恋をやめたら愛がきた
マスターボヌール
プロローグ
「もう恋愛なんてこりごり……」
桜田美咲は、スマートフォンの画面を見つめながら深いため息をついた。元恋人からの最後のメッセージ——「君といると疲れる。もう無理だ」——の文字が、まだ目に焼きついている。
三年付き合った彼氏に振られて、もう二週間。いつものように「次こそは」と思う気力も湧いてこない。考えてみれば、二十八歳になるまで、常に誰かに恋をしていた。片思いから始まり、告白して、付き合って、別れて、また新しい恋を探して……。
「私、何やってたんだろう」
鏡に映る自分を見つめる。目の下にうっすらとクマ、少しやつれた頬。恋人の機嫌を気にして、自分の好きなことを我慢していた日々。彼に合わせて見る映画、彼の好みに合わせて選ぶ服、そして彼が嫌がるからと疎遠になった、大切な友人たち。
気がつけば、本当の自分が何なのか分からなくなっていた。
「もう、やめよう」
美咲は決意を込めて鏡の中の自分に向かって宣言した。
「恋愛に振り回されるのは、もうおしまい。今度は私のために、私が望む人生を生きる」
翌朝、美咲は久しぶりに心が軽やかだった。恋人のことを気にせずに選んだ、お気に入りの青いワンピースを着て出社する。電車の中で恋愛小説ではなく、ずっと読みたかった仕事関連の本を開く。
誰にも気づかれないほどの小さな変化。でもそれは、美咲にとって、人生を塗り替えるほどの第一歩だった。
まだこの時の美咲は知らない。自分らしく生きることを決めたその瞬間から、彼女の周りで静かに何かが変わり始めていることを。そして、恋を求めることをやめた時にこそ、本当の愛が向こうからやってくることを——。
人生は、時として最も予想外な形で、最も美しい贈り物を届けてくれるのだから。
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