第33話 デスティニーランド

 ヘリポートに着いてからは、既に待機していたリムジンに素早く乗車し、すぐさまデスティニーランドへと向かった。

 最初から予定していた開園前には到着したが、案の定開園前にできあがっている長蛇の列を前に少々気持ちが折れそうになってしまった。

 そりゃ天下のデスティニーランドともなれば、この程度の行列は当然のことだろう。


「入るのにかなりの時間を消費しそうだな」


「これも楽しまなくちゃ」


 星咲は慣れているようで、この行列を前にしてもへこたれる様子はない。

 しかし、初めてこの行列を前にしている華野鳥はそうではないようだ。

 かくいう俺も初めてなのは内緒だが。


「入口で時間を使うのは無駄かな」


 華野鳥は可愛く言うとスタスタと先頭を歩き、行列の横を通り過ぎてゲートへと向かってゆく。


「「え?」」


 突然の行動に俺と星咲はお互いの顔を見ることしかできず、慌ててあとを追いかけた。

 華野鳥は肩から下げていたポシェットからスマホを取り出してスタッフに見せているようだ。


「いらっしゃいませ。どうぞ中へお入りください。お連れの方も……え、あ、遠慮なさらずどうぞ」


 俺の顔を見たスタッフは一瞬身構えたが、すぐに態度を改めるのはやはりプロだな。

 華野鳥や星咲といると忘れそうになってしまうが、一般人からは危険人物に見られるということは肝に銘じておかないと。

 スタッフは一般客のゲートとは違う、スタッフ専用の出入り口へ俺たちを案内しはじめた。


「真千田くん、星咲さん、どこから回るのがいいかな?」


 華野鳥は嬉しそうにパンフレットを広げてくる。


「ちょっと待て待て! さっきスタッフに何を見せたんだよ」


「優先パスは並ぶところが違うはずだし、私もこんなところから入ったことないし」


「優先パスじゃないからかな? 一応関係者用のパスになってるから」


 さらっと何を言ってんだ……。

 対応見てもただの関係者、従業員用ってわけでもないだろ。

 ほら、星咲も若干引いててもう尋ねようともしないぞ。

 俺も知るのが怖いからこれ以上は尋ねないでおこう。

 ただの関係者用のパスに違いない。


「便利なパスだな……華野鳥が周りたい順番でいいんじゃないか? 俺もデスティニーランドはよく知らないし」


 きっとさっきのパスとは違うパスがあって、それを見せれば並ぶ必要もないんだろうし……。


「星咲さんが言ってたけど、並ぶのも楽しみ方の一つなんだよね? だったら少し並んでもみたいかな」


「それなら今は優先パスの客が入ってきてるから、その後ろに並んだらどうだ?」


「それじゃあグッド・ライトニング・ヒルに乗ってみようかな」


 華野鳥は普段の落ち着いた感じじゃなく、いい意味で浮ついている感じがする。

 グッド・ライトニング・ヒルは俺でも聞いたことがあるくらい有名なアトラクションだし、既に並び始めてるのがここからでもわかる。

 園内の中心の一番目立つところを走る、そこまで怖くないというジェットコースターだ。

 ——そういえば星咲はどこだ?


「星咲、離れると——って何してるんだ」


「何って記念撮影に決まってるじゃん」


 星先はデスティニーランドのマスコットキャラクターである、ピンと伸びた耳が特徴のラビットに抱きついてスマホで自撮りをしていた。


「次は三人で撮ろうよ。ほら、華野鳥さんと真千田君も早く! 人が集まったらこうやって撮れなくなるんだから」


「星咲はベテランガイドだな」


「伊達に何回も来てないしね」


 三人でラビットを囲み、華野鳥と星咲がスマホで自撮りした。

 俺は星咲から貰えばいいだろう。

 華野鳥も自分のスマホで撮影を終わらせる。

 俺のスマホには星咲から送信された写真がすぐに届いた。

 まあ想像していたが、俺の顔はデスティニーランドに来ているとは思えないほど凶悪なものだ。

 苦笑するしかないな。


「それじゃあ次はグッド・ライトニング・ヒルだね」


 華野鳥が俺の手を取って走り出そうとするため、逆の手で星咲の手を取る。

 三人で手を繋いで走るという何とも間抜けな姿を晒してしまったが、これはこれで面白い体験だ。

 そのままグッド・ライトニング・ヒルの最後尾に並ぶと、既に十五分待ちになっていた。

 これくらいなら華野鳥にとってもほどよい待ち時間だろう。


「十五分も待つんだね」


 不満げな華野鳥を見るに、華野鳥にとっては十五分すらかなり長いらしい。

 それでもテーマパークにとってこれくらいは普通というかかなりマシなのは俺でもわかる。

 特に何回も訪れている星咲にとってはありえないレベルだろう。


「十五分なんて待っているうちに入らないから。長い時は二時間待ちなんてのもあるんだから」


「そんなに並んだら、全部回れなくないかな?」


「一度に全部回ろうとするのが無理すぎなの」


「じゃあ今日はその無理を現実にしよっか」


 どうやって、と尋ねるのは野暮というものだろう。

 やはり別の特別なパスがあるんだな……見るのは怖いから何も言わないでおく。

 大人しく普段では味わえないデスティニーランドを楽しむとしよう。

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