《怒らないで》
海月がモグラへ内心、困惑と憤りで満たされいるがなにも知らない三重と甲斐は火実を撫でていた。
「う~ん、お礼か……。じゃあ、火実を一日中撫でさせてくれるとか?」
「あっ、それいいね! 火実さんお散歩券とか!」
「それもいいな!」
「おい……なんで俺がお前らの子守りをしないとならないんだ?」
ニワトリの姿で双子に身を預けられている火実ではあるが、モグラはニヤつきながら「じゃあそれも含めてでいいや」などと勝手に約束している。
すると火実が両翼をバタつかせて二人から離れようと画策した。だが三重が抑え込んで甲斐が火実の腹部を撫でまわした。火実が気持ちよさそうに身体を震わせる。双子は企んだようにニヤけた。
「ふふふ……。火実の可愛い姿が見られるなら、俺は身体張れるぜ」
「火実さんの嬉しがるポイントは熟知していますよ?」
「……このっ、双子めっ!」
「――なに火の神さまに変態行為してんの?」
可哀そうな瞳で見つける楓に火実は恥ずかしさも相まってまた暴れ出したが、再び三重が抑え込んで甲斐が撫でまわす。
もうなす術がない可哀そうなニワトリにモグラは軽く微笑んだ。
「じゃあ俺の手料理でも食べる? 虫料理が得意なんだけど」
「それは……結構です」
「俺もやめておく」
二人が身震いして拒否すれば甲斐が思いついたように声を上げた。
「そうだ! またご飯食べに来てくださいよ。それでいいです!」
「あー、それか海月の占いして欲しいな~。海月はそれじゃあ駄目か?」
「えっ、えっと……」
思考に耽っていたので急に話を振られて戸惑う海月ではあるが、また仁田たちの家族とご飯を食べるのは緊張するなと思った。
だがなんとなく、仁田が作ってくれたご飯や美波の可愛らしい笑顔、そして大家族特有の温かくアットホームな雰囲気はまた触れたいなと願った。
モグラに視線を向けて「どうしますか?」そう尋ねるとにっこりと微笑んで「じゃあ火実と楓も連れて行きますか!」元気良く返答した。
「はぁっ!?? なんであたしも行くのよ?」
「楓も居た方が楽しそうじゃん~。ねぇ、良いでしょ?」
三重と甲斐に目線を向けてモグラが微笑めば、三重は文句がありそうだが甲斐はにこやかに承諾をしていた。
「ぜってぇ親父もこんな横暴女なんか上がらせねぇよ」
「なによ、ヤンキーツリ目」
「なんだと露出狂女!」
「まぁまぁ二人とも~、喧嘩しないでよ」
甲斐が間に挟まって仲裁に入るが、二人は睨みあったかと思えば反対に向き合った。その様子を見た海月は、どっかのモグラとどっかのニワトリの喧騒を想起して密かに微笑むのだ。
甲斐が父親である仁田に連絡をしてから支度をしてバスに揺られて約一時間。
火実がニワトリの為、どのように運ぼうかを議論になったが三重が「俺が腹に入れる!」などと抜かし、本当に制服のなかに火実を仕舞い込んでバスで移動をした。だが途中でリュックに入れれば良かったのではないかというのにも気が付いたらしいが、三重は腹の中で火実を入れ込んでいるのに満足しており「ふわふわであったかくてきもちぃ~」頬を緩めて腹を抱いている。……周囲が奇異に見ていたが。
「……なにこいつ、気持ち悪い」
「まぁまぁ楓さんもそんなこと言わないで下さいよ。でも火実さんって可愛いんですよ? 僕もあとで撫でさせてもらおうっと!」
「――あんたたち、火の神さまに恨まれるわよ?」
楓は初めて乗るバスに内心興奮しつつも、バレぬように甲斐にちょっかいをかけている。だが甲斐は元来、三重とは違って平和を望む主義ではあるので楓の挑発的な言葉はひらりと
そんなこんなで仁田宅に近い停留所に降りて、皆で歩いていく。火実も三重の腹部から降り立ったかと思えば、今度は甲斐にひょいと担がれてお腹へ抱かれていた。
「あ~、やっぱり火実さんあったかい~。ほかほかだ~」
「……貴様らが変態だというのがよくわかった」
この借りは覚えておけよなどと火実が告げているが耳に届いていない様子の甲斐と三重に、楓は可哀そうな瞳でニワトリを見つめるのであった。
一方、モグラと海月はほとんどしゃべることはない。これは異常事態かと思うほどの出来事であった。
海月は人とはあまり話さない方ではあるがモグラは特別だ。海月にとってモグラは恩人で親のような存在で大事な人なのだ。一番素直になれる存在でもある。
だが今は楓の言葉が気になって仕方がない。会ったこともなく目にしたこともないが、モグラと瓜二つだと言われた海の神の存在。――自分が幼い頃に供物として捧げられるはずであった、……神の存在。
しかし瓜二つだと言われている神もどきに助けてもらい、育てられたという事実。
モグラはしきりに海月との先祖の約束だと告げているが……果たして本当はどうなのだろう。
(――モグラさんは本当に俺を守ってくれるのかな?)
海月は聞いてみたいが怖いという気持ちに駆られた。裏切られるのが怖いのだ。だから聞けずに黙っていることしかできない。
「なぁ海月」
モグラがいきなり海月に話しかけ、歩調を合わせた。「今は全部言えないけれど、ちゃんと話すからさ。だから……そんな顔しないでよ」
「……そんな顔ってなんですか」
「怒った顔しないでよってことよ。まったく、ウチの子は寂しがり屋なんだから」
優しく笑いかけられて海月に弁明するモグラの愛嬌ある姿に、ふて腐れていた海月は優しくされて少しだけ気持ちが晴れた。
やっと歩いて仁田宅へ到着し、三重と甲斐が玄関を開けてリビングへと通す。
「ただいま~」
「海月さんたち連れて来たよ~」
キッチンでは鼻歌を歌いながら作る仁田と、啓二と一緒に学校の宿題をしている美波が瞳を輝かせていたのであった。
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