異世界勇者、現代にて無双できない
@Wasabisanbisa
プロローグも出来ない
ルナーラ歴3621年、この世界最大の大陸にて勇者が生まれ落ちた。彼の名はクロス、女神の加護を受けた正真正銘の勇者である。高潔な精神を持ち、身分の差に囚われず全ての人民に分け隔てなく接するその姿はまさに英雄であった。
そして、彼はまた武力にも秀でていた。剣を扱えば右に出るものはおらず生まれながらにして自らの敵はいなかった。さらに初めて扱う武器でもその扱いを十二分に理解しすぐに熟練の域にまで達した。そんな才に溢れながらも彼は一切の鍛錬を怠ることなくそんな彼の姿勢に全ての武人は経緯を示した。
彼、勇者クロスの命はこの世界に魔物という名の混沌をもたらした災厄の魔王を討ち滅ぼすこと。クロスは勇者の聖剣を手にし、魔王を討つ旅に出て早数年、ついに魔王と相対すに至った。
「よくぞ来たな、勇者クロスよ。我こそは災厄の魔王サターンである!」
「…。」
勇者クロスは魔王の名乗りと共に放った圧に対し、怯える素振りを一切見せずただ魔王1点を見つめていた。その威風堂々たる姿は勇者の名に恥じない勇気あるものの姿であった。
「ふっ、さすがは勇者。我の圧を受けてもなんともせぬか。」
(やばいやばいやばいどうしよう!なんかビビって固まってたら変な風に勘違いされちゃったんだけど?!)
否!否!彼は勇気ある勇者などではない!何故こんなことになってしまったのか…
そう、あれは遡ること数年(いや遡らせるか!!)
(おい、聖剣アスティ!なに勝手に回想始めようとしてるんだ!早くあいつを片付けてくれ!)
『全くもう、つれないな、ご主人ったら♪』
「ふっ、我と語らう気はなしか。ならば早々に決着をつけてやる!」
そう言って魔王は右手に魔力を集めこちらに禍々しい瘴気を纏った攻撃を放とうとしてくる。
(アスティ!!早く決めて!!)
『わかったよご主人…。あいよー。』
勇者の聖剣アステリア、この武器は知性を持つ武器、インテリジェンスウエポンであった。そしてその知性は数千年の武の記憶を溜め込んでおりその記憶を持ち主に対して共有することが出来るのだ。これこそが勇者クロスがありとあらゆる武器を簡単に扱うことが出来た理由である。
「…聖剣撃ホーリーブラスト!」
クロスが剣を斜めに袈裟斬りにするように一閃すると眩い白き斬撃が瘴気を右手に集めている魔王に対して飛んでいった。そしてそれは瘴気諸共魔王を切り裂いてしまった。
「ぐっ、勇者クロスよ、見事だ…。しかしこれで終わりではないこれぞ我の最後の一撃!!」
そう言うと魔王は血を吐きながらも眼光鋭く、勇者の足元に魔法陣を出現させた。
(え、何この魔法陣?!やばい、避けれない!!)
「この魔法は全てを亜空間に消し飛ばす魔法!勇者、せめて相打ちにさせてくれるわ!」
そして魔法陣は光を増し、勇者クロスを消し飛ばした。しかし魔王は1つの間違いを犯していた。この魔法は亜空間に物体を送る魔法ではなく別の世界に物体を送る魔法だったのだ。そして勇者クロスは別の世界へと飛ばされることになってしまった…。
(うっ、俺は一体どうなった?死んだのか…?それに妙に体が重くてゆう事を聞かない…。)
「大丈夫ですか!大丈夫ですか!!息は、うんある。」
(ん?一体誰だ?魔王城に援軍でも来たのか?)
そして目を開けるとそこに広がっていた荘厳な魔王城などではなかった。周辺は洞窟のようで少し肌寒いような感覚だった。そしてクロスを覗き込んでいるのは赤髪のショートヘアにピンクのメッシュを走らせた黒い瞳の女の子だった。
「…た、助けてくれてあ、ありがとうご、ござい、ます…。えっと、こ、ここは一体…?」
「ここはね、東京渋谷のシブヤダンジョンの第3層だよ!ここが分からないってことは新しい転移型トラップとかかな…?」
(トーキョー?シブヤ?聞いたことない地名だ。恐らく魔王の魔法で転移させられたのだろうがよっぽど遠くに飛ばされたのか…)
「…と、とにかく、た、助けてくれて、あ、ありがとうござい、ます。ぼ、僕の名前はク、クロスです。」
「どういたしまして!私の名前は赤堀ツバメ!気軽にツバメって呼んでね!とりあえず上まで戻ろうか。入口まで戻ればダンジョンを管理してるギルドがあるからね!」
そう言ってツバメは上の方を指さした。
(ギルドか、聞いたことがあるな。確か冒険者たちを管理する組織だったか。俺に縁はないがな。)
「それじゃ、案内するね!よろしくね、クロス!」
「…う、うん。よろしく、つ、ツバメさん…。」
そしていざ歩き出そうとした時だった。
「ギシャーーーー!!」
後ろから緑の子供ほどの背丈の魔物、ゴブリンが3匹棍棒を持って迫ってきていた。
「…ゴ、ゴブリン!つ、ツバメさんは下がってて。ぼ、僕が倒すか、ら。」
「ううん、大丈夫だよ。」
「…え、いや。」
「だってもう倒したから。」
するとゴブリンたちはとつぜん事切れたようにバタバタと崩れ落ちていった。そして一拍遅れて喉元から血を吹き出した。
「…え?」
「ほら、私って軽戦士だから素早いんだよね。」
「…え、いやでも見えな、え?」
「うん?普通に斬撃をピュッて飛ばしてズバって切ったんだよ?」
「は?」
「えーっと、普通にスラッシュっていう攻撃なんだけど知らないのかな?ま、いっか!それじゃ行こー!」
拝啓、お父さんお母さん。目が覚めたらいきなり勇者の僕を凌駕する強さの女の子に出会ってしまいました。僕はほんとに勇者なのでしょうか?
追伸 なんか体重いです。
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