《金の加護》

「古来より神は海で生まれ、海によって水や土、火や木……そして、富の継承となる金を神として崇めるようになった。ただ、金の神は忽然と失踪を遂げて、その代わりに人間が継承していたんだ。そして失踪した金の神は金の加護を持つ人間を生み出し、その存在を保った。――それが十数年前、金の加護として生まれ落ちたのが海月だ」

「金の加護が……俺?」

 驚愕する海月にモグラは自身が当たらない四柱推命の話もしだした。だが四柱推命は中国から伝来した占星術の一つであり、その五行ごぎょうとして神々の供物争いで影響し合うらしい。

「それぞれも共鳴し助け合うことができれば、拮抗する力もある。火は水に弱いとかそういうのとかね。だから俺は土を司るから不利ではあったんだけど、水の力もあるから勝てたってわけ。……火は燃えて土を生み出すから使役されやすいのさ」

 冷茶を飲みながら神々の仕組みを説明するモグラに海月は自身の存在を認識する。言われてみれば、金に困ったことが一度もない。貧困で困っているのなら野垂れ死んでいるはずだ。

 それはモグラのおかげでもあるが、自分自身の生末だったのかと思うと納得がいく。

「でも、モグラさんはどうして俺を助けてくれたんですか? 俺の先祖との約束だって言っていましたよね」

「そう。お前のご先祖様との約束さ。言っただろう? —―俺が守ってやるって」

 そう告げてから悪戯に微笑んで海月の頭を撫でるモグラへ海月は赤面した。やはり恩師……いや、大事な人には勝てない。

「ったく。どうして土を司るはずのモグラが海にまで影響を及ぼすのか知らないがな。……海のモグラよ、お前は神々を敵に回しているぞ?」

 しゃがれた火実の声にモグラは少し考え込んでから「なんとかするよ」そう意気込んだ。

「だって、海月は海の神に一番狙われているからね。海の神が来ない限り大丈夫っしょ」

「……能天気なモグラだな」

「俺は海さえも統べられるからね。どんとこいよ」

 モグラは冷茶を飲み干し、同じく飲んでいた三人にも冷茶を継ぎ足した。礼を告げる三人ではあるが……火実は不服そうであった。

「おい。俺を人間の姿か元の姿に戻せ、供物よ。……そしたらお前を食ってやる」

 モグラが不敵な視線を向けた。そのあくどい笑みは海月や三重、甲斐も震えさせる。

「海月が命じない限り、お前は一生ニワトリだから」

「……なに?」

 虚を突かれた火実にモグラはニワトリを見定めて、にっこりと笑った。

「お前は海月に命令されない限りねぇ、一生ニワトリだよ。……このニワトリ野郎」

「なんだと!??? おい、供物よ! 俺を人間にしろ!」

 火実に睨みつけられるがモグラに「気にしなくていいよ」そう言われて海月は可哀そうだが気にしないようにしたのであった。

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