第27話 大地の恵み
「それにしても、先ほどまで湧き続けていたのに、どうして急に出て来なくなったんでしょうか?」
盆城は地面を見つめながら愛に問いかける。
「武流殿。あの狂こ——小骨たちはいつもあんなに出てくるのか?」
「ああ、昨日の夜に雨が降ったからな。いつも雨の次の日は土の中から出てくるぞ」
「ミミズみたいに言いなや。骨だらけやのに、
「まさか、狂骨がそんな生体だったとは……」
「盆城はん。あいつら生きとるわけちゃうで?」
「では何故、武流殿がどんぐりを投げつけたら出て来なくなったんだ?」
「確かに。神力を込めたどんぐりをぶつけて倒した。ということは百歩譲って認めたとして、これまで我々がどう倒しても湧き続けていた狂骨たちが、どうして急に……」
「大地の恵みだ」
「「「——は?」」」
「父ちゃんがそう言ってたぞ?」
武流はそう言って猫野瀬の背後に視線を送ると、そこには木にもたれかかるようにして居眠りしている渚がいた。
そういえば渚もここに来ていたのだということを思い出す三人。
「この状況でよう寝れるな……」
「流石は武流殿のお父様といったところか……」
「私には未だにあの人が父親には見えないんですけども……」
ぐっすり眠る渚を見て、呆れたような、諦めたような表情になる三人。
「しかし大地の恵みってどういう意味や?」
「何でも、神力を込めたどんぐりを地面に植えるると、その力でしばらくは湧かなくなるから、定期的に散布しておいてくれって言われてる」
「神力もこの親子にかかったら庭に撒く殺虫剤や除草剤と変わらんのやな……」
「おそらく、ですが。武流殿の神力がどんぐりを通して大地を浄化しているのではないでしょうか?呪符などを使った結界でもないので、言っている私自身も信じられませんが……」
「それだけ武流殿の神力が強いということなのかもしれない。物に込めた力すらも、しばらくの間は効力を発揮するほどに」
「やはり、護符や呪符と同じような物と考えれば良いんですかね?」
「まあ、そうだな……。ただ、武流殿の場合は、手に持った物なら何でもそうなりそうではあるが……」
「絶対になるな。間違いないわ」
「そんなに褒められるようなことじゃないぞ?」
「褒めるいうよりは呆れとるんやけどな。あんたの常識の無さ加減に」
「あのお……」
武流の非常識さの確認をしていると、先ほど刀を持って戦っていた第一師団の一人が申し訳なさそうに声をかけてきた。
「ん?ああ、お前たちも無事だったか?」
「ええ、神力が尽きかけていて多少頭がふらふらしますが、他の団員たちも似たようなもので、大きな怪我を負った者はおりません」
「そうか。なら良かった。作戦通りとはいかなかったが、結果的に全員無事だったのならそれで良い」
盆城は安心したといった表情で大きく息を吐いた。
「いえ、それなんですが……」
「ああ、言わなくても分かっている……怒真利師団長のことだろう?あの方のことは残念だったが、これも任務の内。そして師団長が自ら望んで戦っての結果だ。お前たちが気に病む必要は——」
「いえいえ、そうではなく。あれが……」
団員が指さした方向には、四つん這いになっているがしゃどくろがいた。
しかし、その顔は彼らとは逆方向を向き、ゆっくりした動きで、誰にも気付かれないよう、静かに物音を立てずに祭儀場から離れようとしていた。
「あ、そうや。あれがまだ残っとったんやったな。何やもう終わった気持ちになっとったわ」
武流の予想外の行動のせいで、すっかりその存在を忘れられていたがしゃどくろだった。
「武流殿。あれも任せて良いだろうか?」
愛の言葉が聞こえたのだろうか。
離脱を図ろうとしていたがしゃどくろの身体がビクンと震え、その背後に大きく『ギクゥ!!』という文字が見えたような気がした。
そしてゆっくりと武流たちの方を振り返るがしゃどくろ。
白骨というくらい白いはずのしゃれこうべはどこか青ざめているように見え、闇に繋がっていた眼窩には血走った眼球がいつの間にか現れては落ち着きなくキョロキョロ動いており、水分など枯渇したはずの身体にも関わらず、どこからが額か分からない頭部から大量の汗を流している。
がしゃどくろはすでに察していたのだ。
目の前に現れた中年のおっさんは、決して自分が関わってはいけない存在なのだということを。
生命の無い身体にある生存本能という矛盾。
しかし、今確かにがしゃどくろは恐怖というものを初めて経験していた。
「あいつ逃げようとしとるな」
「山裾におりたところで人の住んでいる街も無い。別にそれほど問題ではないかもしれないな」
「確かにそうですね。どうします?逃げるんだったらこのままにしときますか?」
「いやいや!皆さん何を言ってるんですか!?がしゃどくろですよ!?放っておいたらこの先どんな災難が訪れると思ってるんですか!?」
三人の呑気な様子に慌てる団員。
それはそう。
何の為にさっきまで自分たちが命がけで戦っていたというのか。
「あ、ああ、そうだな。確かにお前の言うとおりだ。あれ?どうして俺はこんなことを思ったんだ?」
「あかんな……。うちも何か感覚がおかしなってもうとる……」
「武流殿を見ていると、がしゃどくろが少し大きい狂骨くらいに思えてしまうな……」
「まあ、あれを倒すのが俺の仕事だしな。ちょっと行ってくる」
コンビニに行くかのような気軽な言葉を残して、武流はゆっくりとがしゃどくろの方へと歩きだした。
こうなると堪らないのはがしゃどくろ。
大きめの狂骨という侮辱を受けた怒りもあったが、今は武流への恐怖の方が遥かに勝っていた。
もう少し離れることが出来ていたなら逃げきれる可能性もあったかもしれない。
しかし、この距離で気付かれた以上、逃げようとしても先ほどの意味不明の攻撃を食らう可能性が高い。
では戦うか?
いや、まるで勝てる未来が見えない。
近づく前に光の散弾でハチの巣にされるのがオチだろう。
そんなことを考えているうちに、武流は一歩ずつ近づいてきており、ますます逃げられる確率は下がってきている。
そしてがしゃどくろの下した決断は——
一気に立ち上がり武流の方へと振り返る。
「グオォォォォォ!!!」
そして渾身の咆哮。
大気が震え、周囲の木々の葉や、砂埃が舞い上がる。
「うわぁ!!」
突風に襲われた団員たちが次々と飛ばされていく。
愛と盆城は咄嗟に持っていた刀を地面に突き刺して耐え、猫野瀬はその愛の背中に隠れる。
武流も周囲のことが気になり一瞬足を止めてそちらを見た。
がしゃどくろが狙って作った一瞬の隙。
絶体絶命の瀬戸際で生まれた奇跡のアイデア。
してやった!
そう確信したがしゃどくろは巨大な脚を振り上げ——
くるりと再び身体を反転させて逃走を図ったのだった。
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