【08 事件4.毛深い子・事件編】

・【08 事件4.毛深い子・事件編】


 今日は体育館でバスケの授業。

 まずはパスの練習とかドリブルの練習とか、そういうことを全員で確認してから、試合形式になった。

 最初は女子も男子も一緒に緩くやっていたんだけども、徐々に男子に本気さが帯びていき、自然と女子たちはコート外に出て、元気な女子は得点板係をして、私のような陰キャは隅っこで体育座りしながら、眺めているだけ。

 ぼんやりと航大くんカッコイイなぁ、眼福過ぎるとか思いながら見ていたその時だった。

「おりゃぁぁあああああああああ!」

 という大熊大我くんの声を追い越すように、

「わぁぁぁあああああああああああああああああ!」

 という悲鳴に似た叫び声が聞こえてきた。

 何だろうと航大くんアイからその声がしたほうへ顔を向けると、なんと志村千里くんの体操着が縦に綺麗に破れて、素肌が露出していたのだ。

 それを指差しながら大熊大我くんが、

「めっちゃ毛深いぃぃいいいいい! ジジイじゃぁぁぁあああああああああああん!」

 と叫んで、別にジジイは毛深くないでしょ、むしろ毛を失っていくイメージあるよ、と思っていると、周りの女子たちが、

「マジで何かキモっ」

「毛ヤバ……」

「何か嫌だね」

 とか言い出して、せめて志村千里くんに聞こえる声のサイズで言うなよぉ、と何かこっちがイライラしてしまう。

 すると航大くんが即座に体操着を脱いで、

「志村、着て」

「えっ、でも」

「俺バスケやって熱くなってきたから脱ぐわ。でも床に置くと汚いから志村が着といて」

「あっ、うん……」

 と言って、BL過ぎると思ってしまった。というか上質な薄い本過ぎる。航大くん最高じゃん、と思っていると周りのさっきまで志村千里くんのことをディスっていた女子が、

「航大くんの細マッチョ最高だしぃ」

「こういう男子はどんどん脱いでほしい」

「航大くん、好きぃ」

 とか言い出して、何か、男子の裸全部キモイならそれはそれでいいけども、こういう変わり身はどうかなと思った。

 そこから航大くんはずっと上半身裸でバスケをしていると、航大くんと仲の良い浅利数馬くんが、

「おれも脱いじゃお!」

 と言って脱ぐと、また女子が沸いて、おいおいおいおい、とは思った。

 ちなみに浅利数馬くんは体操着を普通に体育館を滑らせるように、コート外に投げ捨てた。

 その体操着が私の近くへきて、えっ、何か畳んだほうがいいのかな? とか思っていると、一人の女子が近付いてきて、その体操着を掴んで自分がいたところに持っていき、向こうで畳み始めた。

 何か特殊性癖なのかな? とかは思ってしまった、でもそれは仕方ないよね。

 体育の授業は無事終了し、志村千里くんが航大くんへ、

「あのこれ」

 と言いながら着ている体操着を優しく引っ張るようにして強調すると、

「教室で返してくれればいいよ、どうせ着替えるっしょ」

「ゴメン、ありがとう」

 と言ったところで、航大くんの後ろから浅利数馬くんが二人と肩を組みながら、

「むしろ裸になれるチャンスくれてサンキューだよな!」

 と言うと航大くんが笑いながら、

「まあな!」

 と言っていて、この二人、スパダリ過ぎると思った。

 絶対志村千里くんのためなのに。こういうこと普通にできる二人が何だか羨ましい。いやこっちは女子だからそういうことできないけども。

 私はいつも通り一人で更衣室に戻ろうとすると、急に浅利数馬くんがこっちを向いてきて、

「つーか俺の体操着は? 花譜が管理してくれたんじゃないの?」

 急に話し掛けられたのでビックリしていると、航大くんが、

「何でオマエの体操着を花譜が管理しないとダメなんだよ」

「だって航大の友達はおれの友達じゃん! 変な女子に触られるより絶対そっちのほうがいいだろ!」

 あっ、これはちゃんと教えてあげないとっ、

「浅利数馬くんの体操着は近くに他の女子がやってきて、持っていって畳んでいたよ」

「えぇー、花譜しかいないとこに投げたのにぃ?」

「は、はい」

「じゃあ今度からは花譜が管理してね! 教室戻ってきたら返してくれるかなぁ!」

 と言ってから、航大くんとも志村千里くんとも別れて、走って教室へ戻っていった、と思う。

 私は更衣室だから逆側だと思っていると航大くんが笑いながら、

「数馬の言うことは無視していいからっ」

 と言ってくれた。いやでもさすがに無視はできないけども。

 更衣室に戻って着替えて、教室へ行くと、ちょうど志村千里くんが、

「ゴメン、汗臭くなったかも」

 と体操着を航大くんに渡しているところで、航大くんは首を横に振って、

「いやいや、全然クサくないし、着てくれて本当ありがとなっ」

 とサムズアップしていて、マジでヒーロー過ぎると思ってしまった。

 そのあと給食になって、昼休みになったところで、航大くんが一瞬私に近付いてきて、

「放課後、また家で」

 と小声で言ってから、浅利数馬くんたちと遊びに行った。

 放課後・家ということは当然謎解き案件がある日ということなんだけども、今日何かあったかな? と思った。

 まあ航大くんにだけ誰かが依頼をしたんだろうなぁ。

 昼休みも終わり、授業&授業で下校時間になった。

 まだ私がだらだら着席している間に航大くんは走って教室から出て行きながら、

「今日は野球部の助っ人な!」

 と言っていて、本当に忙しい人だなぁ、と思っていると、私の前に浅利数馬くんがやってきて、

「探偵クラブ! やってんだよね!」

 と目をキラキラしながら言ってきて、正直悪意は無さそうだけども、周りの目・的にちょっと不安にはなった。

 何故なら浅利数馬くんはいわば女子人気のツートップの一角で、もっとサッカー風に言えば、航大くんの周りを衛星上に動く、セカンドトップのような存在だから。

 小柄な猫顔、人懐っこい笑顔が可愛くて、航大くんの男らしくてカッコイイと対極ながら、それぞれで人気があるというか。

 私は「あっ、はい」と返事をすると、浅利数馬くんが満面の笑みで、

「航大に飽きたらおれと探偵クラブしてほしいくらい! 航大からよく話を聞くよ!」

 ヤバイ、長居するパターンだ。

 でもこの周りの女子からのイタイ視線が怖い。

 私は早々に立ち上がって、通学用バッグを持って、

「航大くんに飽きることはないからっ、その、帰るねっ」

 と切り上げようとすると、ちょっと残念そうな顔をした浅利数馬くんが「あっ、そっかぁ」と言ってから、

「じゃあまた今度! 花譜からも話聞かせてね!」

 と笑顔でこっちへ向かってバイバイしたので、一応私も返した。

 あんま会話しないでくれぇい、と正直思ってしまった。

 急ぎ足で自分の家へ帰ってきた。

 あとはまあ航大くんが来るのを待つだけだよね……。

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