一期一会 〜タクシードライバーが紡ぐ、東京道路事情~
ワイドット(Y.)
首都高編 第1話『都心環状線という迷宮―首都高C1』
タクシーの仕事では、日々さまざまな人と出会う。
笑いがあり、時にトラブルもあるが、それらすべては、“一期一会”。
そんな日々の営業で自然と身についたのが、“道にまつわる知識”だった。
近道、裏道、抜け道、そして遠回り。
東京という都市の複雑な毛細血管を走りながら、“時間と距離の勝負”をしている。
この物語は、タクシードライバーとしての日々の中で学んだ、
東京の道路事情を描くフィクションである。
内容の多くは、2010年ごろの実体験をもとにしている。
どうぞ、地図を片手にお付き合い願いたい。
________________________________________
「東京の動脈、首都高」
東京の首都高速、正式には「首都高速道路」。
けれど、法律上は“高速自動車国道”ではない。「自動車専用道路」に分類される。
この首都高は言うなれば、都市の“動脈”。
……だが、まるで解きにくいパズルだ。
狭い道幅に、連続するトンネルとカーブ。分岐も合流も唐突に現れる。
制限速度は、驚くことに40km/hの区間すらある。60、80km/hが主流の高速道路とは似て非なる存在だ。
初めてハンドルを握る人、地方から出てきたドライバーにとっては、鬼門である。
「怖くて走れない」、「首都高だけは避けたい」……そう言われるのも無理はない。
だが、そのパズルを解くことが、逆に独特の魅力にもなっている。
高層ビル群の谷間を縫うように走り、ふと視界が開ければレインボーブリッジ。
急カーブの先に、摩天楼が現れる。まるで都市を駆け抜けるジェットコースターだ。
……少しの油断も許されないが、そのスリルがやみつきになる。
________________________________________
中でも、東京の中心部をぐるりと囲む「C1(都心環状線)」は、首都高の縮図だ。
車線は狭く、隣の車との距離も近い。
急カーブ、トンネル、合流、分岐……それが立て続けに押し寄せる。
週末の夜ともなれば、改造車が爆音を響かせて走り回る“ルーレット族”が現れる。
彼らは基本的に「外回り(時計回り)」を周回している。
C1を走らなければならない週末の深夜、少しでも安全を取るなら「内回り(反時計回り)」を選ぶことをおすすめする。
________________________________________
『都心環状線・内回り』
地図を広げて、内回りで出発
スタートは、JR東京駅、八重洲口、内回りで行こう。
最寄りの入口は「宝町入口」……なのだが、『よく見ると「呉服橋入口」の方が近い。』
けれど注意が必要だ。呉服橋は“外回り専用”だ。間違って入れば、真逆の方向に運ばれてしまう。
内回りに入ったら、すぐに「江戸橋ジャンクション江戸橋JCT」が現れる。
ここが最初の難所だ。
・右2車線:箱崎方面
・左1車線:内回り本線(池袋・上野方面)
宝町入口からC1に入ると、自動的に左車線=内回りに合流する。
「箱崎に行きたい」という場合は、ここで右車線に移らなければならない。
しばらく進むと、分岐と合流のラッシュが続く。
・『江戸橋入口の合流(左)』
・『呉服橋出口(右)』
・『八重洲線からの合流(右)』
・神田橋出口・入口(左)
・池袋方面への分岐(右)
*『』は執筆時点では、一部が廃止されている。が、事故が多発するエリアであることには変わりはない。
竹橋JCTを抜けると、また合流と分岐が続く。
・北の丸出口(左)
・池袋方面からの合流(右)
・代官町入口からの合流(左)
・千代田トンネル(通称:三宅坂トンネル)
このトンネルは、名前も構造も“ややこしい”。
「千代田」と言われても分からず、「三宅坂」と言われてもピンと来ないタクシードライバーは意外と多い。
構造上、急カーブでトンネルに突入するため、事故が起きやすい地点でもある。
その後も、
・新宿方面への分岐(右)
・新宿方面からの合流(右)
と続き、ようやく都心環状線の半周ほどに到達する。
そして、トンネル内で、また右からの合流、霞が関
トンネルから出て少しすると、
・渋谷方面への分岐と合流(右)
・飯倉合流(左)
・目黒方面への分岐と合流(右)
(この合流が、内回りでは、一番気をつかわなければならない場所ではないか?……)
お互い、カーブで、しかも防音壁も邪魔で、車が見えずらい。
で、ここからタイトな左右の連続カーブとなる、
カーブ途中で、芝公園出口、
さらに次のカーブで合流(ともに左)。
その後、少し直線で、安心するのもつかの間
羽田方面への分岐(右)
カーブの出口で、
羽田方面からの合流(右)
(この合流は、車線数が多いので、比較的安心できる合流なのだが、
なぜか、多くの車はすぐ右車線へ車線変更し、接触事故が絶えない…)
一番、左車線は八重洲線へ進行するための車線として、長い間、3車線の道となっている。
合流が終わると、唯一ともいえる高速コーナーが少し始まる
(3車線ある連続カーブ)
ここは、ゆっくり走れば怖くないが、
鉄板が引かれているので、「路面が濡れているとき」は危険だ。
(制限速度以下でも滑ることがある)
汐留で降りる、八重洲線へ行く場合は一番左の車線を走る必要がある。
(そして、通行区分の規制がある)
C1本線を走るので、ここで、規制が始まる前に左から二番目、三番目の車線へ、初めての車線変更。
(ここまで、一番左車線を走行でよい)
汐留トンネルに入る。
ここから、昔は川だったというところを走る。
とにかく、圧迫感があり、
橋脚を避けるように、細かいカーブが続く。
・銀座出口、合流(左)
・新富町出口(右)
・京橋出口(左)
で、一周がおわり、先ほど入って来た、宝町の合流が左に出てくる。
これが東京の中心、「C1」距離はわずか29Kmの迷宮……。
________________________________________
これで、C1を一周しました。
狭く、複雑で、息つく間もない都心環状線……。
正直、「こんな道、もう走りたくない」と思う人も多いでしょう。
でも、首都高C1には、ただの道以上の“記憶”が詰まっています。
それは、事故の記憶、出会いや別れの記憶、
そして、「始まりの記憶」でもあります。
<予告 第2話『慣らし運転』>
16歳になってすぐ、バイクの免許を取った。
教習所に通い、「中型自動二輪」のライセンスを手に入れた。
それまでは“無免許”ながら、モトクロッサーというオフロードバイクを駆り、サーキットでレースまがいの真似事をしていた。
だから、運転にはそこそこ自信があった。教習所でもすぐに卒業し、免許もすんなり取れた。
バイト代を貯め、何を買おうかと夢をふくらませた……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます