第4話 火葬場のある町 2
その火葬場は最寄りの鈴が丘駅から徒歩15分の場所にあった。ネットの地図上では『鈴が丘聖苑』とある。
不二崎は初めてその建物を見て、まるで要塞のようだと感じた。
敷地は広い。周囲を歩き回った感じでは、敷地面積は野球グラウンドと同じくらいの広さで長方形型。約160センチの高さまで積み上げられたブロック塀は真新しい。塀は不二崎の顎下あたりまであるため、よじ登るには踏み台が必要だ。施設の屋上部分しか見えないため、どういう構造なのか確認できない。正面入り口は校門のような作りになっていて隙間からは玄関が見える。門の右側に鈴が丘聖苑の札が無ければ、初見でここがどういう建物なのか分からないだろう。
この施設と接触をするため、不二崎はこの火葬場に電話を入れた。
呼び出し音が10回以上鳴り、ようやく応答があった。
不二崎は電話の相手が喋り出すのを待った。
妙な
スマホの画面を見る。確かに通話中である。
通話時間が淡々と経っていく。
そのまま一分が過ぎた。
痺れを切らした不二崎は、「そちらは鈴が丘聖苑ですか?」と言った。
それでも相手は喋らない。
通話は切れることなく、砂が流れるような、掃くような機械音が流れている。
さらに一分経って向こうの電話口から唐突に。
「中身はどこですか?」と。
女の声だったように思う。
その後、一方的に通話が切れた。
なんだこれはと思いすぐに掛け直すと呼び出し音3回で中年男性らしき声が応答した。
「はい。鈴が丘聖苑でございます」
今度は背後に砂の音もせず明瞭な音声だった。
明らかに先ほどとは様子が違う。不二崎は、先ほどの電話はなんだったのか問いただした。
「さっきも電話したんですが、繋がっていました?勝手に切れてしまって。」
「いえ、お客様と話すのは初めてでございます」
電話口の男は全て言い終わらない内に声のトーンが低くなった。
不二崎は出鼻をくじかれた。話をどう切り出せばよいか分からなくなった。仕方がないので適当に理由をつけて手早く通話を切った。
改めて周囲を見回す。
お昼だというのに静かな道だ。
「ここはこれ以上無理ね」
不二崎はいまの出来事をメモし、慌ただしくその場を去った。
もう得られるものは無い――不二崎は更に情報を得るため、その足で『鈴が丘第五火葬場』に向かった。
今度は話をスムーズに進めるため、第五火葬場に到着する前に現地に電話を入れてアポを取ることにした。突撃取材にも関わらず、先方の担当者は快く取材を受け入れた。元々すでに新聞社のインタビュー予約が入っていたのだが、記者の都合で急遽キャンセルになったのだという。
不二崎が第五火葬場に着いた時には16時を過ぎていた。建物の玄関に男がひとり立っている。不二崎が建物の敷地をまたぐと、彼はこちらに近寄ってきた。きびきびとした動作で胸ポケットから革の名刺入れを出し、不二崎に差し出した。
「初めまして。山中と申します。いやあ、今日は助かりました。予定の取材がドタキャンだったもんで」
山中は火葬場の常駐職員だという。不二崎に建物内の案内をし、個室で待っているよう言った。
不二崎は待っている間、なぜ自分がこうも簡単に招かれたのか分からなかった。突然の雑誌取材は正体が分からないものである。普通、嫌がるものである。
山中はどうやら取材慣れしているらしかった。しばらくしてお盆に湯飲みを乗せて戻ってきた。
出されたお茶がどうにも匂いがキツイのと、初めての取材先では飲食を勧められても断るようにしていたから不二崎はお茶に口をつけなかった。
「お茶、飲まないんですか?」
山中は、きょとんと目を大きくさせた。不二崎は「ええ、お構いなく」と断りを入れる。
「なぜ飲まないんです。他に取材に来た人は大抵飲むんだけどなあ。美味しいですよ。玉露が入ってます。日本のお茶は美味しいですよ」
ソファに腰掛けた山中の口角が上がれども、笑みのない鋭い視線を向けられていることに、不二崎は気づいていた。
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