第21話 資金繰りが苦しいようです
「ヘイワード伯爵家で執務を手伝わされてるけど、思った以上に大変だよ、あれを今までアシュリー一人でやっていたなんて、信じられないよ」
ブルーノは街のレストランで、兄であるバルト子爵家の嫡男レクスと昼食を共にしていた。
「急に呼び出すからなにかと思えば、愚痴を聞かせるためなのか?」
ブルーノは沈み切った表情で、
「実は、王宮に納品した薬草が、品質不良ですべて返品されたんだ」
「ほおーっ、それで?」
「驚かないのか? バルト家だって品質不良は大問題だろ」
「我家は取引を停止したから」
「えっ? なんで」
「怒り狂った母上が父上に進言されたんだ」
「商売に私情を挟むなんて、父上らしくない」
「私情か……でも結果、正解だったろ」
「今回はたまたま不作だっただけだ」
「それで?」
「当てにしていた収入がなくなって、当面の資金繰りが苦しいんだ、少し用立ててもらえないか、父上に頼んでもらえないかな」
「自分で頼めよ」
「無理だ、母上の怒りは収まっていないし、父上は会ってくれない」
「今回の愚行は目に余るからな、勝手にアシュリー嬢と婚約破棄するなんて。お前が足しげく伯爵家に通っているから、彼女とはうまくいっているとばかり思っていたのに、浮気していたなんて、母上がどれほどショックを受けられたかわかるか?」
「しょうがないだろ、リディアを好きになってしまったんだから」
レクスは情けない弟に哀れみの目を向けた。
「なあ、今のうちに謝って戻って来いよ、復縁は無理でもアシュリー嬢にもちゃんと謝罪して」
「アシュリーは見つかったのか?」
「それはまだだけど、母上が人を使って捜している」
「母上は俺よりアシュリーが可愛いんだな」
「なに拗ねたこと言ってるんだ、ガキかよ」
「バルト家に帰ったところで俺に居場所はないだろ、ヘイワード家にいればゆくゆくは爵位を継げるし安泰だ」
「本当にそうかな」
レクスは意地悪な目を向けた。
「俺がリディアに捨てられるとでも?」
「それよりも、ヘイワード伯爵家は大丈夫かって意味だ。たった一度の不作で資金難だなんて脆すぎる。バルト家の領地だって天候に恵まれない不作の年はある、でも父上はちゃんと備えているぞ」
「薬草畑はアシュリーが管理していたらしい、彼女の責任だよ、家出したのは薬草の不作がわかってたからじゃないかと、伯爵はご立腹だよ」
「なにもかもアシュリー嬢のせいか」
「十六の小娘だ、失敗したことを言えずに逃げたんだよ」
「本当にそう思っているのか? 違うだろ、彼女は失敗なんかしない、その母上も、そしてそのまた先代も」
「どうしてそんなことが言い切れるんだ?」
「長い間、そうして王家の信頼を得てきたんだろ。我家とヘイワード家は長い付き合いなんだ、母上は幼少のころからだからよくご存じだ。お前は本当になにもわかってないんだな」
この時、はじめてブルーノの顔色が変わった。自分は今まで肝心なことを失念していたのではないかと、急に不安になった。
「まさか、今回の発育不良って」
「母上の進言だけじゃない、アシュリー嬢の家出を知った時から、父上も薬草の仕入れをあきらめていたんだ、そして穴埋めの対策は講じてある」
「そんな……」
「アシュリー嬢がいなければ、唯一の資金源である薬草畑は維持できない。バルト家はヘイワード家を見限ったよ」
レクスは立ち上がって、ブルーノを見下した。
「お前も先の事、よく考えるんだな」
ブルーノは去っていく兄を見送る余裕もなく、ただただ青ざめた。
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