《ゲームセット》

 悔しそうな顔をしている木風ではあるが、ドローをしたカードにニヒルな笑みを見せた。それから笑い声を上げる。

「あっはははっっ!!!!! あんたたちの負けね。このカードなら、――あたしの方が優位に立つっ!」

「……なんだと?」

 三重は訝しんだ。それは甲斐もだ。すると木風はカードを盤上に置いたのだ。

「魔女の蝶、召喚っ! 魔女の蝶の効力により、主人格を変えることができる。あたしが変更するのは……そこの供物よっ!」

「なんだとっ!?」

「えっ!???」

 魔女のローブを纏った大きな蝶が海月を羽交い絞めし、モグラのイタズラ時計と交換する。ちなみに海月の攻撃力は3で守備力は2だ。さすがにこれではまずい。

「魔女の蝶は攻撃力が10。……これで、海の供物にダイレクトアタックっ!!」

 木風は攻撃宣言を放った。これならば海月を供物として献上することができるはずだと自信たっぷりだ。

「ふ、ははははっっっ!!!! あたしの勝ちよっ。ざまぁないわねっ!」

「……ちげぇよ」

「はっ? なに言ってんの?」

 三重は企んだように笑んでいた。それは海月に隠された秘密の効力だ。だから海月は攻撃守備ともに低いのである。

「海月の能力発動っ! モグラのイタズラ時計とセットである場合、自分の主人格を一時的に保護できる。そしてその効力は相手のモンスターにチェーンして発動が可能っ!」

「なんですってっ!???」

「さらにっ! モグラのイタズラ時計の効力発動。変えられそうになった主人格が自分よりも守備力、攻撃力が下の場合、運命の時計を動かし、そしてその運命に従って自身の攻撃力を上げる!」

 モグラのイタズラ時計がぐるぐると回る。海月はなんとなく自分の運命が見えた気がした。自分は多分大丈夫だという自信がどうしてだが湧いてきた。モグラのイタズラ時計はモグラと離れ離れでいてもずっと一緒だという証であるから。

 モグラのイタズラ時計の針が10で止まる。つまり合計、海月の攻撃力はKとなる。海月は静かな時を超えて魔女の蝶に示す。

「あなたは俺に滅せられる運命です。――さよなら」

 魔女の蝶は海月に触れた途端に、塵灰となって消失した。そして折りたたむように三重と甲斐が攻撃態勢に入る。

「これで決着をつけるぞ。――木葉の蝶は火実に」

「そしてモグラさんは君に、――ダイレクトアタックだっ!!!!」

 三重と甲斐はそれぞれ放った瞬間、火実は業火の如く燃え盛る炎を纏って木葉の蝶を焼き尽くした。その一方でモグラは静かに、だが空を裂くように術を唱える。

「水よ土よ、我の両腕に弁を立つ矛先を――示せっ!」

 それから駆け足で宙を舞い、木風へダイレクトアタックをしたのだ。叫び声が聞こえてから盤上が揺れ、吸い込まれるように二人と一匹は宙を浮いて空を翔けた。


「大丈夫かっ、三人ともっ!」

「平気でしたか?」

 気が付けば茫然自失している木風と勝負に勝った双子が居た。三重と甲斐は同時にハイタッチし海月たちを心配してくれた。海月はゆっくりと頷いた。

 すると甲斐も三重も安堵したようだ。それから二人は興奮したように話し出す。

「良かったですよ~。でもモグラさんも火実さんも結構強いカードでしたね! 欲しくなっちゃうなぁ~」

「本当にそうだよな! 火実は断然っ、かっこよかったし!」

「でも、海月さんもモグラのイタズラ時計も欲しかったなぁ~」

「でも一番は火実だろ?」

「そうだねっ」

 火実を三重が抱き締め、甲斐が火実を撫でていれば「まったくお前らは……」などと呆れつつ少し嬉しそうに鳴いていた。

 海月は先ほどの光景がまるで現実感がなかったようでぼんやりとしていると、急にモグラに肩を突かれたのだ。

 海月ははっとして振り向く。するとモグラが提案した。「とりあえずこの子を海月の支配下に置こう。使えそうだしね」

「あっ、はい」

 海月は承諾し、それから少し考えて名付けたのは—―

「君は木風改めかえで。よろしくおねがいします」

「なっ、楓って!???」

 楓と名付けられて金の輪っかで拘束されてしまった彼女は、勝負に負けたことを悔やんだ。ちなみに金の輪っかは見えないが、神でさえも支配する力を持つ。

「くそっ……。モグラとニワトリが強いから良くなかったのよ! あたしが後攻だったら、モグラとニワトリが駄目でも供物は捧げられたのに」

「供物じゃなくて海月ね、楓?」

「楓、俺は海月です」

 海月の言葉に従うように楓は苦虫を噛むような表情を見せたかと思えば「……海月」そう苦々しく言い放った。

 だが戦況は違っていたらしい。

「お前の魂胆は丸見えだから、そしたら全員を守備表示にして守備の数字カードを当てはめるよ。残念だったな~、こっちの手札には数字カードしかなかったんだよ」

「今回は運が味方に付いてくれたね。はぁ~、全国大会より緊張した」

「えっ、全国大会って……」

 まさかと思っていたがそのまさかであった。

「俺と甲斐はタロンプの全国チャンピオンだぜ」

 三重が勝気な笑みを零した。すると甲斐も付け足したように話す。

「でも、今回ばかりはみんなに助けられたましたけどね」

 火実を撫でながら素直な感想を零していたが……楓が身体を震わせていた。「なによそれ……」そう呟いて項垂れていたのだ。

 海月はどう声を掛ければ良いわからずに困惑していた。

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