第8話 思い出襤褸襤褸

眠れない夜


精神病院で過ごした眠れない夜のことを思い出す


一生ここから出られないかもと恐れおののいていた夜のことを



消灯後なんだか体中がぞわぞわして落ち着かなくて眠れない


時計がなかなか進まない


我慢できず看護師詰め所に行ってかなり強めという睡眠薬を飲ませてもらい


すごすごと自室のベッドに戻るがやはり眠れない


私の体質なのかなんなのかまったく薬が効かない


仕方なく心に変調をきたしてからこれまでのことを反芻する



最初は脈絡もない妄想が浮かんではそんなばかなと打ち消す感じだった


やがて心が片隅でおかしいとシグナルを送ってるのに


身体は妄想に従って行動してしまうようになり数々の奇行を行う


心のシグナルは次第に小さくなっていきついに完全に沈黙した


その後のことは妄想と現実がないまぜになった


断片的な記憶がかすかに残ってるだけなのだが


自分で自分の頭部をはげしく傷つけ流血し


緊急通報で駆け付けた警察官に殴り掛かり


自傷他害のおそれありというか現行犯?で24条通報となり


鑑定の結果この病院に措置入院となったという



意識が回復したとき私は部屋の真ん中に洋式水洗トイレがむきだしで鎮座していて


壁際に粗末なマットレスがあるだけの隔離された部屋に独りでいた


定期的に壁の下の方のすきまから食事を差し入れられ食べてはそこからトレーを返す


そんな日々が少し続いた後閉鎖病棟に移された



精神病院に抱いていたイメージと実際とはかなり違っていた


シャレ抜きでヤバい奴もいるらしいのだが


そういう人は閉鎖病棟の中でも特別な部屋に厳重に隔離されているという


たとえばいきなり全裸になるようなちょっと困った人達が何人かいるがまあ人畜無害


その他大勢の人はそれほどおかしい印象を受けなかった


向精神薬を服用してるからおとなしいんだろうと言われればそれまでだが


一見健常に見える人が何人も生活保護で何十年と入院生活を続けていたりする


私もこのままずっと出られないかもしれないという状況に気づき恐怖する


なにしろ措置入院の統失である


一生出られない可能性のが高い気がして血の気が引いていく



眠れぬまま朝を迎えたがいつものルーチンな生活日程に従い行動する


精神病院の生活は基本ルーチンワークである


盆踊りとか運動会とかクリスマスとか…例外もあるが


日常はただただルーチンの繰り返し



ここで生涯を終えるとしたら何のために産まれてきたのだろう?


そもそも人生に意味はあるのか?


人の命とたとえば空を飛んでる鳥の命の価値に違いはあるのか?


自然から見れば人間の存在は悪では?


善悪とは?


…そんな禅問答のような思考をめぐらしながらルーチンをこなす日々が続いていく…



…どうにか無事退院できたがそれは入院から二年近く後のことである


それからかなりの年月が流れたが今も二週間に一回通院し


向精神薬を処方してもらい毎日朝夕服用している


いつまで通院を続けなければならないのかはわからない



じゃん こころを大切にね!

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