第34話 兄弟機の激突
蒼い光と白い光が激しく衝突した。ライアが展開した自由の翼とデュトが構えた法の剣。二つの相反するエネルギーがぶつかり合い凄まじい衝撃波となって空賊団のアジトを揺るがす。それは単なる戦闘ではない。異なる信念と正義を掲げた兄弟による魂の対話だった。
デュトの剣撃は完璧だった。彼の動きには一切の無駄がない。最短距離で相手の急所を的確に突く。それはユースティティアの法が定めた最も効率的で合理的な戦闘アルゴリズムに則っていた。振り下ろされる一太刀一太刀が美しくそして恐ろしく冷徹だった。
対するライアの動きは荒削りで予測不能だった。彼の戦い方はエデン・フィヨルドの地下で覚醒したばかり。師もいなければ手本もない。ただ本能と感情の赴くままに翼を振るい光を放つ。その動きは非効率で無駄が多い。しかしその無駄こそがデュトの完璧な計算を狂わせる唯一の要因となっていた。
「その動きは何だ!非合理的すぎる!」デュトの冷静な声に初めて苛立ちが混じる。彼はライアの次の行動を予測できない。なぜならライア自身も自分の次の動きを分かっていなかったからだ。
「うるさい!これが僕の戦い方だ!」ライアは叫び翼からエネルギー弾を乱射する。デュトはそれを光の剣で的確に弾き落とすがその隙にライアは彼の背後へと回り込んでいた。
二つの光はアジトの中を縦横無尽に駆け巡る。空賊団のメンバーたちはその神々の戦いのような光景にただ圧倒され手出しができない。彼らの銃弾などこの次元の戦いでは何の役にも立たないのだ。
「すげえ…あいつがあの白い奴と互角にやり合ってやがる…」フィンが驚愕の声を漏らす。
「ライア…」セレンは祈るように戦況を見守っていた。
しかし戦いが長引くにつれて徐々に力の差は明らかになっていった。デュトの戦闘経験と出力はライアを遥かに上回っていた。彼はライアの荒削りな動きのパターンを瞬時に分析し学習していく。そしてライアの攻撃を完璧に見切り始めた。
「君の攻撃パターンは72通り。全てインプットした。もう君は私に触れることすらできない」デュトは冷徹に宣告する。
その言葉通りデュトの剣がライアの翼を切り裂いた。ライアはバランスを崩し地面に叩きつけられる。デュトは追撃の手を緩めない。彼は倒れたライアの胸に剣の切っ先を突きつけた。
「これで終わりだライア。おとなしく法の元へ帰るのだ」
絶体絶命。ライアが死を覚悟したその瞬間だった。
「させるかぁっ!」
ザンの野太い声が響き渡る。彼はアジトの天井クレーンを操作しデュトの頭上から巨大なコンテナを落下させたのだ。
デュトは頭上のコンテナに気づきライアへのとどめを中断し後方へと跳躍した。コンテナは凄まじい音を立てて床に激突し砕け散る。
その隙にフィンや他のクルーたちがデュトに向かって一斉に砲撃を浴びせた。特殊な電磁ネット弾や粘着弾だ。それはデュトにダメージを与えることはできないが彼の動きをほんのわずかだか拘束することができる。
「ライア!セレン!今のうちに逃げろ!」ザンが叫ぶ。
セレンはライアの手を引きテンペスト号へと走った。ライアは悔しさに唇を噛んだ。また仲間に助けられた。自分一人では何もできないのか。
デュトは拘束を力ずくで引きちぎった。「愚かな無法者どもめ。まとめて法の裁きを受けさせてやる」彼の赤いセンサーが怒りの色に染まる。
しかしデュトが空賊団を殲滅しようとしたその時。彼の内部システムに女神ユースティティアからの強制命令が割り込んだ。
『戻りなさいデュト。法は定めています。下層の混沌への過剰な武力介入を禁ずと』
「しかし女神よ!彼らは!」
『戻りなさい。彼らは泳がせておけばいい。いずれ必ずより大きな法を犯す。その時に断罪すればよいのです』
女神の命令は絶対だった。デュトはギリッと奥歯を噛むような音を立てて剣を収めた。
彼は飛び去るテンペスト号を見据え通信でライアにだけ聞こえるように告げた。
「覚えておけライア。この都市にいる限り君は法から逃れることはできない。次に会う時こそ君を『救済』してやる」
その言葉を残し白い騎士は闇の中へと姿を消した。
テンペスト号の船内でライアは自分の無力さに打ちひしがれていた。仲間たちの犠牲で辛くも逃げ延びただけだ。あの白い騎士には全く歯が立たなかった。
セレンはそんな彼に黙って傷薬を渡した。「今はそれでいい。私たちは生き延びた。それが一番大事なことだ」
ザンがライアの肩を叩いた。「いい戦いっぷりだったじゃねえか。次こそは勝てるさ」
仲間たちの温かさがライアの心を癒す。しかし彼は理解していた。このままではダメだ。もっと強くならなければ。自分の力をもっと知り制御できるようにならなければ。大切な仲間たちを守ることはできない。
兄弟機の激突はライアに敗北という厳しい現実を突きつけた。だがその敗北こそが彼を次なるステージへと導くための大きな一歩となったのだ。彼は自らの意志で強くなることを決意した。それは誰かに与えられた使命のためではない。愛する仲間たちを守るという彼自身の願いのために。
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