第十二話『思考回路』

「……あの人、いつまで着いてくるんだろう?」

 メアリーが不安そうに後ろをチラチラと見ながら呟いた。

「さあ……とりあえず本人に聞いてみるか。なあ、ジャスミンはいつまで俺たちに着いてくるつもりだ?」

「そんな直球に聞くの⁉︎」

 驚いた様子のメアリーを気にも止めることなく、ジャスミンは口元に手をやりながら、何を当たり前のことを聞くのかとでもいうように笑う。

「もちろん、ヌル様の行く所なら、どこまでもお供いたしますわ♡」

 先ほどまでの殺意が嘘みたいに思えるほど、ジャスミンはなごやかな笑みを浮かべている。

 一体何がジャスミンをそこまで駆り立てるのか、ヌルには全く理解できなかった。

「ふむ……ならジャスミンは俺のどんなところが好きなんだ?」

「ヌルくん⁉︎」

 さらに困惑した様子のメアリーとは対照的に、ヌルは至って冷静に答える。

「いや、初対面の人間を好きになるからには、それ相応の理由があると思うんだよ」

「自分が好かれていることは疑ってないんだね……」

 メアリーとそんなやりとりをしていると、ジャスミンは余裕そうな態度で答えた。

「もちろん全部よ! 顔もタイプだし、機転を聞かせる地頭の良さも、その思いつきを全力で実行できる度胸と身体能力も――ステータスを隠す底の知れなさも……全部私好み♡」

「いや俺は別に、好きでステータスを全部隠してるわけじゃないぞ?」

「それって……あなたのステータスの異常は生まれつきってこと?」

 不思議そうにジャスミンは眉をひそめる。

「まあ、そうだな」

 口元を手で覆うと、ジャスミンは眼を見開いた。

「驚いた。まさか生まれつきのソータースキル持ちに会うなんて」

「ソータースキル?」

 聞き馴染みのない言葉に首を傾げたヌルは、メアリーの方に視線を向ける。

「ソータースキルは、脳内チップを使った超能力開発計画の副産物って聞いたことあるけど……ごめんね。うちもさっき見たのが初めてだから、あまり詳しくは説明してあげられないよ」

 申し訳なさそうにするメアリーに代わって、ジャスミンが付け加えるように言った。

「まあ間違ってはないけど、正しくもないわね」

「そうなのか?」

 純粋な好奇心で聞いたヌルに対して、ジャスミンは嬉しそうに頷くと、得意げに解説し始める。

「ええ! ソータースキルは精神のステータスが三百以上になるとケータイから作れるようになる一方で、脳内チップに頼らなくても目覚めることがあるのよ」

「待った! ソータースキルは超能力なのに、脳内チップで目覚めさせるのか?」

 ジャスミンは頭を振ってそれを否定する。

「その認識は少し語弊があるわね。旧世紀の時代ならともかく、現代にはもう脳内チップに超能力を目覚めさせる技術はないのよ」

「つまりどういうことだ?」

 眉をひそめながら首を傾げるヌルに対して、ジャスミンは簡潔な説明を試みる。

「今の脳内チップがやってるのは、修行をしなくても能力を使う最適な形に脳を特化させてくれることなの」

 当然のことのように説明するジャスミンに対して、ヌルがいつものように不思議そうな顔で質問した。

「そんなすごい技術なのに、どうして医療なんかよりも先にステータス管理とか超能力開発なんかを優先しちゃったんだ?」

 ジャスミンとメアリーが驚いたような顔で一瞬目を合わせた後、各々がどこか納得したように口を開いた。

「言われてみれば、うちもステータス管理以外にこの脳内チップが何に使われてるか知らないかも……」

「ええ至極まっとうな疑問だわ。むしろ、今まで疑問に思ってなかった方が不思議なくらい……」

 よほど衝撃的だったのか、メアリーとジャスミンの二人は思わず沈黙した。

「……思いつくことはあるけど、まだ仮説の域は出ないわね」

 肩をすくめながら、ジャスミンはヌルから離れて歩き始める。

「ジャスミン、どこ行くんだ?」

「少し調べたいことがあるから、先に下山してるわ」

 ジャスミンは既にスタンプを全て押し終えているスタンプを、見せびらかすようにひらひらとヌル達に見せる。

「そうそう試験に合格したいなら、少しは真面目にスタンプ集めることをオススメするわ。特にヌル様には期待してるから、あまり私を失望させないでね♡」

 そう言い残して、ジャスミンは森の奥に姿を消した。

「そういえば、俺たちってスタンプラリーに来たんだったな……」

 つい先ほどまで、戦闘に続く戦闘だったために、ヌルは試験の目的を半ば忘れかけていた。

「うちはもう二つは集めたよ! ヌルくんは?」

「俺……まだ一つも集められてないんだけど?」

 気まずい沈黙が、ようやく本格的なスタンプラリーの始まりを告げる。

 ――試験残り時間、およそ二時間三十分。


 to be continued


名前:ヌル・ノヴェリ


二つ名:無能

性別:男


種族:人間


所属:一般人


等級:なし


ステータス


筋力:0

体力:0

敏捷力:0

精神力0

知力:0

教養:0


思考性


主張力:0

行動力:0

自己客観性:0

自己肯定感:0

こだわり:0

上昇志向:0


スキル:なし


装備:なし(ショートソード、シャツ、ジーンズ、バックパック)


所持金:0G

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