転生したらダンジョンコアでした

しゅがれっと

第1話 カレーうどんと異世界転生

 俺は、かねがね「人間、死ぬときはできれば堂々と死にたいものだ」と思っていた。

 たとえば勇ましく敵陣へ突っ込み、戦国武将よろしく散るとか、あるいは愛する女性のために命を投げ出すとか。そういう格好いい最期であれば、黄泉の国でも胸を張れるというものだ。


 だが現実は、まるでちがった。


 あの日、俺は学食のカレーうどんを一気にすすり上げ、己の咽喉に麺を詰まらせ、苦悶のあげく机に突っ伏したのだ。

 周囲の学生は「またやってるよ」という顔で見守るばかり。俺は白目を剥き、意識を手放した。


 ──いや、違う。まだそこで終わりではなかった。


 意識を取り戻した俺は、なんとか吐き出して事なきを得た。が、そのままよろけて学食の窓から転落したのだ。三階から地面へ一直線。

 死んだ、と思った。


 ──いや、まだだ。


 落下の途中で、偶然通りかかったサークルの先輩が乗った自転車の前カゴに、俺はずぼっと突き刺さった。先輩は驚きのあまりハンドルを切り、俺ごとガードレールへ激突。俺は跳ね飛ばされ、回転しながらアスファルトに叩きつけられた。


 ──いや、まだ終わらない。


 衝撃で吹っ飛んだ俺の体は、タイミング悪く開いていたマンホールの中に吸い込まれていったのだ。ドブの闇を転げ落ちながら、俺は「ついにこれまでか」と観念した。


 ──だが、そこにも終わりはなかった。


 下水道には廃棄されたソファが詰め込まれており、俺はふかふかのクッションに助けられたのだ。奇跡的に骨折ひとつない。俺は勝ち誇るように「俺は不死身だ」と叫んだ。


 ……そのとき。


 俺の頭上から、ネズミの群れがどさどさと落ちてきた。無数の足と牙が俺に群がり、絶叫むなしく、俺はあえなく力尽きたのである。


 英雄的な死でもなければ、恋人をかばうものでもない。

 俺の最期は、大学生らしくカレーうどんとネズミの群れに囲まれて幕を閉じたのだった。



 気がつけば、俺は真っ白な空間に立っていた。上下左右、見渡すかぎり白。雪原でも雲海でもない。もっとこう、原稿用紙のど真ん中にぽつんと立たされているような、居心地の悪さである。


 「やあ、来たね」


 声に振り向けば、そこには顎髭をたくわえた老人が、なぜか学食の椅子に腰かけていた。こんな無機質な空間に、なぜ学食の椅子だけが存在するのか。俺は訝しみつつも、直感で悟った。こいつが、神である。


 「君は死んだ。……まあ見てのとおりだね」

 老人は愉快そうに笑ったが、その目の奥にわずかな嫉妬めいた光が潜んでいるのを、俺は見逃さなかった。


 「なぜ俺をそんな目で見るんです」

 「いやいや、別に。君がこれから会うであろう“彼女”のことを思うとね、少々うらやましいなと……」


 俺は眉をひそめた。彼女? そんなもの、現世でさえ縁がなかったというのに。


 老人はわざとらしく咳払いをして、声を低める。

 「君には、特別に役割を与えよう。ダンジョンコアだ。すなわち、迷宮そのものとなり、訪れる冒険者を試す存在になるのだ」


 俺は口をあんぐりと開けた。死んだら地獄か天国だと思っていたのに、まさか建築資材扱いされるとは。


 「安心しなさい」老人は肩をすくめる。「一人ではない。君を導き、支える案内人がいる。彼女は明るく、忠実で、しかも……」


 老人はそこで言葉を切り、ぐっと目を細めた。羨望と悔しさと、少々いやらしい含みを滲ませながら。

 「神々のあいだでは、たいそう人気者でね。正直、私も少し……うらやましい」


 そのとき、ぱっと視界が花火のように明るくなり、白の世界に一輪の花のように女の子が現れた。


 「マスターっ!」


 元気いっぱいの声が響く。

 くるくると髪を揺らし、瞳は星のように輝き、にこっと笑う。彼女は駆け寄ってきて、俺の手を両手でぎゅっと握った。


 「私はフェリシア! これから、私がマスターをお手伝いします! 一緒に立派なダンジョンを作りましょうね!」


 老人神は後ろでこっそり歯ぎしりしていた。


 俺は呆然としながらも思った。

 ──なるほど、これが神をもうらやませる存在か。

 ……だが俺に言わせれば、やはり一番間抜けなのは、こんな形で“死後の人生”を迎える羽目になった俺自身なのであった。

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