第23話 激突
怒真利率いる第一師団は一目散に村の入り口を目指して駆けた。
そして文化祭入場ゲートを潜り抜け、自分たちが先ほど通ってきた小道を走り抜け、先週愛たちががしゃどくろと対峙した村の祭儀場へと到着した。
到着と同時に怒真利はにやりと笑みを浮かべ、師団員たちは目を見開いて足を止めた。
「なかなかの大物じゃないか。最後に戦ったのは五年、いや六年ほど前か」
そこにいたのは森の中より祭儀場を見下ろす巨大なしゃれこうべ。
怒真利が戦ったという当時を知らない師団員たちは半数以上おり、そのあまりの巨大さに思わず息を飲んだ。
「怒真利師団長。本当にお一人で戦われるおつもりですか?」
副団長代理として従軍している
「当然だ!あの若造に出来たのだからワシに出来ない道理はない!」
武流をおっさん呼ばわりしたり若造呼ばわりしたりと忙しい怒真利。
未だ彼の中でのポジションが定まっていない模様。
「そこまで言うのでしたら止めませんが、危なそうになれば我々も動きますよ?」
「いらん!不要だ!そのようなことにはならん!」
「そうならないことを願ってますが、我々とて上官を見殺しにした薄情な団員というレッテルを貼られたくはないですからね」
「その時はワシがちゃんと説明してやるわい!」
「あの世からですか?その時は迷わず成仏してくださいよ」
「縁起でもないことを言うな!そうなる前に助けろ!」
「はい。言質はいただきましたからね。さ、早く行ってください」
「あ!いや違う!今のは言葉のアヤで、助けて欲しいわけでは——」
「良いから、早く行け!」
盆城が怒真利の背中を強く蹴り飛ばすと、その勢いのまま見下ろしているがしゃどくろの眼下まで進み出た。
上官にこれだけのことが出来るのであれば、最初から単独で戦おうとしているのを止めろよと思わないでもないが、盆城には最初から怒真利を制御する意思など全くなかった。
彼の任務は怒真利を押さえることではなく、彼の望みを全うさせることであったからだ。それが本来の副団長の意思であり、盆城にとっても果たさねばならない使命でもあった。
「ゴアァァァァァ!!!」
二人の茶番を見せつけられていたがしゃどくろが苛立つように叫ぶ。
一応、武流よりは空気を読んで待ってくれていたようだった。
瘴気を孕んだ咆哮が突風の様に怒真利に浴びせられ、背後にいた師団員たちにも不快な空気を運んだ。
「待たせちまって悪かったな。まあ、その分の礼はたっぷりしてやるから許してくれや」
怒真利は口元をにやりと歪めると、首から下げていた数珠を迷彩服の中から取り出し、自分の右腕に絡めるように巻き付ける。
「さあ、やろうや!!」
怒真利が叫ぶと同時に、正面の木々を抜けるようにして巨大な骨の拳が枝葉を吹き飛ばしながら迫ってくる。
「ふんぬぉぉぉぉぉぉ!!」
その拳に向かって一歩踏み出し、地面を強く踏みしめる。
そして数珠の巻かれた右腕で迎え撃つようにパンチを放つ。
大型トラックほどの面積のあるがしゃどくろの拳。
大きいとはいえ人の基準である怒真利の拳。
その質量差は比べるまでもなかったが、両者の拳がぶつかり合った瞬間——ガアァァァン!!という爆音が鳴り響き、互いの拳圧の起こした衝撃波が周囲に突風となって吹き荒れる。
互いの拳は触れ合ったまま空中で静止しており、圧倒的不利に見えた怒真利ががしゃどくろの攻撃を受け止めることに成功していた。
おおーという歓声が後方から上がる。
もし受け止めきれなかった場合、今頃自分たちも巻き添えを食らっていたかもしれない状況だったのだが、すでに腹をくくっている彼らにとって今目の前で起こっている戦いは、テレビの中にある怪獣大決戦と変わりなかった。
がしゃどくろは拳を引くと、それまでしゃがんでいた巨躯を起こした。
10メートルを超える巨体が遥か上空から怒真利を見下ろす。
いや、正確には眼窩に眼球はなく、そこには深い闇が広がっているだけ。首の角度から怒真利の存在を確かに捉えていることを察した。
「ゴアァァァァァ!!!」
がしゃどくろは叫ぶと同時にカルシウムたっぷりな骨太の右足を振り抜く。
手前にあった太い木が数本途中からへし折られ、怒真利と、その後方の師団員たちのいる方角へ向かって飛んでいく。
「回避!!」
盆城が叫び、師団員たちは瞬時に各々がその場から飛び退き難を逃れた。
「おらあぁぁぁぁぁ!!」
怒真利は自身へ向かってきた木を上方へ跳んで回避すると、着地と同時にがしゃどくろに向かって走りだす。
「悪霊退散!!」
腕に巻いていた数珠を外し、両手で身体の前に広げる怒真利。
輪となった数珠から眩しい光が放たれ、それがビーム状となってがしゃどくろの右足に直撃した。
陶器の砕けるような高い音が鳴り響き、がしゃどくろの脛骨が砕け散った。
片足を突然失くした事で大きくバランスを崩すがしゃどくろ。
体勢を保とうと地面へと伸ばした右腕。
怒真利はその腕に飛び乗ると、一気に骨の回廊を駆け上がる。
一気に勝負を決める!
それは油断でも予断でもない、経験から感じられる勝機。
正直分が悪いと思っていた怒真利だったが、思っていた以上に自分のペースに持ち込むことが出来た。
逆にここでトドメを刺せなければ勝ち目は薄くなるだろうという予感もあった。
出し惜しみはしない。
自分の最高の一撃で仕留める。
肘を越えたあたりで手にしていた数珠をがしゃどくろに向かって投げつける。
「
数珠はバラバラになり、それぞれの珠が輝きながらがしゃどくろの身体を囲うように不規則に広がっていく。
「
珠から放たれた光が互いに繋がっていき、それはさながら光の鎖のようにがしゃどくろの身体を拘束する。
「くたばれやー!!」
叫びながら素早く両手で複雑な印を結んでいく怒真利。
印の進みに従うように光を増す数珠陣。
がしゃどくろを締め付ける神力は先程武流に見舞ったものとは段違いであり、がしゃどくろを磔にする光の柱のごとく天へと伸びていった。
印の完成は目前。
完成と同時に集積された神力ががしゃどくろを冥府へと送り返すだろう。
それだけの手応えを感じていたし、残り数秒でこの状況が変わるとは思えなかった。
そしてこれは油断であり、予断であった。
彼はもっと戦いに集中すべきであった。
それこそ周囲の雑音が聞こえないほどに。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
聞こえてきたのは師団員の悲鳴。
しかもそれは一人ではなく怒真利の後方の至る所から一斉に上がった。
怒真利の印を結んでいた手が止まり、反射的に振り返ってしまう。
それは彼の師団長としての責任感が起こしてしまったことであり、到底彼を責めることは出来ない。
そして振り返った怒真利が目にしたのは、数十体の狂骨に襲われている師団員たちの姿だった。
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