【06 事件3.埋められたタオル・解決編】
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・【06 事件3.埋められたタオル・解決編】
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私はトボトボと歩きながらも、航大くんが立て札を押した時に転びそうになったの、まだ面白い、とか思いながら、自分の家の前まで来ると、なんと航大くんが立っていたのだ!
「航大くん!」
とつい大きな声が出てしまった自分が恥ずかしくて穴に入りたい。洞穴まで逃げ込みたい。洞穴に住んでいないけども。
航大くんは私に向かって手を挙げながら、
「待ってたよ」
と言って『待ってたんかい!』と漫画・日常のツッコミくらいの勢いで言うところだった、危ねぇ。
航大くんは少し申し訳無さそうに、
「何かよくは分からないけどさ、俺と花譜が一緒に帰ると岸本が何か嫌な顔しそうだったから、俺は一人で帰ることにしたんだ。いや! 走りたかったことも事実だけどさ!」
と何か急に大きな声を出して、ちょっと面白かった。
私は航大くんへ、
「私に配慮してくれて有難うっ」
「そんなん、花譜のことを考えることは当たり前だろっ」
と少し照れながらそう言った航大くん。可愛過ぎる。
私はどんだけ私得なんだと思いつつ、二人で私の家の玄関のほうへ行くと、その前にといった感じに航大くんが、
「ここはちょっと野菜のことをしよう。今までのジンクス的に野菜の話をすると謎解きが浮かぶからそうしよう」
航大くんってそういうジンクス的なこと考えるんだ、と思いつつも、
「じゃあそうしようかっ」
と私も応えて、一緒に畑のほうへ行った。
航大くんはどこか楽しそうに、
「じゃあ今日は何の話をしてくれるのかなっ」
「どうしようかな、そろそろジャガイモも全部収穫しないとみたいな話をお母さんとしていたし、ジャガイモにしようか」
「そもそもジャガイモってこの季節だっけ?」
と小首を傾げた航大くん。鋭い。でもね、
「春植えのジャガイモはこの時期なんだ。この時期のジャガイモは完熟の前に掘り出すから、皮が剥きやすいんだよ」
「それぞれ特徴あるんだ、そのジャガイモ畑、見させてもらっていい?」
「いいよ」
と言いながら指差しながら歩くと、
「何か、他の畑から比べて根元の土がもっこりしているなぁ。ジャガイモが土の中に詰まっているということか?」
「それもそうなんだけども、これは土寄せをしている効果もあるんだ」
「土寄せ? って聞いたことあるような……どんなんだっけ?」
「土寄せというのは生育したジャガイモが日光に当たらないように、土を茎の根元に寄せることなんだ。ちなみにジャガイモはその土寄せが不足して日光がいっぱい当たっちゃうと品質が低下しちゃうんだ」
航大くんは深く頷きながら、
「結構大変なんだ、やっぱり。植えたらハイ終わりじゃないというか」
と同調してくれた。いやでも、って感じで私は、
「そんな家庭菜園程度の量しかないから、簡単で楽しいものだよっ。家に収穫したジャガイモもあるよ」
と言ったところで、普通に家の中に誘っちゃって、良くないのでは? と一瞬思ったけども、航大くんは嬉しそうに、
「うん! ジャガイモ見たい!」
と言ってすぐに玄関のほうへ走っていったので、私もついていって、二人で家の中に入った。
「おじゃまします!」
大きな声をあげた航大くんはそのあとは私の後ろをついてきて、野菜を置いてある部屋に航大くんをつれていった。
「こんな感じで段ボールの中に、若干土つけて置いてあるんだ。こっちに置いてあるジャガイモは多分今日食べる分だね」
「美味しそうだなぁ……いや! 食べたいって意味じゃなくて!」
とすぐに否定した航大くんだったけども、普通に一緒にジャガイモを私が食べたかったので、
「ちょっとだけ茹でちゃおうか、洗って塩茹でするだけで美味しいよ」
「えっ? いいのっ? 何か催促したみたいで悪いなぁ……」
と後ろ頭を掻いた航大くんが相変わらず可愛い。
私は小さめのジャガイモ二個を持っていき、台所に置いたところで航大くんが、
「教えてくれれば洗うの俺がやるよ」
「いいよ、私が接待します!」
「いや水洗いって手が荒れるんだろ? じゃあ肌が強い俺がやるよ」
と言って置いたジャガイモを手で持ったので、
「じゃああの、ちょっと料理用の束子でゴシゴシしてもらおうかなっ」
「それがいいよ、俺は球技とかやってるから指の皮とかも厚いしさ」
そう言って航大くんがジャガイモを洗ってくれているので、私は鍋に水を入れて茹でる準備をし始めた。
すると航大くんが、
「でもジャガイモの塩茹でってあんま聞かないな、ふかすとかならよく聞くけども」
「茹でると火の通りが早いからね、簡単でオススメだよ」
「いろんな調理法があるんだなぁ」
そんな会話をしながら洗ったジャガイモを鍋の中に入れて、塩を適量加えて、茹で始めた。
ちょっと待ちの時間と思ったところで、私は一つ、謎解きのほうが浮かんで、そのことを航大くんに話すと、
「それだ! そういうことだよな! 絶対!」
と賛同してくれて、良かった。
その後、私と航大くんは二人で塩茹でのジャガイモを食べ始めた。
航大くんが美味しそうに、
「美味しい! そのままでも十分というかむしろジャガイモの旨味をダイレクトに味わうことができる! 何かふかすに比べて、しっとりしていて食べやすいし!」
そう、茹でると水分が逃げないので、喉通りが良いというか、飲み込みやすいのだ。
ジャガイモの甘みも香りもそのまま感じることができて、これはもう本当に美味しいんだけども、
「バターで味変する?」
と私が聞くと、航大くんは、
「花譜がするなら俺もしたい!」
と言ったので、二人でバターを乗せて食べ、航大くんは満面の笑みで、
「このバターのコクというか美味しいオイルの味が加わることにより、また一段と美味しくなるな! まあ元々のジャガイモも最高に美味しかったけども!」
航大くんが喜んでくれるなら、それだけで最&高だ。
ジャガイモを食べ終えて、そろそろお別れかなと思ったところで、航大くんが、
「そうだ、ちょっと今日の授業で分かりづらいところあったからさ、花譜教えてよ」
と何かちょっとだけ棒読みでそう言って、たまに航大くんってこういう時あるなぁ、と思いつつも、
「私でよろしければ。一緒に勉強しようか」
「有難う! ほら、家で勉強するとか言ってそれが完全に嘘だと何か嫌じゃん!」
と言い出して、別にそんなこと誰も見ていないのに、気にするなんて、かなり好き過ぎると思った。
そんな感じで夜が近付いてきたところで航大くんは家へ帰っていった。
その次の日、私と航大くんで岸本瑠々ちゃんに謎解きの答えを言うことにした。
つまるところ”土寄せ”なんじゃないかな、って。
航大くんは私が思ったことを代弁してくれる。
「通学用バッグの上に置いていたお気に入りのタオルは風であの立て札の穴の近くに飛んだ」
岸本瑠々ちゃんはビックリしながら、
「それで穴の中に入ったのぉっ?」
「そうじゃない、というかそのお気に入りのタオルって結構昔から使っているタオルなんじゃないか? 人から見れば古びて見えるというか」
「う~ん、綺麗には使っているよ、でもまあほつれとかはあるかな……子供の頃から使ってるしっ」
「だから誰かがそれを“元々立て札の穴に挟んであって立て札のぐらぐら感を止めるモノ”だと思ったんじゃないか? つまり犯人が誰とかじゃなくて、誰かがそう勘違いして、元に戻すというつもりで挟み込んだんじゃないか?」
「な! なるほど! さすが航大くん!」
と言ってバンザイした岸本瑠々ちゃんにすかさず航大くんが、
「まあ全部花譜の謎解きだけどもなっ」
とサムズアップすると、岸本瑠々ちゃんは私のほうを見て「ちゃす」と軽く言ってから、
「じゃあまあ謎が解けて良かったよ、ありがとね。航大くん、宮越さん」
と言ってこの事件は終わった。
でも最後のあの『ちゃす』ってなんだよ、何で私はこんなに軽んじられているんだ……まあそうか……陰キャだから仕方ないか……。
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