《手の甲の龍の模様が突然血を吸うようになった件について》

@DragonBlood_13

第1話∶退學風波

 


 午後の廊下は静止した川のようだった。


 陽光が高い窓から流れ込んできて、埃によって一格一格に分かれた。空気は重く沈んでいた。


 何中の制服のポケットからは半分残った苺のパンが見えていて、プラスチックの包装には「二つ目半額」と書かれていた。


「──もう一度言ってみろ。」


 何中の声はとても静かだった。


 彼の前にいる二人の高二生は、お互いに一瞬目を合わせ、何かを考えているようだった。次の瞬間、そのうちの一人が口を開いたが、その言葉は最後まで言い終わることはなかった。


 ドン──


 肩が壁にぶつかり、鈍い音が廊下に響いた。その音は雷のように重く響き、もう一人が襟をつかまれて床に叩きつけられた。バックの紐が切れ、散らばった本のページが驚いた鳥の群れのように飛び散った。


「おい、誰か喧嘩してる!」


「指導主任を呼んでこい──」


 叫び声が靴音に混じって響いていた。廊下の向こうから、黒い影が近づいてきた。


 校長が人々を押しのけ、光と影の境界に足を踏み入れた。眼鏡のレンズに冷たい光が一瞬反射した。


「何中、後のことは分かっているな?」


 その言葉には裁判のような冷徹な響きがあった。


「退学だ。」


 たった一言、それはまるで鉄の塊が空気に落ちたような音を立てた。


 次の瞬間、机や椅子が蹴飛ばされ、木の板が壁に当たり、鈍い裂ける音が響いた。何中は歩み寄り、右手を上げて、消防栓を思い切り叩いた。金属の震動が骨の中を走り、掌はまるで火で焼かれたように熱くなった。


 亀裂が開き、血が指の間を這い下りていった。


 だが、血が滴る直前、その血は止まった。凝固することなく、まるで見えない手によって流れを断たれたかのようだった。


 ──周囲から誰かが息を呑む音が聞こえた。


 何中は下を向き、ゆっくりと裂けた関節を舐めた。


 血の匂いが喉に流れ込む。熱くて、まるで溶けた鉄が骨髄の中を流れているようだった。


 その感覚が、彼の視界にぼんやりとした光を灯していった。


「規則は守る」──何中は学生証を真っ二つに引き裂いた。


 遠くからは合唱団の練習で、調子外れな《桜花》の歌声が聞こえてきた。


 部屋の中は静まり返り、掛け時計の音だけが静かに響いていた。


「もうお前には救いようがない。」校長の声には感情がこもっていなかった。


 校長は何中が去っていく背中を見つめ、突然気づいた。消防栓の血の跡が消えている──いや、錆になっている。まるで十年前からそこにあったかのように。


 何中は答えず、ただ校長をじっと見つめていた──その目はまるで影に飲み込まれた夜空のようで、底が見えなかった。


 外から冷たい風が吹き込んできて、最後の陽光も一緒に運び去っていった。


 彼は扉に向かって歩みを進める。その足音は静かだが、まるで暗闇の奥から響いてきたようだった。


 背中と影が一体になり、扉の前で立ち止まり、ほんの少しだけ笑みを見せた。


 扉が風に押されて開き、壁に当たって乾いた音を立てた。


 みんなが我に返ったとき、廊下にはもう誰もいなかった。ただ、一滴の遅れて落ちた血が静かに地面に落ち、まるで固まった深紅の種のように見えた。


 何中は母親がよく言っていた言葉を思い出した。「君は自分を制御する方法を学ばなければならない。」


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