The 10th Ride ロジックマン・三波の戦略

「いいだろう、ではまず今の状況から説明する」


 僕とユーダイが共闘に承諾したのを満足そうに聞いて、ペダルを回しながら状況説明を始める三波みなみくん。


「今レースは【先頭集団】とオレたちの居る【後方集団】、さらにバラけた後方の数人に分かれている。まず先頭集団は5チーム15人、後方集団はオレたち4人を含めて31人。数ではほぼ倍だが統率は取れていない」


 集団というのは人数が多ければ多いほど先頭を交代して負担を減らす事が出来る。だから集団にくっついていた方が良いというのだけはレースに出る事を報告した時、自転車屋さんからアドバイスを聞いていた。


「先頭集団はスムーズに先頭交代を繰り返して、恐らく平均時速32キロを叩き出している。一方この集団は速くなったり遅くなったりを繰り返して今の平均時速が約30キロ。少しずつ集団同士の差が開いている状況だ」


「そう、だから……オレ達でペースを握って!」


 

 榛名はるなくんはそう呟くと急加速して、交代を要求していた集団の先頭に並びかける。僕らもその後に続いた。


榛名コイツは登りを苦にしない【クライマー】、そしてオレは平坦ならコースを的確に把握してペースを一定にコントロールできる【ルーラー】だ」


 榛名くんが周回コースの中で一番急になっている坂を登り切ったところで三波くんが先頭に躍り出て、緩やかな下り坂でケイデンス(ペダルの回転数)を上げながら加速していく。


「お前ら2人はオレの作ったペースを20維持してから集団の一番後ろに回れ! それだけでいい」


 

 三波くんの言葉を信じ、キツいけれどユーダイに続いて時速40㎞近いハイペースでペダルを回して、20秒後に後続へバトンタッチする。集団の後ろ側に付いてからは集団から振り落とされないよう、周りのペースから遅れないように必死で追う。


 要求された事はレース初心者の僕にはなかなか厳しいものだったけれど、この集団から脱落したら自力だけでこんなペースに戻ってこれる可能性はゼロだ。


 そう思いながら必死で漕ぎ続けてどれくらい経っただろうか。2回目の先頭交代を終えて集団の後ろ側に戻った時には、前よりも随分と楽に集団に付いていけているのを感じた。


 

「ようやくペースは安定した。ヤイチ、ユーダイ、レース初参戦の割りによく頑張ったな」


 集団の前側に張り付いて先頭交代の順番やタイミングを指示し続けていた三波くんが、後方に戻ってきて僕とユーダイの肩をポンと叩く。


「だけどまだ先頭集団には追い付けていない。先頭集団の速度なら恐らく1時間でほぼ20周フィニッシュだろう。それに対して今はもう9週目だ。三波、ホントにこのペースで大丈夫か?」

 

「この時速とタイム差で進めるならあと先頭交代を2巡、大体15周目で追いつける計算だ。俺のロジックがそう言っている」


 榛名くんの発言を遮るように自信たっぷりに言い放つ三波くん。



「そして、ここからが肝心だ。先頭集団に追い付いたら、そのまま大集団になるように仕向けるのではなく、先頭集団と共にペースを上げてこの集団を!」

「えっ?」


 僕からしたら、せっかく協力してくれた仲間なのに最後まで一緒に闘わないのはフェアじゃないような気がしたけれど。

 

「集団が合流して40人以上ともなればせっかく作ったペースは乱れ、残り5周が混戦になるのは必至だ。その前に共闘できそうな先頭集団のチームと組んで残り3周、もっとハイペースでそこを抜け出して勝ちを狙いにいく!」


 レースにおいて表彰台に残れるのは上位たった数人だけ、ともなればその場その場で最善となる作戦を取る事は仕方のない事。僕の動揺に気付いた榛名くんがそう耳打ちする。

 

 

「先頭集団に居るのは小田原学園おだわらがくえん中等部自転車競技部、磯崎いそざきリヴァイアサンズのユースチーム、その女子部である磯崎フォルトゥナ、腰越クライベイビーズ、長谷サンズ。その中でオレ達が組めそうな奴らと言ったら……」


「はいはーい! どうせ組むならいかつい男子よりも女の子が良いな」


 、という単語を聞いた辺りから急に目を輝かせるユーダイ。磯崎フォルトゥナ、というチーム名には何となく聞き覚えがあった。確かそれは僕が自転車ロードバイクを始めたての頃、一緒に走った……あかねの所属していたチームの名前だったハズだ。


「そうだな。別に女子だから……ってワケじゃないが今回のレース、チームエースの五里愛花ごりまなかは優勝を狙っていると聞く。逆に小田原学園おだがくは共闘など持ち掛けても無駄だろうが、自分のチームだけで勝ちに来るはずだ。そこでもし7対3での最終スプリントとなれば、オレ達にも勝ち目がある」


「へえぇ、エースは愛花ちゃんって言うのか。可愛いのかな? 名前からして絶対可愛いよな♪ テンション上がるわ~」


 変なところでテンションをあげるユーダイ。半ば呆れながら『レース終わったら片瀬先輩に言いつけてやろう』と思いながらも、別の疑問が頭に浮かぶ。


 

『ユースチームではとっくにチームエースやで。ウチの才能からしたら当然の事や!』

 

 今年の4月、久しぶりに顔を合わせた時に茜は得意げにそう話していたハズだ。身長は相変わらず僕よりも高くなってはいなかったけれど、走りは相変わらず敵わないなと思わせるに十分なぐらい速かった。そんな彼女がチームエースじゃないのか。


 それじゃあ、あの発言はなんだったんだろう?



 そんな事を考えている所に、前方から声が挙がる。


 

「追いついたぞ! 先頭集団だ!!」


_________________

ついに先頭集団に追いついたヤイチ達。

ここからどう展開していくのか!?

 

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