第2話 火葬場のある町 1

「そういえば、前にボツったネタはどうですかね?」


 雑誌記者の不二崎透子ふじさきとうこは社内で打ち合わせの間ずっと渋い顔をしている編集長に、自身が持っている切り札を出した。

「あれか」と編集長がつぶやく。つり上がった眉の勾配が更に高くなる。


「どうだろうな。まあ最近ホラーブームの流れが来てるから、跳ねるんじゃないか」


 不二崎はSurfaceを操作し、没ネタフォルダの中から『火葬場』というファイルを開いた。それは書面で一般投稿された投書で、A4サイズの封筒に収められたノートに書き連ねられたものだ。

 あまりにも確実性に欠ける妄想――悪く言えばオカルト的陰謀論であった。不二崎は改めてその文章を編集長に見せる。


「県内の女子高生から送られてきたノートのPDFです。膨大な量です。これを一人で調べ上げるなんて、すごいですよ」

「本物かどうか分からんぞ。デタラメの域を出ない。そんなものを載せるほどウチの雑誌は堕ちちゃいないし、オカルト専門誌でもない」


 投稿は全30ページにわたるノート一冊分で、過去10年以上もさかのぼる鈴が丘市の歴史と現在の事件を関連付けていた。テーマは一貫して『鈴が丘市における外国人流入と、行方不明事件との繋がりについて』。その事件は全て、鈴が丘市内にある11の業務委託された火葬場に繋がるというのだ。

 確かに真偽にかける情報だ。しかし一方で、到底無視できない物量ではある。これを愉快犯の冷やかしと捉えるのは早計だと不二崎は感じていた。

 編集長は「記者顔負けだな」と資料を斜め読みしながらぼやいた。


「取材してみるのも手だな。ただ、無駄足になる可能性はある。この女子高生にもアタックしてみるか?」


 この火葬場の件は、不二崎のネタとして取材を一任されることになった。


「必要ならもう一人、男の記者をつける」

「いりません。一人で大丈夫です」

「心配なんだよ。ワンマンで通用するほどこの業界は甘くない。今回のコレは信憑性に欠ける」

「大丈夫です。本当に」

「分かった。だが、困ったらいつでも俺を頼れ」


 不二崎は手早く荷物をまとめ、営業所を出た。

 取材はアポイントを取るのが基本だが、不二崎は今回のように不確実性の高い情報でアポを取ることは無い。まずは現場を見て雰囲気を掴み、事件との関係を洗い出していくのが不二崎の常だった。


 さすがに11もある鈴が丘市内の火葬場を全て回るのは骨が折れる。その中でも駅から近くてアクセスのしやすい火葬場を候補に選んだ。

 次に不二崎は、女子高生からの提供情報にあった病院と火葬場の関係にも目をつけた。病院と火葬場同士が協力関係にあれば取引に好都合ではないか、と不二崎は睨んだ。


 不二崎は調査対象を、駅から近い『鈴が丘聖苑』と病院が隣接する『鈴が丘第五火葬場』に絞ることにした。

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