しりとりですよ!稲形さん!

 授業中の暇つぶしとして、ぼくと稲形さんは日々手紙を回している。

 とはいえ、ただ取り留めのない会話を続けるだけでは味がないというか、少し停滞してきている感じがある。ので、何か面白いことは出来ないかと頭を悩ませ、提案してみた。


『絵しりとりしない?』


 頭を悩ませた結果、何も面白味のない提案が仕上がった。

 よくよく考えると、ここまで手紙を回してきておいて、その定番中の定番に手をつけていなかったのは、少々意外かもしれない。


『いいですよ! まずは私からいきますね!』


 と快諾した稲形さんのメッセージの脇には、真っ赤に塗られた赤い丸があった。首を傾げた後、ちょこんと上部から飛び出た、国民的アニメの父の髪の毛みたいなひょろ長い線を見て、りんごらしいことを察する。


「…………」


 まあ、とはいえぼくも、別に絵の心得はない。『ご』から始まるもので、書きやすい物を考えて、無難に無数の黒丸を打つ。『ごま』である。


 絵しりとりのコツとはつまり、描きやすくて伝わりやすいものを使うことにあると見出した。そもそもこれは、お互いの息を合わせた協力プレイのようなものである。だからこそ、ぼくはひたすら、これならわかるだろうな、と自分の画力や一般的な認知度、混同物の有無などを鑑みて必死に描いていたのだが──


『そろそろ、答え合わせする?』


『いいですよ!』


 快諾と同時に、最初の絵に『りんご』と文字が書き足されていた。合わせて僕も、『ごま』と書き加えて返す。


『ごみ』


 急に稲形さんから罵声が飛んできたのかと思って気絶しそうになったが、見ればぼくの『ごま』の字の下にそれが書き足されていた。なるほど、稲形さんはそう解釈したってことか。

 さらにその隣には、黒く塗りつぶされた丸っこい何かが記されていて、その下には『』と描かれていた。いや、わかんないって。何の果実なんだよそれは。


 ちなみに、『ま』の流れだと思っていた僕は、球形の形状から『鞠』だと推測して、『リング』を書いた。『み』だと思っていた稲形さんは、『ミサンガ』だと思ったらしい。以降もそんなすれ違いが続いた。


『すみません、何個も勘違いしてました!』

『獅記さんの意図に気づけず、すみません><』


『いや、気にしなくて大丈夫』


 お互い察しも画力も悪すぎる。面白いくらいすれ違ってしまった。

 悔しい気持ちもあるが、これ以上イラストの引き出しがない。一度答え合わせした絵を、別の回で使い回すというのも卑怯臭いし。


 まあ、いずれにせよ。


『ぼくたちにはまだ、絵しりとりは早かったのかもね』


『ですね』


 画伯の尻尾が目の前でしゅんと項垂れた。あるいは、器用な尻尾で描いたら、手よりも綺麗に仕上がるのではないかと、そんな失礼なことを考えながら、授業の時間は過ぎていった。

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