元コスプレイヤーが新婚旅行しているだけですが?

伊藤テル

【01 コスプレイヤー・梨花】

・【01 コスプレイヤー・梨花】


 すぐにお気に入りのブレスレットを付けてから作業を始める。

 仕事から帰ってきても徹夜しなければならない。

 何故なら次の、一週間後のコスプレイベントで着る、鬼神騎士のエイリーの服が完成していないからだ。

 エイリーの服は太もものスリットが特徴の、チャイナドレスのような服で、その構造が普通の服とは全く違うので試行錯誤しまくりだ。

 元々あるチャイナドレスを買って、それを元に作る計画もあったけども、エイリー似のチャイナドレスの服の値段を見たら目ん玉飛び出るくらいに高かったので、その策はすぐに頓挫した。

 エイリーの服、どうやったらできるのだろうか。

 でもエイリーというキャラを諦めることは絶対にしない。

 正直ビキニアーマーにして、正ヒロイン・フーカのコスプレのほうが何百倍も楽だし、人気だってある。

 囲みを多くしたいだけなら、フーカ一択なんだけども、私はそれ以上にこのエイリーが健気に草薙リュウに尽くす姿が好きなのだ。

 あんなフーカみたいなツンデレだけの女をやってたまるか。これは私のオタクとしての矜持だ。

 とは言え、あまりに夜が遅くなると、明日の仕事に響くので今日はもう寝ることにした。

 今考えると十代オタクは最高だったな。明日のことなんて気にする必要ゼロだから。

 気にしたとて、そんな大切なことなんてないから。

 二十五になって、いや二十一の前半時点で十代は良かったと分かった。就活もめっちゃキツいし。

 就活って大学の最終学年からすることじゃないんですね。

 もっと前から始まっていて、もっと前から苦しいんですね。

 十代オタクに幸あれ。

 そんなことを願いながら、私はパジャマになってベッドに着いた。

 ストゼロでも飲もうと思ったけども、そんな気力もなく、永眠するかのようにぐったり眠りについたと思ったんだけども、今日は夢を見てしまった。

 あんまり私って夢を見ないほうなんだけども。

 どんな夢だったか眠気まなこで反芻する。

 私はパジャマで、幻想的な光り輝く空間に横になっていた。

 そこは見たこともないような黄金の部屋、というか壁も天井も床さえもない文字通り空間で、私はどこにいるんだろうという、さながら幽体離脱感覚だった。

 その空間の奥から男性二人組の声がして、

「まさか」

「もういい」

「でもまさか」

「こんなんはもういい」

 と小さな声でボソボソ話していた。

 何に対して言っているのかは分からないけども、言い方的に何だか私への悪口っぽくて、ちょっとイラついたことを覚えている。

 最後にその男性の一人が、

「本当にもういい!」

 と叫んだら、目が覚めて、って、まだ私は目が覚めていないけども、そう、今こうやって目が開けて……って!

「えぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええ!」

 私の目の前には十人くらいの男女がいて、全員私の顔を覗き込んでいたのだ!

「誰ですかぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!」

 一気にテンションがマックスになって体がアツアツになってきた。

 目覚めて体がアツアツだった時はすぐにアイスを食べるんだけども、天井を見るとどうやら私の家でも無さそうで。

「人体実験ですかぁぁぁあああああああああああああああああああああああああ!」

 と言いながら私は上体を起こし、改めて部屋を見渡すとログハウスのような壁と天井、ベッドも木のベッドで私が使っている、ちょっといやらしめのピンクと水色のお姫様チックのベッドではなかった。

 その中の一人、長い白髭の老人がこう言った。

「誰かはこっちの台詞じゃ、お主は一体あそこで何をしていたんじゃ?」

「あそこって、家で寝ていただけですけども」

「じゃあお主の家とはどこだ?」

 これ住所言わないといけない系? と思ったけども、マジで言わないといけない系みたいな空気が流れたので、仕方なく、

「東京都の浅草です……」

 と、とりあえず最後までは言わずにそう答えておくと、

「とうきょうと? あさくさ?」

 と日本語で言われたので、何だコイツ、と思ってしまった。

 だから、

「日本語喋って東京都知らないのはおかしいでしょ」

 とちょっと呆れるように私はそう言うと、その老人は腕を組んで悩んでから、何か浮かんだかのようにこう言った。

「もしかしたらこの子は転移子かもしれんぞ、転移子はこの世界の言葉やモノを自分がいた世界の言葉に変換して聞こえ、また喋られるそうじゃ」

 転移子……って、それ、

「異世界転移……?」

 と声を出した瞬間に、十人くらいいた中の老人と他三人くらいが感嘆の息を漏らした。

 それ以外の人々がざわざわしながら、

「転移子とは何だ?」

「異世界転移とはどういう意味だ?」

「この子は特殊なのか?」

「ハッキリ教えてくれ」

 と言い出した。

 すると老人がこう言った。

「簡単に言うと、この転移子は別次元の世界からやって来た子なのじゃ。そして別次元からやって来る子は特殊な力を持っていることが多く、場合によっては大勇者様になるとも言われているんじゃ」

 十人くらいいたオーディエンスはめっちゃ沸いた。

 いやいや私が勇者なんて、と思っているし、あと異世界転移って、なんというか、不慮の事故で何かなった人がお情けで別の世界に転移することじゃないの? と思っているんだけども、もうオーディエンスのワッショイが止まらない。

 正直めちゃくちゃうるさいんだけども、何故か段々眠くなってきて。

 いや全然私の話なのに、眠いと思ったら本当に、本気でどんどん眠くなってきて。

 私はワッショイを子守歌に寝た。

「寝るなぁ!」

 めっちゃ老人に起こされた。ハズイ。

 老人は目を丸くしながら、

「何故このタイミングで寝るんじゃ! どんな神経しとるんじゃ!」

 老人アツアツだな、と思っていると、やっぱり眠くなってきて、スッと反射的に目を閉じると、

「寝るなぁ!」

 めっちゃ老人に起こされた。ハズイ。

「よく寝れるな! 転移五度目か!」

「いや全然初めてですし、転移するなんて思っていなかったです」

「そうじゃろう! そうじゃろう!」

 老人、怒り起こししたテンションで完全に勢いがついている。

 何か言われるかもと思っていると、

「まずそんな寝やすいような恰好をしているからいかんのじゃ! この恰好に着替えるのじゃ! 男性たちよ! 一旦外に出るぞ!」

 渡された服は何か農業するような服だった。

 サスペンダーに緑色のTシャツ、あとは麦わら帽子とタオルって、まんま農夫だ。

 男性たちはこちらを振り返りもせずに部屋から出て行ったので、全然普通に紳士かよ、と思った。

 女性は三人いて、赤髪ショートカットの女性が喋り出した。

「この村は男性も女性も農業で生活しています。もしよろしければ貴方にも働いてほしいと思っています」

 黒髪ロングの女性も喋り出して、

「貴方の特殊能力は分かりませんが、もしこの村に役立てるモノならば是非役立ててほしいです」

 最後に銀髪でベリーショートなんだけども、一番色気のある女性が、

「まあ好きに生活しているヤツもいるから働かなくてもいいんだけどな、ちゃんと食べ物分け与えるし。でも転移子として期待も周りはしちゃっているだろうから一応最初は働いてくれるかな?」

 いや普通に働かぬ者食うべからずなので、

「いやいや全然やりますよ! 異世界転移したらスローライフもしたかったので!」

 とデカい声を出した。

 デカい声出さないとまた眠りそうだったから。

 農夫の恰好に着替え終わると、何だか俄然やる気が出てきた。

 気分は別人のよう。

 もう全く眠くもない。

「ではどういったことをするか教えて下さい!」

 そう言って部屋を出ると、廊下じゃなくて外で、あの一個しかない扉が玄関だったんだと知った。

 小さな一部屋だけのログハウスがつまり私の家ということ……? と思った時にハッとした。

「エイリーの服!」

 私の、輪をかけて出たデカい声にビックリしている女性三人。

 赤髪の女性が、

「エイリーの服とは、一体どうしたんですか?」

 と聞いてくれたんだけども私は黙ってしまった。

 当然だ、異世界転移って着の身着のままでするんだ、当然向こうの世界のモノなんて何も無くて。

「いえ……向こうの世界で置いてきた大切なモノです……」

 と肩を落として、そう答えると、銀髪の女性が私の肩を元気に叩いてから、

「ま! 転移子ってそういうことらしいな! そういうことはもう割り切ってさ! これから大切なモノを作っていこうぜ!」

 そう言ってニカっと笑った。

 まあもう割り切るしかないか……そんなことを思いながらトボトボと言われるがまま連れられるがまま仕事場へ向かった。

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