第49話 新しい日常

週の初め、美香は初めてのリモート勤務の日を迎えた。いつもなら朝早くスーツ姿で家を飛び出すのに、この日は蓮を保育園に送ってからリビングのテーブルにノートパソコンを広げる。

 「ママが家で仕事してるなんて、ちょっと不思議だね」

 結衣が笑いながら言った。彼女は受験勉強の合間に台所からお茶を運んできてくれる。


 オンライン会議の合間に、ふとベビーベッドの写真立てを見やる。そこには、入園式の日に撮った蓮の笑顔が飾られていた。

 「この働き方なら、蓮の成長も近くで感じられる」

 そう思うと、心が少し温かくなった。


 一方で、職場からの電話は容赦なく鳴る。案件の進行や部下からの相談、取引先への対応──課長としての責任は消えない。

 「やっぱり甘くはないな」

 仕事に集中する美香の姿を見て、健一は帰宅後、すぐに夕食の支度に取りかかった。

 「今日は俺がカレー作るから。たまには任せて」

 エプロン姿の夫に、美香は思わず笑みをこぼす。


 そして夜。

 蓮を抱っこしながら結衣が言った。

 「ママが家で仕事してるの、私も頑張らなきゃって思える。大学入ったら、もっと蓮くんのお世話手伝うから」

 その言葉に、美香は胸がいっぱいになった。


 新しい働き方は、慣れないことも多い。けれど家族がそれぞれ支え合う中で、佐藤家の日常は少しずつ形を変え、確かに前へと進んでいた。

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