【21 エピローグ?】

・【21 エピローグ?】


 各地の魔物は増加せず、減ってきているというニュースをギルドで知った。

 魔物の素材集めはできなくなったけども、そもそも魔物は強くなるための素材という一面がほとんどで、魔物がいなければもう強くなる必要も無い。

 このまま平和な世界でスローライフかなぁ、と思っていると、急にまた魔物が各地に出現するようになったのだ。

 もしかするとあの神官、適当だから逃がしたのか? と思っていたんだけども、魔物のなんというか、テイストが違うのだ。

 今までの魔物はどこか丸っこい感じの、そのなんというか、今考えると画力が低い人間の魔物といった感じだったのだが、新しい魔物は本当に禍々しい、画力がトップクラスの魔物といった感じ。

 言うなれば幼年児向けの魔物から一気に青年向けになったといった感じ。グロテスクだが、どこかカッコ良さのある、といった感じ。

 ただ牙や爪などが前の魔物よりもしっかり尖っていて、強さは比較にならないほど強くなっていた。

 そんなある日、私とリュウはギルドのお姉さんと共に、レストランで食事することになった。

 勿論、この世界情勢についての意見交換だ。

「つまり梨花とリュウは”以前”の魔物を召喚していたヤツを捕まえたということだよね?」

 そう、今や以前・以後。

 それだけ以後の魔物は強力なのだ。

 と言っても私とリュウからはまだまだ余裕なんだけども、他の人たちが結構心配で。

 襲われて壊滅状態になった街の話も聞くし。

 リュウは斜め下を見ながら、こう言った。

「あのファンの子が言っていた、覆面の男についてもっと深掘りすれば良かった。神官もあの時に聞けば良かったのに」

「でもまあ神官は牢獄に拘束してからいくらでも聞けるからいいと思っていたんじゃない?」

「じゃあ俺の不始末だ……」

 そう頭を抱えて落ち込んだリュウ。

 いやでも、

「それを言うなら私もだし、私たちがそこまでこの世界を守るために行動する必要も無いじゃん」

「だからって見ず知らずの人でもケガをしてしまったら俺は嫌だ」

 そう言ったリュウに、何だかきゅんとしてしまった。

 だから好きなんだ、私は。

 リュウが真面目に、世界の幸せを本気で考えているところが。

 最近はギルドのお姉さんからの連絡もあり、強い魔物退治へ行っている。

 素材集めというよりは本当に、依頼としての魔物退治。

 まあ私もできるほうなので、一緒についていって討伐を繰り返している。

 リュウは意を決したような溜息をフッと吐いてから、こう言った。

「よしっ、神官の元へ行こう」

「どうしてそうなるのっ?」

 と私が聞くと、

「やっぱりあの子が何か鍵を握っているはず。ちゃんと拘束しているかの確認もしたいし。神官たちなんて俺と梨花からしたら楽勝の相手だから、絶対あの子に会えるはずだ。だからちゃんともう一回話を聞こう」

 するとギルドのお姉さんが、

「私もそれがいいと思いますよ、やっぱりリュウは根っからの勇者だね!」

「いやそれはもう昔の話だけどもさ、俺はもっと優雅に梨花と旅行がしたい。そのためには世界が平和じゃないとできないだろう? 梨花、俺のためについてきてほしい」

「そんな……リュウだけのためじゃないでしょ! 私もリュウと楽しく旅行したい! だからそのためになるんだったら何でもするよ!」

 ギルドのお姉さんとは別れて、私とリュウは神官のいる、正義騎士団本部に乗り込んだ。

 門番や兵士がいたけども、私とリュウを見るなり、何もせず、そのまま通してくれた。

 神官のいる間まで着くなり、神官がこう言った。

「何の用だ……門番は何をしている……」

 どこか疲弊しているような表情をしている神官。

 まあそんなことはどうでもいい。どうせ夜遊びみたいなもんだろう、コイツの疲れは。

「あの子に、以前の子に会わせてほしい」

「何で今更、今はそっちじゃないだろ。今はむしろ強力過ぎる魔物を送っているヤツを止めないといけないだろう」

 リュウが一歩前に出て、勇ましくこう言った。

「その送っているヤツを探すための情報を得たいんです」

「そういうことはワシがやる。オマエたちは黙って魔物退治でもしていろ」

 こんな会話していても埒が明かない、というわけで、

「実力行使します」

 と私が言うと、すぐさまその神官はその場に土下座して、

「分かりました」

 と言った。

 別に土下座までしてほしかったわけじゃないんだけどもな。

 こんなシワシワの土下座見たって何も興奮しないし。

 神官のあとをついていき、牢獄のような場所に辿り着き、その一つの牢獄の中に確かにあの子がいた。

「梨花さん……」

 そう瞳を潤ませながら私のことを見てきたファンの子。

 最初に会った時よりも、体が痩せていて、あんまり良い環境ではないみたいだ。

 まあそれだけのことをしていたというのもあるけども、ちょっと可哀想ではある。

「君、また魔物を送っている?」

「まさか! その能力はもう覆面の男に取られたよ!」

 覆面の男! また出た!

 すぐさまリュウが声を出した。

「覆面の男というのはこの神官にも話したのか?」

「勿論話したよ! こういうことを正直に言わないと牢獄からも出られないでしょ! 多分!」

 私は神官のほうを向いて、

「どういった話だったか神官が話してください。それを合っているかどうか君が判断して」

 神官は一歩後ずさりながら、

「何でワシが喋るんだよ」

「なんとなくです。なんとなくそっちのほうがいいような気がしたからです」

 神官は妙に困惑していて、別に普通に喋ればいいのにと思っていると、リュウが、

「神官、早く答えてください」

 と凄むように睨むと、神官は観念した顔になってから喋り出した。

「覆面の男が突然出現して、魔物を送る魔法の紙と魔法のペンを取り上げたという話だったよな? それ以外は無いよな?」

「はい、それだけです」

 リュウは頷いてから、

「では覆面の男について詳しく教えてください」

「詳しくっていうと、どう説明すればいいんだ? 急に出現して急に言ったんだよ」

「まず出会いについて教えてください。覆面の男とは最初、いつ出会いましたか?」

 その子はう~んと唸ってから、

「確か、異世界モノについて調べている時に、何か、同人誌というか、何かよく分かんない本を手に入れて、それを開いたタイミングでその覆面の男が現れて。この世界に魔物を送ってほしいと言われて」

「声はどんな声ですか?」

「何か加工しているような、ボイスチェンジャーを使っているような声だったよ」

「背格好はどうでしたか、私と梨花と神官、誰が一番近いとかありますか?」

 リュウは分かりやすく聞いている感じがする。

 この子自体は要領得ないといった感じだけども、そんな子でも答えられるようにちゃんと筋道を立てている感じだ。

 こういう明瞭なところもリュウの好き好きポイントだ、と私はバカっぽく思っていたその時だった。

 なんと、急にその子は眠そうな目をしたと思ったら、そのままなんと寝てしまったのだ。

「どういうことっ!」

 とデカい声を出してみた。

 これはツッコミというよりはその子を起こすため、といった感じだ。

 こういう寝かけこそ一番目覚めるタイミングなので、大きな声を出してみたんだけども、一切目が覚める様子は無く。

 リュウは神妙な面持ちのまま、こう言った。

「まあもうその能力は無いという話なので、この子を牢獄から出してください。俺と梨花、そして俺たちが住んでいる村で預かります。こんな牢獄に居れば改心のチャンスも無いですから」

 私は正直反射的に『えっ? ヤだなぁ』と思ったんだけども、まあリュウがいるんだったらどうにかなるかなと思っていると、神官が激しく首を横に振って、

「そんなことはできん! 現にコイツは何らかの魔法攻撃を今受けたんだぞ! こっちで管理する!」

 と言ったところで、あっ、これふて寝とか喋り疲れたとかじゃなくて魔法攻撃なんだ、と思った。

 リュウは矢継ぎ早にこう言った。

「いいえ、魔法攻撃を受けたということはもはや管理できていない一番の証拠じゃないですか。魔法攻撃を受けてしまうような牢獄なら俺が村で管理します」

「コイツは極悪人なんだぞ! 牢獄に居たほうがいいだろ!」

「いいえ、もうそういった能力が無いなら、この世界で優しく生活させるべきです」

 リュウは絶対性善説だなと思っていると、神官が怒鳴り声を上げた。

「極悪人は牢獄行きが正しいだろ! オマエは頭がおかしいんだよ!」

「頭がおかしいのはこっちの台詞です。何で急にこの子を眠らせたんですか? 神官」

 私はつい「えっ」と生返事してしまったところで、そのついでに喋ることにした。

「今神官が眠らせたの? 何で?」

 唇を噛んで黙っている神官を睨みながらリュウが口を開く。

「俺は別に確証があってそう聞いたわけじゃないんですよ、ただ単純にどのくらいの身長が聞きたくて聞いただけです。なのにその言葉さえも怖がって言わせないなんて、まるで神官が覆面の男みたいじゃないですか?」

 神官は明らかに図星のような表情をした。

 リュウは続ける。

「そもそもずっと貴方の台詞はおかしかった。まるで魔物の量を神官が調節しているような物言いが多かった」

 私もちょっと気になっていたところでもある。

 改めて私も反芻した。神官の言っていたことを。


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