言う。
「メール? 悪戯?」
「西園寺さんから」
「いつ? 何て?」
鏑木はパソコンで自分のメール受信ボックスを開いた。つい30分程前に西園寺からのメールが2通きていた。
「あっ」
西園寺から連絡がくるのも久しぶりのことだった。1通目の件名は『招待』で、二通目は『調査依頼』となっている。鏑木は1通目のメールを開いた。
「きてたか?」
「2通きてる」
「やっぱりか。何て書いてある?」
月丸が興奮気味に訊く。
「ちょっと待ってくれ」
パソコン画面にメールの文面が表示され、鏑木は目を通した。
『ムーンリバー計画クルーの中から1名、わたしの全財産を譲り渡す。詳細はムーンパレスにて直接伝達する』
挨拶もなく簡素な文章とともに、送迎ロケットの出発場所と日時が記載されていた。……3日前の日時だ。そのことを伝えると、
「鏑木もか。俺も」
「悪戯かな? 遺産相続は取り消しになったはずだろ」
ムーンリバー計画クルーの中から1名を選び遺産を相続させる、という話は2年前にもあった。癌を患った西園寺がそう言い出した。月の資源を売りさばくことで得た彼の総資産は天文学的数値にのぼる。それを、血の繋がらない自分たちの誰かに? みんな半信半疑だった。どうせいつもの気まぐれだろう。
結果、その通りだった。突然、遺産相続の件を撤回するとの報せがきた。鏑木は落胆した一方、どこかで安堵もした。自分の手に負えない莫大な資産を手に入れることに対して、恐怖する気持ちがあったからだ。
ただ、気になったのは、それから数ヶ月後、西園寺がムーンパレスに完全移住して、外界との接触を避けて引きこもってしまったことだ。それ以来、鏑木は彼とは一度も会っていなかった。
「文章も事務的すぎる。まるでAIが打ったみたいじゃないか。本当に西園寺さんからのメールだったら、もっとフランクだし、近況報告もあるんじゃないかな」
「俺もそう思った。違和感がありすぎる。ただ、メールに書かれたロケット発着場に連絡したら、たしかに日本人3名を乗せた宇宙船が、3日前に月に向かって出発したそうだ」
「3名? 乗ったのは誰だ?」
「それが知りたくて、ムーンリバー計画に参加した連中に今、手あたり次第、連絡をしてるところだ。天王寺も置いてけぼりをくらった」
「だったら、陽介もその3人の中にはいない。今、一緒にいるから」
「あいつ、まだ働いてるのか?」
「ああ。すっかり不良債権化してるけどな」
そう言っているそばから、気密トンネルに通じるハッチが開けられた。船外活動(EVA)用の宇宙服からジャンプスーツに着替えを終えた陽介が顔を覗かせる。鏑木は労いの意味を込めて、すぐ近くの冷蔵庫からパック入りのオレンジ・ジュースを取り出し、「お疲れ」と彼に差し出した。
「サンキュ」
待ってましたとばかりに陽介はニカッと微笑み、飲み口から一気にオレンジ・ジュースを呷る。その姿を視界の端で捉えながら、鏑木は電話に意識を戻した。
「ちょうど今、戻ってきた。テレビ電話に切り替えてもいいか?」
「頼む。陽介にも事情を説明して、メールを確認してもらってくれ」
「わかった」
鏑木は、テレビ電話の映像がモニターに映るように設定した。
「何? どうした?」
まだ寝ぼけた顔をして、ふわりと浮いて近づいてきた陽介は、モニターに月丸の姿が映し出されたことで画面を見た。縁なし眼鏡をかけた、髪の毛に白いものが混じった男が映る。しばらく見ないうちに老けたな、と鏑木は思った。月丸は鏑木よりも七歳上だ。ムーンリバー計画のときは売れないミステリー作家だった。それが今は、売れっ子ノンフィクション作家として活躍している。
「おっ、懐かしい顔。どうした?」
陽介は笑顔で手を振るが、月丸は応じる気はないらしい。
「鏑木に訊いてくれ」
渋い表情を浮かべて言った。
「いや待て。その前にもう1通のメールを読んでくれ」
鏑木はもう1通のメールを開いた。『調査依頼』という件名のメールだ。画面に映し出されたのは、
『1969721256』
という数字の羅列だった。文章は何も書かれていない。
「何これ?」
陽介が不思議そうな顔をして、画面と鏑木の顔を見比べる。
「どうした? 何て書いてあった?」
モニターの向こうで月丸が苛立たしげな声を上げる。
「数字が書かれてる」
「数字?」
「1969721256。ちなみに、メールの件名は『調査依頼』になってる」
「俺と同じだ」
月丸は眉間に皺を寄せた。
「なあ、何の話だよ?」
腕を掴んできた陽介に、鏑木はメールのことを説明してやった。すると、陽介の顔には怒りとも焦りとも見える色が浮かんだ。
「ちょっと代われ。俺もメールをチェックする」
鏑木を肩で押しのけるようにして、陽介は自分のメール受信ボックスを開いた。鏑木もパソコン画面を横から覗き込み、陽介よりも先に見つけた。同じく西園寺からの『招待』と『調査依頼』という件名2通のメールを受信していた。陽介は何かに焦るように『招待』のほうのメールを開いた。文面は、鏑木のものとまったく一緒だった。
「はあ!?」
目をカッと開いてパソコンの画面を見つめていた陽介は、素っ頓狂な声を上げた。
「どうした?」
モニターの中で月丸が騒ぐ。
「3日前って、何で今になってメールが届くんだよ、フェアじゃねーよ!」
握りしめた拳を机に叩きつけ、陽介は唇をぎゅっと噛みしめた。それから鏑木を振り返る。
「宇宙船に乗った連中は、ちょうど今、月に到着する頃か。クソッ! どうにかして俺も行けないか?」
『俺たち』と言わないところが陽介らしいな、と鏑木は思った。
「今から? 無茶言うな。ここには、月まで行ける宇宙船なんてない」
鏑木は一笑に付したが、陽介は諦める様子を見せない。
「お前、何でそんなに潔いんだよ? 西園寺さんがどれだけの資産を持ってるのか知ってんのか?」
「何十兆とか、下手したら三桁いくかもな」
「今の段階でそれだけあるんだ。知ってるだろうけど、これから火星移住計画に向けて、月は重要はハブになる。そうなれば、ムーンパレスの価値はさらに上がるんだよ」
陽介の鼻息は荒かった。目は血走り、取り残された怒りを鏑木にぶつける。
「待てよ。俺に当たるな。俺だって今さっきメールが届いたんだ」
「『ネメシス』はどうだ? どうにか月まで行けないか」
「バカ言うな。燃料を満タンにしても、月までは辿り着かない」
「向こうから迎えに来てもらえばどうだ?」
「迎えに来てくれるならな。そんな奴がいると思うか? お前だったら迎えに行くか?」
陽介は反論せず、「クソッ!」とまた悪態をついて歯噛みをした。
「月丸が言うには、宇宙船に乗ったのは3人。その中にマーズやヴィーナスがいたら? あのがめつい連中が、自分に不利になることをわざわざすると思うか?」
ダメ押しするように鏑木がそう言うと、陽介はさらに悔しそうな表情を浮かべた。
「いくら西園寺さんでも、あのバカたちには遺産相続しないだろうけどな」
「でも、その権利はあるわけだ。俺たちとは違って」
「うるせーな」
「おい、2人だけでごちゃごちゃ話をしないでくれないか」
しばらく放置されていた月丸が不満の声を上げた。
「で、陽介、もう1通のメールには何て書いてある?」
「調査依頼? 何だこりゃ……」
不機嫌な声で独り言を呟き、もう一通のメールを開いた陽介の顔は、「えっ」と驚きの表情を浮かべてフリーズした。
「どうした?」
鏑木は画面を覗き込む。
「おい、だから、俺をないがしろにしないでくれよ」
そう喚く月丸をモニター越しに見つめ、鏑木はメールの文面を読み上げた。
「太陽は消された」
「は? どういう意味だ?」
月丸は目を丸くさせて訊き返す。
「さあ……」
首を傾げながら鏑木が横を見ると、陽介の顔が蒼白になり、唇が震えていた。
「おい、陽介?」
鏑木が肩を揺すっても、陽介はパソコン画面をじっと見つめたまま、何も言おうとしなかった。
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