第6話 静かな熱意と少しの孤独

そんなこんなで昨日迷宮をクリアした余韻に浸りなが廃教会に向かっていると目の前から走ってくる子供達が見えた


ライルとティノが話しかけてきた


「おい、アドル! お前マジで成功したのかよ!?」


ライルとティノが走り寄ってくる。後ろには他の子供たちもいて、「すげー!」「マジで!?」と声を上げている


子供が増えた..


「うん、ちょっと運が良かっただけだよ。みんなも頑張ればいけるって」


「でもさ、目と耳ふさがれてんのにどう動いたの? 魔法使った? 」


「んー……秘密かな」


「けっ、ズルいなー!」


俺が笑って誤魔化すと、子供たちはあっけらかんと笑いながら、それぞれ施設の中へと遊んでくるといって走りながら向かっていった


そうして後ろ姿を最後まで見守って今日も新しいスキルを修得しに俺はまた廃教会に来ていた


俺が選んだ今回修得するスキルは



[属性系統]スキル

《火霊契約:燈火の抱擁(ヒート・エンブレイス)》

効果:火属性のスキル。掌に温度調整可能な火球を発生。灯りにも攻撃にも使える 


これだ!


火属性魔法の中でも、契約型に分類されるやや特殊なスキルだ。

実を言えば、もっと扱いやすい“火球”や“発火”といった基本魔法スキルは他にも存在していた。


むしろチュートリアルでも推奨される、いわば「王道」スキルたちだ。習得も簡単だし、見た目も派手で分かりやすい。


でも、俺はあえて選ばなかった、理由は単純


「発動時の威力が高い」とか「MP効率が良い」なんて理由だけで選ぶのは、あまりに危険すぎる。


現実になったこの世界では──
“自分の制御範囲で、調整できるかどうか”が、何よりも重要だ。


その点、《火霊契約:燈火の抱擁》

これは“精霊契約型スキル”と呼ばれる分類に入っているが、
別に、マジで火の精霊が現れるわけじゃない


スキルの構造をゲーム的に言うなら、
「火属性魔法の出力制御特化スキル」というのが正しい。


契約といっても儀式や召喚があるわけじゃなく、使い手の精神状態と魔力の波長を「精霊のイメージ」に擬えて構築する、
“共鳴型スキル制御”……なんて難しい言い方もされてる.....。それに同じ共鳴だしな何かあるかもしれない


ようするにこれは、MP(マジックポイント)を使って微調整可能な魔法だ


派手なエフェクトもない。
火球をぶっ放すことも、爆破することもできない


でも、俺にはこれでよかった

今の俺に必要なのは、“火を操れる程度の力”──それだけだ


日常での火起こしや、野営の暖房、照明、乾燥、目印……
そういった“制御された小さな火”を自在に扱える方が、よっぽど現実向きだ


正直、ゲーム中でもこのスキルは「趣味枠」扱いだった


戦闘では空気だし、派手さも皆無。
だが俺はそれを知っていたから、あえて選んだ だが


このスキル、実は修得条件が地味に面倒くさい 

特に、この“現実の世界”だと、それがなおさらだった



ゲームの中なら──このスキル、《火霊契約:燈火の抱擁(ヒート・エンブレイス)》は、
季節イベントの報酬として手軽に手に入るものだった


町中で告知があって、NPCに話しかけるだけで始まる特別クエスト
火山地帯で火精の欠片を集めて、最後に“契約の儀”を済ませれば、それで修得完了


攻略サイトにも手順が載っていて、ある程度のレベルがあれば誰でも取得可能だった

でも──ここは現実だ


もちろん、そんなイベントは存在しない。

だから俺は、「隠しスキル習得ルート」を使う

それが、この《廃教会跡地》にひとりで来た理由だ


このスキルには、通常とは別にもう一つ、
“誰にも見つからず、ひとりで修得できる”方法があった


ゲームでも一部のマニアしか知らなかった、超レアな手段


その条件は──

・廃教会跡地の魔力結界内に一人で入る

・火属性魔力を自力で安定させ続けること

・外部からの魔力的干渉(風・地・残留魔素)を受けてもなお、それを乱さず保ち続けること

ここまでは把握している


魔力制御に関しては、自分でも訓練を積んできたし、多分問題ない
“安定的な発動”はできる自信がある


(記憶に父かか教えてもらった事がある)


──ただ、一つだけけ

「制御し続ける時間」が明記されていない

3分? 10分? 30分?
あるいは、半日とか……?


(そんなの、ゲームじゃ60秒で終わってたんだけどな……)


今更引き返すつもりはないけど、さすがにそれだけが少し、不安だった。

石造りの床に座り、俺はそっと呼吸を整える。

手のひらに魔力を集中させ、意識を炎へと変える


(さて……やりますか)


誰もいない、静かな廃教会
崩れかけたステンドグラスから、赤みがかった午後の陽が差し込む


(ゲームなら、こんな場所でクエスト受ければ即スタートなんだけどな……)


(現実は違う。始まってもいないのに、虫刺されるし、座る石が冷たいし)


けれど、指先に集中していく魔力のぬくもりが、どこか懐かしくて

(……まぁ、それでも)


(火を扱えるってだけで、十分だ)


(精霊なんていやしないし、派手な演出もないし、スキル習得の音声が鳴る保証もない)


(でも──)


俺は膝をつき、手のひらに魔力を集めた
細く、ゆっくりとした熱が、皮膚の裏を這う


(この火を、“ちゃんと扱えるようになる”ってだけで)


(俺にとっては、充分な一歩だ)


目を閉じて、呼吸を整える


(さぁ、スキル修得目指して─頑張りますか)



最初の一日は、ただ“慣れる”だけで終わった

廃教会の中は、風が抜けず、魔力の残滓が渦を巻くように漂っていた


放棄されて久しいはずなのに、どこか“何か”がいるような違和感がある


それでも、ここが条件を満たす唯一の場所だ。

俺は正面の崩れた祭壇の前に座り、火属性魔力を手のひらに集中させた


最初の数分はうまくいっていた。けれど


「……また、崩れた」


数秒後には熱が乱れ、火が暴れ、魔力が霧散していく


火が崩れるたびに教会の空気がざわつき、魔力の流れが乱れる


制御の再試行には数分の静養が必要だった


──集中、制御、崩壊、再集中


その繰り返しだけで、初日は終わった。
結果、最長の安定継続は約7分。まだまだ足りないらしい



二日目は、“空気”との闘いだった

廃教会内部は、時間帯によって流れ込む風と魔素が変わる


朝は風が強く、昼は火と風が絡みやすい、夜は魔素が静かすぎて逆に不安定になる

魔力を静かに灯し続ける──その“だけ”が、とてつもなく難しい


「……ちょっとずつ、ずらせば……いや、だめか」


指先に熱を集め、中心を定める
魔力を糸のように細く、息をするように送り続ける


30分経過…1時間経過


体が汗で濡れていく。目の奥がじんじんとする
心拍と魔力のリズムが合わなくなると、制御が乱れる


(……集中が切れる)


そのとき、ふと思った


(“火を操る”って、たぶん……心のリズムに合わせるってことなんだ)


少しだけ呼吸を整え直し、自分の“鼓動”に合わせて火を揺らす
すると、魔力が乱れず、静かに回ってくれた。

この日、最長継続は3時間


ふっ、と手から熱が抜けた
それが限界の合図だった


「……ちくしょう、またか」


俺はその場に座り込んだ。ひんやりした石床が、汗ばんだ背中にしみる


はあ、と長く息を吐く

風が抜ける。静かな夜だった。

ふと、気配のようなものを感じて、顔を上げる


 廃教会の奥。朽ちた柱の隙間から、月明かりが差し込んでいた


 雲の切れ間からようやく顔を覗かせた月が、教会の奥に残された──半壊したステンドグラスに反射していた


赤、青、緑
壊れかけの硝子片が、月光を受けて、まるで生きているかのように輝いていた。

ぼんやりと、その光を見つめていた


(でも……もう少しで届く……)


何となくそう感じている




それから3日、4日とかかりこの二日で

魔力制御の精度が大幅に上昇(感覚的に微調整できるレベルへ)

自分のリズム(呼吸、鼓動)と魔力の同調を学び

魔素の“性質”を感じ取る能力が開花し始めている

そして一人きりの環境下で、集中力と根気を身についている



5日目は、もう“無言”だった。

何も考えず、ただ炎と一緒に呼吸していた


火を“力”としてではなく、“存在”として感じる


「……」


魔力の流れが体に馴染み、外部の干渉も気にならず流し続けられるようになった
風や魔素が入り込んでも、熱がぶれない

何時間経ったかもわからなかった


──そして、唐突に心に響いた


《火霊契約:燈火の抱擁》


前と同じく信号の様な物を受け取った感じだ

目を開くと、手にこれまでは違う、淡く赤い火を放っていた


手のひらに、温かな火がひとすじ揺れている。

それはもう“魔力”ではなかった。
明確な、スキルとしての炎だった




….俺は思ったね


(これ……本当に“ただの火のスキル”か?)


そう疑いたくなるくらいに、繊細で、時間がかかった


何度も思った

でも、このスキルには火力じゃなくて“制御力”が求められてる


だからこそ、俺はこのスキルを選んだんだ。

派手さはない。戦闘にもほぼ使えない


それでも得た「確かな手応え」


「今日は気分よく眠れそうだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る