《戻った感情と仕組み》
そのまま海月は砂浜に向かってクロールで泳ぎだしていく。まるで海を知る人魚のような見事な遊泳だ。だが迫るのは巨大なモグラのような怪獣で、海月を欲している。大きな口元をがばりと開けている姿はまるでサメのようだ。しかし海月は負けずに泳いでいく。足元を震わせることもなく果敢に泳いでいく。
海月は服を着ているというのにも関わらず先ほどよりも
そして差し迫る海の神に向けて放つのだ。「あなたは海の竜と書いて、――
その瞬間、海の神は、いや海竜は身体を震わせたかと思えば段々と縮こまっていき、……一匹のモグラになってしまったのだ。小さなモグラはあのよく知っているモグラと瓜二つだが、やはりこちらの方は気品があるなと海月はふと感じた。
「う、ぐぅ……。き、きさ、貴様、捨てられた、はずの……、”感情”を、思い出した、のか?」
海竜が這い上がるように砂浜に乗り上がる。そこを海月が救うように手を差し伸べて濡れた海竜の身体を優しく手櫛で梳かした。
海竜が水しぶきを上げて身体を震わせる。「やっぱりモグラさんと一緒ですねっ」どこか感情を噴出した海月はにこりと笑んでいた。
海竜は不機嫌な顔つきになる。
「貴様、なにか楽しんでいるだろう? だが、勘違いするなよっ。私が不在となった今、神々が大混乱と化しているだろう。そして、神々は貴様に災難を犯すであろう。それでも良いのかっっ!???」
海月は考え込んでからにこりと微笑んだ。その笑みは別にそれでも構わないというニュアンスを感じさせる。
「大混乱に陥っているのは、俺があなたを使役できたという事実でしょう? 俺は今までそのルールに気づかなかったんだ。あなたに名を命名して使役できるのも、自分の感情があまりなかったのも、わかったんです。――すべて繋がったんです」
海月は息を吐いた。「疲れましたね。家に帰りましょう」今度は海竜が驚いた。そしてそこへ樹々を掻き分けて楓たちが現れた。火実や項垂れているモグラも居る。
楓が先に声を掛けた。「あんたビショビショじゃないっ! って、そのモグラは……?」戸惑いの声を上げる楓に火実は勘づいた様子だ。
「お前はっ、海の神ではないかっ!?」
「えっっ!??? うっそっ、嘘でしょっ!???」
驚きを隠せないでいる火実や楓に海月は火実の背中に乗っかっているモグラへ声を掛けた。モグラは動物フォルムとなっているが、海月は構わずにモグラも抱き締める。双子の兄である海竜とその弟のモグラの姿はやはり瓜二つだ。だから確信した。――モグラが今まで隠していたことを。
「火実さん、まずはあなたを人間の姿に戻してからあることを話そうと思います。それは楓にも聞いて欲しい」
「……俺は構わないが」
「あたしも、――別に」
「ありがとうございます。でもその前に、シャワーを浴びさせてください。やっぱり、海の中を泳いだので塩臭くて……。ちょっとべとつくので家に帰ってから話しますから」
そんな海月はどこか緊張した面持で一匹と一人に話し掛けていた。それからかなり怯えている様子の警備員を探し出し、海月は術を唱える。
「金の呪縛よ、今、貴殿の前から消え失せろ」
すると金の輪っかは警備員の男を拘束から外し、海月の胸に戻って行った。その姿を見て、火実や楓は驚愕する。海月は今、とんでもないことをしたのだ。それは、海の供物として捧げられた人間が成し遂げられないはずの芸当を。金の
「さて、じゃあ家に帰りましょう。あー、お腹空いた。やっぱり大荒れの海を泳いだから、さすがに疲れましたねぇ」
やはり普段の海月と違う。まるでモグラが乗り移ったかのような佇まいだ。不審に思いつつ、海月たちは家に帰り海月はシャワーを浴びていた。
その間、モグラは言葉を発さずにぐっすりと眠っていたのだ。
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