餓鬼共の呪い

南川黒冬

序章「拝啓、今は亡きお母様」

嘘つきの独白

 正直。

 僕がこの町に残った理由は分からない。

 無い、なんて言わない。この世に理由が無い事なんて、それこそ宇宙の始まりの始まりの本当に始まりくらいしか、存在しないだろうから。


 これは結局、他の大凡おおよその物事と同じように、理由が説明できないことだ。


 分からない。解らない。判らない。そういうこと。


 ただなんとなく「ここが僕の居場所か」と思っただけで、父さんや兄さんから逃げたかった訳でもないし、母さんの傍にいたい、なんて思うほど、僕は死んだ人間に感情移入するタイプではない。


 勿論、母さんの事は父さんや兄さんよりは好きだったし、この町で母さんの病気が良くなるのなら、あの大都会から離れてこんな辺鄙へんぴな所に来ることなんて苦では無かった。


 結果、母さんは死んでしまったが、それでこの町を怨むほど僕は情緒豊かな人間ではなく、加えて死んでしまったらそれで終わり、と思える程度に冷たい。


 だから、どうして僕はここに残ったのか、分からないのだ。


 あの華やかな生活から離れ、半ば勘当に近い形でオンボロアパートに移り住み、住み慣れた場所をなんの未練もなく投げ捨てて、僕はこの町に留まった。

 

 別段ここは住み良い町という訳ではない。確かに自然は豊かで空気も美味しいが、利便性に欠けるし、そして何より、理想的な人間関係を構築するのに、この町は適していなさすぎる。


 ここだけ時が停滞したように変化を嫌うこの町は、決して僕を歓迎してはくれなかった。


 初めてクラス写真を撮ったとき、そのことに気付いた。

 決してフレームから外れている訳ではなく、僕の視界の外から中指を立てられている訳でもなく、ただ僕の目には、景色のように当たり前にそこにいるクラスメートの中で、僕一人だけが浮き上がっているように見えたのだ。


 それでも僕は、この町を選んだ。


 だからこの話は、僕がこの町に留まった理由を見つけるまでの嘘みたいな青春の話だ。


 青春。青い春。


 そう、始まりはやっぱり春が相応しい。

 なら、春の話をしよう。青春なんて物じゃない、激烈でおぞましかった僕の、この町で過ごした二年目の春。


 多大な妄想と脚色を加え、綺麗な文章で纏め上げ、ノンフィクションの売り文句でいかにも茶番っぽく法螺を吹こう。


 孤独な僕と、友達のいない少女の物語。


 愛情に飢えた現代の子供達の、残酷で残忍で、救われない物語。

 限られた愛情は、誰かを蹴落とさなければ得られない。

 恋愛も。友愛も。家族愛も。

 蹴落とし、陥れ、独りになって愛を啜る。

 言葉にすれば綺麗な感情も、行き過ぎれば笑えない。

 この世はまるでリバーシのよう。

 善は、いとも容易く反転して、悪と成り代わる。


 愛なんて、そんなものだ。


 さて、前置きが長くなった。

 お待たせしました。騙りましょう。

 高校二年生になりたての僕の、奇々怪々な物語。

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